ハイブリッド車

まだ現役の1998年、石油学会(JPI)のエネルギー環境部会で「わが国がやらねばならない省エネルギー技術」という講演をした。質疑応答の時、とある石油精製企業の方から当時ダイムラー社が5年以内に燃料電池車を市場に投入すると宣言したことの実現可能性について質問された。そのときの回答は「燃料電池はたしかに効率はよいが、水素燃料またはメタノールの改質によって作る水素を燃料にすること、プラチナをつけたテフロン膜を使うような現技術では、研究段階は兎も角、実用化した段階でプラチナ資源の限界もあり、コストダウンがむずかしいのではないか」と回答した。それから5年が経過したベンツ社もこぞって開発に着手した他の自動車会社も手の届く価格の燃料電池車の開発には成功していない。むしろこの5年間の日本製のハイブリッド車の性能向上にはめざましいものがあり、現時点では燃料電池車はこれに太刀打ちできないでいる。

タンク・ツー・ホイール効率

ガソリン車のエンジンは定格で運転するかぎり、オットーサイクルエンジンの圧縮・冷却・摩擦損失は72%(エンジン定格効率28%)である。しかし車が交差点などに止まるとき、エンジンをアイドリンさせると、キャブレターのスロットル弁が閉じ、吸入空気の圧縮損失は更に10%増える。動力伝達系の損失が2%あるため、こうして市街地の平均タンク・ツー・ホイール効率(Tank-to-Wheel Efficiency)は100-72-10-2=16%になってしまう。この16%のうち、3%が空気抵抗で空気を温め、4%が車体のタイヤとサスペンジョン系のダンパーで熱に変換され、9%が制動時に熱になる。なお空調機などを使うとアクセサリー損失として2%位あるが以下の比較では0%とした。

ガソリン車のタンク・ツー・ホイール効率

ハイブリッド車の原理はアイドリング時と低負荷時にエンジンを停止させて空気圧縮損失をなくし、15%あったロスをゼロにする。 ミラーサイクルを採用するガソリンエンジンの損失が62%、ジェネレーター、バッテリー、モーターロスを6%、制動時の回収動力5%とすると市街地の平均タンク・ツー・ホイール効率は100-62-6+5=37%となる。これは現在の燃料電池車、FCV(Fuel Cell Vehicle)の平均タンク・ツー・ホイール効率38%と同程度である。回生動力がガソリンの5%ということは制動損失が21%であるから、24%が回収されたことになる。

マンハッタン・ビーチ在住のクーパー氏は米国ではトヨタがプリウスのタンク・ツー・ホイール効率は32%と発表していると知らせてくれたが、ガソリン車のガロン当り走行マイル26MPG(市街地)がタンク・ツー・ホイール効率16%に相当するとすれば、プリウスの60MPG(市街地)のタンク・ツー・ホイール効率は37%となる勘定である。

ハイブリッド車のタンク・ツー・ホイール効率

上図の遊星歯車を使うプリウスの動力配分機構はクーパー氏に教えてもらった。トヨタのウエブサイトhttp://www.toyota.com/planetkaizen/を開き、 "Explore"sectionでキーワード "Hybrid"を入力で得た資料を参考にした。 トヨタ・ハイブリッドの特徴は発電機とモーターを別にしてエンジンに直結した遊星歯車を介して結合したことだ。もっとも複雑でコスト高だが効率は最も高い。発電機もモーターも回転子はネオジム合金の永久磁石である。したがって発電機は交流を発生する。交流は整流器で直流に変換してバッテリーに導く。モーターはバッテリーから取り出した直流をインバーターで交流に変換して回転磁界を発生させる。自動車の速度は周波数を制御して調節するのだろう。走行開始時はモーターがまず回転を始める。するとモーター直結のリングギヤがエンジン直結の遊星歯車支持板と発電機直結の太陽歯車を回転させる。こうして停止中のエンジンは始動し、発電機も発電を開始する。エンジンはスロットル全開の高効率運転を行い、余剰動力は発電に使われる。車速度が一定のとき 、エンジン回転数が上がれば、発電機の回転数が上がって発電量が増し、エンジン回転数は暴走せず自動平衡になるように発電機の回転数は最高毎分10万回転に達しても耐えられるように設計してある。バッテリーが満杯になればエンジンは停止させる。減速時はエンジン停止させ、ブレーキで熱に変換されなかった回収動力はすべて発電機で電力として回収される。

