鎌倉広町緑地自然観察グループ

立枯・倒木調査報告要旨


グリーンウッド

1. 調査目的

地球温暖化防止策として森林の炭素固定能力に関心が集まっている。「伐採なくして固定化なし」と言われるが実相はいかが なものか。スギ・ヒノキなどの過植林に長期間人の手が入らず、伐採も間伐もされず、ただ朽ちて行く立枯・倒木を調査し、光合成で固定化された炭酸ガスが再 び腐朽により炭酸ガスに戻る炭素循環を調査する。またかっての耕作地に自然発生した落葉樹からなる明るい二次林が暗い陰樹林へと遷移してゆく過程を知り、 里山の樹木の世代交代を明らかにする。



2. 調査の方法

広町緑地調査対象地の国土地理院の5万分の1地図上に50m間隔のメッシュを定義し、地名と遊歩道を記入し、 325x250m角の9区画に分割し、それぞれの拡大区画地図を作成して記録用地図した。調査対象は青色で示した総距離8.6kmの遊歩道沿いの目視可能 な直径10cm以上の立枯・倒木とした。樹高は切断されたり朽ちて失われた部分は推定せず、現状とする、胸高直径は地上1.2mとし記録は5センチ単位で おこなった。

立枯・倒木の原因は林冠遮光、クズによる遮光、つる植物加重による倒木、リスの食害、台風による風倒木、生木に寄生する キノコによる枯死、日当たりもよく外に競合植物もなく崖くずれしか原因が考えられないもの、山頂・西斜面にあり西風・乾燥による枯死以外原因が考えられな いものに分類することにした。

keyaki.jpg (24753 バイト)

倒木谷のケヤキとその倒木

 

3. 調査の時期と担当者

2002年3−4月にメンバー全員による予備調査をおこない、2002年10−11月に精査をした。


4. 調査結果の整理

地図の等高線の色を公表されている林冠樹種を表す色にし、立枯・倒木の位置を樹種名が分かる色符合を付けて記入したもの が図1立枯・倒木分布図である。調査対象地域で総数360本の立枯・倒木が見つかった。平均直径20.5cm、平均高さ11.3mであった。樹種は25種 であったが主要8種のみ色で識別し残りはその他とした。

図1 立枯・倒木分布

5. 立枯・倒木樹種割合

既に公表されている48ヘクタールの林冠樹種割合はコナラが32%で一番多いのに、立枯・倒木直上の林冠樹種割合ではコ ナラは9%と少なく、スダジイが最も多く29%。スギ・ヒノキ植林がこれに次いで27%、ミズキが10%、コナラ・ミズナラが9%、ヤマザクラ7%と続 く。しかし、立枯・倒木はスギ・ヒノキが34%で最も多く、スダジイが23%、ミズキが12%、ヤマザクラ5%、コナラ・ミズナラが4%と続く。植林が放 置され、自然に飲み込まれてゆく過程にあることが分かる。スダジイの多い地域は樹齢は高く、遷移が進んでいると推察される。



6. 立枯・倒木の原因

図2のように立枯・倒木の原因としては林冠遮光が62%で最も多く、つる植物加重が11%、山頂部の西風ないし乾燥によ るもの10%、台風による風倒木が8%である。

f2.gif (5966 バイト)
図2 立枯・倒木の原因分析

 


7. 直径の頻度分布

直径は5センチ刻みに仕分けて統計処理した。

f3.gif (10977 バイト)

図3 直径の頻度分布



8. 立枯・倒木樹高分布

樹高は現物の長さとし、目視測定を5メートル間隔で丸めた。非対称な山形の典型的な分布をよく示している。

f4.gif (9825 バイト)

図4 立枯・倒木樹高分布



9. 立枯・倒木総量推算

調査対象地54ヘクタール内にどのくらいの立枯・倒木があるか概算してみた。道路から目視で見えないところも一様に立 枯・倒木があると仮定する。調査した遊歩道の全長は8.6kmである。平均して遊歩道から片側8mは見渡せるとする。目視調査調査面積は12.ヘクタール となる。これは調査対象地の22%である。見つかった立枯・倒木は360本なので目視調査面積当たりの立枯・倒木数は30.1本/haとなる。

更に精度を上げるために林冠樹種毎の立枯・倒木密度を個別に推算し、これと林冠樹種割合から平均立枯・倒木密度を推算し た。コナラ・ミズナラの立枯・倒木密度、すなわち目視調査調査面積当たりの立枯・倒木数は24.8本/haと平均値より少ない。スギ・ヒノキは73.5本 /haと最高である。スダジイ、ミズキも43本/ha台である。タブノキ、ハゼノキ、ヤマザクラはサンプルが少なく立枯・倒木密度が測定できないので類似 の樹種の密度を使った。その他はほとんど水田跡なので立枯・倒木はなく、ゼロとした。目視調査面積当たりの立枯・倒木数は26本/1haとなり、目視調査 面積当たりの立枯・倒木容積は9.7m3/haとなる。

倒木の比重を平均0.5とすると目視調査面積当たりの立枯・倒木重量は4.8ton/haとなる。

10. 炭素循環

立枯・倒木総量は測定できたが、光合成速度、腐朽速度などの炭素循環は測定できなかった。広町の森はまだ光合成量が腐朽 量を凌駕して炭素を貯込んでいる過程と推定されるが、いずれ平衡になるだろう。炭素循環測定は次年度以降に持ち越された。

March 20, 2003

Rev. August 6, 2017


トッ プページへ