EXCELシミュレーションハイブリッド・コレクターとボトミング・サイクル発電グリーンウッド |
|
目論見
「自由人のエネルギー勉強会」を主宰されている森永先 生はPVは広大な設置面積を必要とする。しかるに日本は狭い。打開策として海面に浮かぶソーラーセル(PV)を開発したらどうかと考えられた。自宅に採用 した日本板ガラス製の2枚のガラスを0.2mm径の 金属製のマイクロスペーサーによって隔て、間隙を真空にする窓ガラスにヒントを得てこの空隙にシリコン薄膜セルをPVを直接成膜することを思いついた。
このペアガラスはオーストラリアで発明されたもので日本板ガラスだけが実用化して市販している。コストはフロートガラスの10倍のコストであるという。2 枚の板ガラスは450-500oCという低融点のガラスを接着材として加熱溶着してある。真空にするための排気穴も同じ融点の低い ガラスで埋めてあるという。
これを海に直接浮かべればその下の海水が暖まって温度差発電もできるのではないかと構想は発展した。嵐のときには海面下100m程度に沈め、破壊から守り ながらPV発電と温水利用の温度差発電の両方で発電量が倍増するのではないかというものだ。
発電効率7%の低効率のアモルファス・シリコン薄膜PVは多量生産で製造単価が100円/Wとなると予想されている。このPVを真空二重ガラスに封じ込 め、スチロフォームなどの保温箱と組み合わせれば250円/W程度の建設単価で電力と温水を製造するハイブリッド ・コレクターを作ることができる。このときの発電単価は最新技術を使う再生 可能電源の発電原価によればグリッド ・パリティーの25円/kWhである。そしてただの温水という副産物が得られる。この温水で温度差発電しようというものだ。 グリッドパリティーの発電単価を維持しながらPVとあわせ出力が倍増できる魅力は大きい。
薄膜シリコンPVは価格の低下に成功したため土地の単価が安い外国で大マーケットを制覇しつつある。しかし効率は一桁で設置面積が多く必要という問題があ り、日本の狭い屋根設置だけでは3-4kWの家庭の電力消費をまかないきれない。複雑な形状の屋根に設置し陰になる部分があると直列結線のため抵抗が増し て発電能力の低下が全面に波及する。
PVなどは自動車や家庭用空調機と同じく多量生産によってコストダウンを図る技術体系に属する。多量生産体系も最終的に到達する構成部材の重量当たり単価 が大型化とほぼ同じになる。一方温度差発電などの熱サイクルは大型化によってコストダウンを図る技術体系に属する。両者を組みあわせる場合、分散設置され るPVから熱を集める配管のコストがかかる。そこで熱サイクル機関も多量生産によるコストダウン可能なサイズに下げて分散設置し、集熱配管を短くすること にした。
熱サイクル機関を多量生産とするためのサイズは家屋の屋根の面積に相当する集光集熱面積40m2規模をモジュール化することにし た。
かくして温水をヒートソースとし、30oCの大気、20oCの海水あるいは32oC の冷却水をヒートシンクとする熱サイクルでボトミングが構想できる。 検討したサイクルとしてはアンモニア−水ランキン・サイクル、ウエハラ・サイクル、ペンタンサイクルである。
ハイブリッド・コレクターの熱収支
地表の正午の最大太陽輻射をIEC60904-1 AM1.5放射照度:Q/A=1kw/m2
フロートガラス製のカバーガラスの可視光透過率hc=0.8 とする。
PVの発電効率は7%、受光面積A=5mx8m=40m2とするとPVの正午の最大出力W= 40x0.07=2.8kW
PVの温度tpの時の Stefan-Botzmann's equationは
E=4.88((tp+273)/100)4 (kcal/m2h) または E=5.68((tp+273)/100)4 (W/m2)
真空/酸化錫にフッ素をドープした透明導電性酸化物皮膜電極(TCO)/薄膜シリコンp-i-n膜/反射電極/基盤ガラ スからなるPVの熱放射率:e=0.05とする。
PV膜からガラス基板熱伝導含む温水への総括伝熱係数:U=50kcal/m2 h C=58.2W/m2 C
スチレンフォーム保温材(l=0.02m)の伝熱係数:k/l=0.084W/m2 C
大気温度:ta=30oC、温水比熱:Cp=0.997kcal/kg C
マイクロスペーサーの熱伝導やエッジの熱損失は無視すると。
以上の連立方程式をエクセルのゴールシークで解くと
単位 | 空冷アンモニアー水 | 海水冷アンモニア水 | 冷水塔ペンタン | |
温水入口PV面温度:tp1 | oC | 100 | 90.35 | 100 |
温水出口PV面温度:tp2 | oC | 100 | 100 | 100 |