ウエル・ツー・ホイール効率

10月27日の朝日新聞のコラムによれば、原油をタンカーで輸送し、製油所で精製してガソリンを製造し、サービスステーションにトラック輸送する時のウエル・ツー・タンク効率は88%位である。 オットー・サイクル・エンジンの定格効率は28%程度であるため、メカロス含め高速道路ではウエル・ツー・ホイール効率は24%となる。そして市街地走行を考慮した10・15モード燃費に相当するタンク・ツー・ホイール効率は16%となる。従ってガソリン車のウエル・ツー・ホイール効率(Well-to-Wheel Efficiency)は14%となる。

ハイブリッド車搭載のミラー・サイクル・エンジンの定格効率は38%であるが、市街地走行を考慮した10・15モード燃費に相当するタンク・ツー・ホイール効率37%となる。

ディーゼルエンジンの定格効率は47%であるが、渋滞のある道路条件でのディーゼル車のタンク・ツー・ホイール効率は20%となる。ディーゼル油のウエル・ツー・タンク効率を90%とすれば タウン・モードではウエル・ツー・ホイール効率18%となる。

同じガソリンハイブリッド車のウエル・ツー・ホイール効率は32%となる。

ディーゼル・ハイブリッド車のタンク・ツー・ホイール効率はディーゼルエンジンの損失が100-47=53%、ジェネレーター、バッテリー、モーターロスを6%、制動時の回収動力5%とすると市街地の平均タンク・ツー・ホイール効率は100-53-6+5=46%となる。 従ってウエル・ツー・ホイール効率は実に41%となる。

天然ガスをLNGとして日本に運ぶ時のLNGチェーンの効率は88%である。天然ガスを水蒸気改質して水素を製造すれば天然ガスのエネルギーの86%が車載ボンベに供給できる勘定になる。したがって天然ガスから製造した水素燃料を使うFCVのウエル・ツー・ホイール効率は37%となる。

天然ガスを圧縮してCNGとし、オットーサイクル・エンジンの燃料とすればウエル・ツー・ホイール効率は16%となる。CNGハイブリッド車のウエル・ツー・ホイール効率は33%となる。

天然ガスをDMEに変換する過程で失われるエネルギーは28%である。海上輸送等いれてもウエル・ツー・タンク効率は70%程度だろう。これをディーゼル車の燃料とすればウエル・ツー・ホイール効率は15%となる。DMEディーゼル・ハイブリッド車のウエル・ツー・ホイール効率は32%となる。

電気自動車はウエル・ツー・ホイール効率は42%と なるがバッテリー価格が高く、寿命が短い。

Vehicle Type

Well-to Tank Efficiency(%)

Tank-to-Wheel Efficiency(%)

Well-to-Wheel Efficiency(%)

Gasoline (town mode) 88 16 14
Gasoline (highway mode) 88 28 x 98 24
Diesel (town mode) 90 20 18
Diesel (highway mode) 90 47 42
Gasoline Hybrid (town mode) 88 37 32
Diesel Hybrid (town mode) 90 46 41
Fuel Cell Vehicle(FCV) (town & highway mode) LNG 91 x Transport 98.5 86 x 44 x 98 33
Compressed Natural Gas(CNG)(town mode) LNG  91 x Transport 98.5 16 14
CNG Hybrid (town mode) LNG 91 x Transport 98.5 37 33
DME Diesel (town mode) 71 20 14
DME Diesel Hybrid (town mode) 71 46 33
Electric Car (town & highway mode) LNG 91 x Transport 98.5 x Combined Cycle 59 x Grid 95 Battery 85 x Motor 98 42