カバーガラスを透過してPV面へ到達する太陽輻射:Qp | kW | 32 | 32 | 32 |
PV発電量 | kW | 2.8 | 2.8 | 2.8 |
温水入口PV面から宇宙への輻射損失:Qpu1 | kW | 2.2 | 1.98 | 2.2 |
温水出口PV面から宇宙への輻射損失:Qpu2 | kW | 2.2 | 2.2 | 2.2 |
PV面から温水への伝熱量:Qpw | kW | 27.0 | 27.11 | 27.0 |
保温箱から環境への熱損失:Qi | kW | 0.167 | 1.44 | 0.167 |
温水の昇温に使われる熱量(集熱量):Qw | kW | 26.84 | 26.97 | 26.84 |
温水循環量:G | kg/h | 694.9 | 538.9 | 6,879 |
温水入口温度:t1 | oC | 64.7 | 54.86 | 86.6 |
温水出口温度:t2 | oC | 98 | 98 | 90 |
単位換算:0.859845kcal/h=1W
ハイブリッドコレクターとボトミング・サイクルの総合効率
ケースー1:屋根設置 ハイブリッド・コレクター/空冷アンモニアー水サイクル
Hot Water temperature: 98-64.7oC
Air Temperature: 30oC
家屋の屋根に設置するハイブリッド・コレクターから供給される温水を熱源にし、30oCの空気を 冷却につかうボトミング・サイクル。下図の紺色とピンクの線がハイブリッド・コレクタの集熱量、黄色と空色が大気放散熱量、両者の差が電気出力である。
空冷バイナリー・ランキン・サイクルのTH線図
ケースー2:海面展開ハイ ブリッド・コレクター/水冷アンモニアー水 サイクル
Hot Water temperature: 98-54.86oC
Sea water temperature from the depth of 100m: 20oC
海上に浮遊展開するハイブリッド・コレクタから供給される温水を熱源にし、水深100mから汲み上げる20oC 程度の海水を冷却水にするボトミング ・サイクル。
海水冷却バイナリー・ランキン・サイクルのTH線図
ケースー3:屋根設置 ハイブリッド・コレクター/空冷ウエハラ・サイクル
Hot Water temperature: 98.0-64.68oC
Air Temperature: 30oC
家屋の屋根に設置するハイブリッド・コレクターから供給される温水を熱源にし、30oCの空気を 冷却につかうウエハラ・サイクル
空気冷却ウエハラ・サイクルのTH線図
ケースー4:屋根設置ハイブ リッド・コレクター/冷水塔冷却ペンタン・サイクル
Hot Water temperature: 90-86.6oC
Cooling tower water temperature: 32oC
蒸発曲線、凝縮曲線がフラットになるためコレクターとの循環水量を増やして温水温度もフラット化させる。また小型冷水塔でつくる冷却水を使う。このときの 温度は湿球温度27oC、乾球温度30oCとして設計する冷水塔の32oCの冷水と し、リターンは34.6oCとする。下図では顕熱部分は潜熱部分と同じ温度としている。
ケース-5: 屋根設置ハイブリッド・コレクター/冷水塔冷却スターリング・サイクル
Hot Water temperature: 90-86.6oC
Cooling tower water temperature: 32oC
パナソニックから市販されている400Wのフリーピストン・スターリング・エンジンは温度差200oC以上である。大気温度30oC 場合、 温水温度が100oCでは温度差が70oCとなり使えない。
PRO/IIで確認すると温水温度240oC 以上でないと正味出力がプラスとならない。すなわち温度差にして210oCとなる。したがってPVハイブリッド・コレクター が可能な100oCという温度レベルではスターリング・サイクルは使えないということになる。
建設単価と発電単価
建設費はそれぞれ250万円位になるとすれば建設単価は約1,389円/Wとなる。
固定型のためキャパシティー・ファクター=0.3162、ウエザー・ファクター=0.4、利用率=0.9として、1kW 相当出力の年間発電量は997kWhとなる。均等化経費率=11.98%/yとすれ ば発電単価は166円/kWhとなる。
まとめ
以上をまとめると総合効率と単価は次表の通りとなる。
ケース |
設置場所 |
ボトミング・サイクル |
温水温度 |
PV出力 | ボトミング・サイクル出力 | 合計 | 総合効率 | 最高圧力 | 冷却水 | ボトミング建設単価 | ボトミング発電単価 |
oC |
kW | kW | kW | % | atm | liter/h | yen/W | Yen/kWh | |||
1 | 屋根 | アンモニアー水サイクル | 98-64.7 | 2.8 | 1.80 | 4.60 | 11.5 | 32.6 | 0 | 1,390 | 166 |
2 | 海面 | アンモニアー水サイクル | 98-54.86 | 2.8 | 2.77 | 5.57 | 13.9 | 35.1 | 2,306 | 1,390 | 166 |
3 | 屋根 | ウエハラ・サイクル | 98.0-64.68 | 2.8 | 1.84 | 4.64 | 11.6 | 35.0 | 0 | 1,390 | 166 |
4 | 屋根 | ペンタン・サイクル | 90-86.6 | 2.8 | 2.25 | 5.05 | 12.6 | 4.44 | 34.2 | 1,390 | 166 |
5 | 屋根 | スターリング・サイクル | 150-140 | 2.8 | 0 | 2.8 | 7 | - | - | - | - |
ハイブリッド・コレクター ボトミング・サイクル総合 効率
試算の評価
ウエハラ・サイクルの効率向上効果は微小。
冷水塔と組み合わせるペンタンサイクルが熱機関として最適である。
別途報告の通り、熱サイクル機関のコストを下げるのがかなり困難。
「自由人のエネルギー勉強会」の主要メンバーであるガ ラスの専門家のT氏と某市の財政はこの会社の税金で賄われているというくらい成功したPVのマザマシンメーカーを育てたH氏に検討してもらう。
まず薄膜シリコンPVの熱放射率:e=0.05ではなく一桁多いのではないかという指摘があっ た。この指摘通りだと宇宙への熱輻射はもっと多くなり、集熱量は減少する。減少を防止するために近赤外輻射を反射する膜をカバーガラス内面につけて反射さ せなければいけないのではないかというものであった。
このほかエッジデーモンという問題がある。普及しているペアガラスは2枚のガラスの温度差、すなわち熱膨張の差を逃げるためにエッジには金属かプラスチッ クを接着して間隙はシールガスを充填する方式をとっている。日本板硝子のは特別の製品でガラス溶着方式で真空を維持している。熱膨張を一定の限度内におさ めるためにサイズを600 x 300mmと小さくしている。アスペクト比が大きくなるほど脆弱になる。この一方の面にPV膜を直接成膜すれば温度差が大きくなり、エッジのガラスシール が破損する危険が増す。
ガラスは塩水にふれて乾燥したりぬれたりすると腐食による劣化がはげしいため真空が切れてしまう恐れもある。真空の代わりに熱膨張率の低いクリプトンを封 入する手はあるが対流は防げても熱伝導は防げない。
コメントをいただいた後に薄膜シリコンPVの熱放射率をGoogle検索で調べてみると次の文献がみつかった。
第 26 回米国電気電子学会(IEEE)報告書1997.10.11東京農工大学工学部黒川浩助報告書
R. Platz/Princeton Univ., et al: Hybrid collectors using thin-film technology「アモルファスを用いた光・熱ハイブリッドモジュール」スイスとの共同研究。
太陽エネルギー吸収は通常の熱コレクタが910W/m2 のところ、アモルファス太陽電池セルの集熱量は780W/m2で 低い。しかしアモルファス太陽電池セルの窓層としてZnOを用いれば33W の集熱量増が得られる。また、TCOは近赤外領域の放射率は小さい。アモルファス太陽電池の高温動作は効率低下が小さくアニール効果も期待できるのでむし ろ好ましい。
試作した構造は、ZnOテクスチャ層+nip層+裏面反射膜+銅基板。銅基板中に熱媒体の流路を設けた。80-90oCで動作可能 である。
試算-1のハイブリッド・コレクターの熱ゲインは26.84kW/40m2=671W/m2でIEEE論文 の780W/m2にちかい。薄膜シリコンはTCO透明電極を使うことにしているので 近赤外領域の放射率は低いだろう。実際に製作して測定しないと分からないが、プリンストン大の公表値は試算-1にちかい。
もし透明電極TCO込みのPV受光面の近赤外領域の放射率が0.05より大きいなら試算-2が必要となろう。そのときはペアレックスツインガード(クリ ア)という近赤外輻射を反射する膜を採用することにしよう。これは太陽光の45%を占め、PVの起電力となる0.38-0.78mmの可視光の平均透過率hc=0.7、 太陽光の残りの50%を占める0.78-3mm近 赤外の平均透過率hc=0.2。
ハイブリッド・コレクタの今後の課題
PV面温度が100oCになっても薄膜法PVの出力低下、寿命の短縮がないのかどうか?