燃料電池車は期待ほどではない。石油や天然ガスなどの化石燃料が枯渇し、ソーラーセルなどが使われるようになると電気分解による水素が自動車燃料に使われるようになるかもしれないなどとの夢が語られるが世界中の人間がNASAのロケットのように水素燃料を使いまくる時代がくると考えるのはいかがなものだろうか? むしろアンモニア燃料が適切であろう。

ブッシュ大統領は京都プロトコルを拒否し、水素燃料開発を促進するというエネルギー教書を発表し、この水素燃料で走る燃料電池を"Freedom Car"と名付けたが、ブッシュが促進しようとしているのはソーラーセルでの水素製造ではなく、化石燃料から水素を製造するという構想である。この構想ではWell-to-Wheel Efficiencyは下がり、かえって炭酸ガスを増やしてしまうことになる。友人のクーパー氏もその旨、ロスアンゼルス・タイムズに投書した。環境保護団体のシエラ・クラブはむろん批判的であるが、米国の国策を立案するシンクタンクのカトー・インスティチュート(Cato Institute)も加わって、共同でブッシュ政権の暴挙をいさめる呼びかけをしている。しかし教書は議会を通過するだろうとのこと。多分税金の無駄使いに終わるであろう。指導者が愚かであれば、米国でも間違いはするのだとなぜかホットするのは寂しいか。

ヨーロッパではディーゼル車の性能向上に熱心で2006年にはプジョーがディーゼル・ハイブリッド車の試作車を発表するそうである。燃料を水素やメタノールに変換するより硫黄分などを除去しただけで直接ディーゼル・ハイブリッド車で燃焼させるのがベストということになるのではないか。

ところで原子核物理学者の森永晴彦氏から直接うかがった話だが、氏の奥様がこの10月、約1ヶ月間ドイツにもあるセコンドハウスに滞在し、近くの美容院に行った。たまたま入ったところは男も利用する店で、男性客の方が多かった。彼らの雑談を聞いているとどうやらトヨタが発売したハイブリッドカーが話題のようで、誰もが買いたがっているようであった。そのうち或る男が「もしみながプリウスを買うようになったら誰がベンツを買うんだい」ときくと、「日本人が買うから心配なく」と答えた男がいてドットいう笑い声が起こったそうである。(Joke Serial No.121)

鎌倉プロバスクラブのメンバーであるトヨタの元専務殿 のS氏から聞いた話であるが、米国でプリウスがインテリ層に人気があるのは燃費の魅力よりは、ロスアンゼルスなどダウンタウンには一人乗りで乗り込めないという法規制があるため 所有者は特権階級という優越感をもてるためだ指摘しておられた。

November 13, 2003

Rev. February 13, 2010


以上の解析はグリーンウッド氏が独自に推定したもので最近ではより正確なデータがそろってきた。東京大学の石谷久教授(化学工学Vol.71 No.2 2007)がまとめた油井から車輪に至る(Well to Wheel)総合効率を含めた10・15モード方式の1km走行当たりのエネルギー入力または二酸化炭素排出量は下表の通りである。

車種 エネルギー入力 二酸化炭素排出量

単位

MJ/km

g-CO2/km

電池電気自動車 0.94

49

燃料電池ハイブリッド車 1.5

86.8

ディーゼル・ハイブリッド車 1.2 89.4
ガソリン・ハイブリッド車 1.7 123
ディーゼル車 2.0 146
CNG車 2.7 148
ガソリン車 2.7 193

各国の気候変動防止のための自動車の燃費規制は2007年末にヨーロッパが発表。

Rev. December 24, 2007


トヨタ自動車はプリウスのバッテリーをニッケル水素電池からリチウムイオン電池に積み替えて、コンセントから充電して、17kmはエンジンを稼動せずに走ることができるプラグイン・ハイブリッド車を構想している。

Rev. November 29, 2007


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