合金製マイクロ・ボールをスペーサーにするガラス平板2枚の間隙を真空にする技術は 膨張率の差によるエッジ損傷と真空破壊リスクがある。代案として
@真空2重ガラス内にPV成膜することはあきらめ、金属製の箱の表面にPV膜を成膜し、受光面を一枚のガラスまたはプラスチックシートで覆い、間隙にクリ プトンを封入し、金属箱内部に温水を通すなどの方法に変えざるをえない。これはPVメーカーがその気にならなければ市場にはでてこないだろう。
A市販の薄膜PVモジュールに銅チュープを埋め込んだスチレンフォーム版を張り合わせ、市販の薄膜PVモジュールの上を空気層を挟んでガラス板でカバーする。オランダのZondagらが試作して試験し発電効率6.7%、60°Cの温水の集熱効率33.4%を得た。
B太陽熱ヒーターに昔から使われてきた直径100mm長さ2m程度の2重ガラス管環状部を真空にし、内管内部にアモルファス薄膜太陽電池 を設置し、ヘリウムガスを充填し、銅製のヒートチューブを設置する構造などが使えるのではないかと思う。真空中であるからアモルファス薄膜太陽電池はガラ スに積層ぜず金属製の集熱板の上に薄膜を積層し透明電極で仕上げた裸のものでいいだろう。トラフ型CSPがこの真空ガラス管方式で成功しているから、案外 うまくゆくかもしれない。
Cカナダのソーラーウォール社が開発した空気を暖めるハイブリッド・コレクタが商品化されている。空気は暖房に使われる。関西学院大も試作実験している。
ボトミングサイクルの今後の課題
熱サイクルにアンモニアー水を使うケース−1、2、3は運転圧力が高いが小型なら問題はないだろう。ただウエハラサイク ルは複雑で小型家庭用にな向かない。ランキンサイクルでよいが2流体はまだ複雑、アンモニアー水系は容積型膨張機の潤滑問題もある。ペンタンが適しているがヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンを含むガソリンなどが安価で良いだろう。
ケー スー2の海上設置のケースでは100mの海底からの汲み上げパイプを安価に設置する方法 、台風時海洋性生物による伝熱面の汚染防止のための塩素注入、海洋性生物の除去、送電ケーブルコスト、 水深100mに熱サイクル機関込みで沈めるとすれば耐圧設計にも余計なコストがかかることなど難題多い。台風時はコレクターをミウラ折方式で折りたたみ、 収納船に取り込む方式が優れているかもしれない。 現時点では実現性がひくい。
ケース−4は運転圧も適当である。冷数塔蒸発損失分の水メークアップが必要だが、多量生産すればコストダウンの可能性がある。グリッドパリティーが可能と なる熱機関を56万円というコストで多量生産が可能かどうか家庭用空調機メーカーにPVハイブリッド・コレクターとパッケージで商品化しないか打診の価値 あり。 現時点で注文生産すれば250万円程度になりそう。
膨張機
競合技術
<薄膜PVの高度化>
シリコン薄膜PVの効率向上技術である薄膜多接合が12%程度の効率を250円/Wで達成できるかどうか?
ファースト・ソーラー社の多結晶型(CdTe)が16%の効率で100/Wを達成できると公表している。ただテルルの資 源制約により年産3GW程度との情報あり。
多結晶型(CIGS)も14%の効率で100/Wを達成できると昭和シェルが公表している。これもインジウム資源に危惧 感あり。
<ゼーベック効果とのハイブリッド>
アンモニアー水バイナリー・サイクルは最高圧力が30気圧以上となって法規制がうるさく家庭用に開発するにはかなり困難が予想される。法による規制のない ゼーベック効果を使う温度差発電ユニットとのハイブリッドも考えられる。しかし建設単価は水冷式で10,000円/Wでコスト的には考慮外だろう。
<集光型スターリング・エンジン>
集光型スターリング・エンジンに紹介したように米国の電力会社は大々的に投資してい る。個人の家に設置するには部品を購入して組み立てると建設単価が上昇して高価な電力となる。
February 8, 2010
Rev. June 16, 2012