3.風のいろいろ

風にまつわるいろいろな物事を挙げてみましょう。

<歌>
これはいうまでもなく、シューベルツの「風」しかありません。
昭和20年代後半の私の世代の人間にとっては。

はしだのりひこは、もちろん、フォーク・クルセイダーズの一員です。
ベース担当の北山修は、今は精神科医になっています。
加藤和彦は、今も現役のミュージシャンで、FMのDJをやっています。
風は、私が中学三年生のとき聞いた曲だったと記憶します。
卒業式の謝恩会で歌う歌にふさわしい詞でしょう。
風は、淡い思い出として、場に漂っているだけというメタファーに使われているようです。
 


 

北山 修 作詞
端田宣彦 作曲
 

人は誰もただ一人旅に出て
人は誰もふるさとを振り返る
ちょっぴりさびしくて
振り返っても
そこにはただ風が
吹いているだけ
人は誰も 人生につまずいて
人は誰も 夢破れ振り返る
 

プラタナスの枯葉舞う冬の道で
プラタナスの散る音に振り返る
帰っておいでよと
振り返っても
そこにはただ風が
吹いているだけ
人は誰も 恋をした切なさに
人は誰も 耐えきれず振り返る
 

*)何かをもとめて
振り返っても
そこにはただ風が
吹いているだけ
 

<哲学>
古代ギリシア哲学者のアリストテレスが唱えた、地上の物質の一番もとになる質料(第1質料)は「火・風・水・土」の四元素のひとつに「風」が入っています。

昔の身の回りには、火とか風とか水とか土しかなかったので、こんなものから地上の物質が構成されていたと考えられたのでしょう。
帆船はすでにあったわけで、風の恩恵は、海洋貿易で十分認識されていたと思われます。

実は、アリストテレスより以前に、哲学者デモクリトスが、ものを細かく細かく砕いてゆくと、もうそれ以上は砕くことができなくなるところまでたどりつくと考えていて、現在の原子論に近いものに到達していました。これを分割不可能なものという意味で「アトモス」と名付け、これが、原子(アトム)の語源になりました。 ところが、アリストテレスの4元素説の方が当時主流となり、デモクリトスの主張は異端視されていたそうです。
目に見えないアトモスより、身近な火、水、空気(風)、土で構成されているとした方が、説得力があったのは、頷ける話です。 ただ、哲学は感覚を頼るより、論理を頼るとすると、デモクリトスに分があるような気もしますが。
 

<病気>
病気でいうと、手っ取り早いのでは、風邪ですね。
風邪は万病の本といいますから、侮ってはいけません。
うがいと睡眠が予防の秘訣です。

つぎに、風疹(ふうしん)ですね。
三日ばしかともいいます。
風のように突然来たり、風のように去っていく病気を、風に喩えています。
風しんウイルスの飛沫感染によって起こる病気です。
潜伏期間は2〜3週間で、その後軽い風邪に似た症状ではじまり、発しん、発熱、後頸部リンパ節腫脹などが主な症状です。発しんも熱もおよそ3日で治るので「三日ばしか」と呼ばれています。
年長児や大人になってからかかると一般に重症になりやすいといわれてる。
 

つぎに痛風です。
痛風は、体内の老廃物の一種である「尿酸」という物質が関節に溜まって起こります。
通常、体内で合成された尿酸は、尿や便と一緒に排泄され、血液中の尿酸の量は一定レベルに保たれるようになっています。しかし、尿酸が多量につくられるようになったり、尿酸の排泄が悪くなると、血液中の尿酸量が増加し、「高尿酸血症」を引き起こします。「高尿酸血症」が数年続くと、溶けきれなくなった尿酸が結晶となって関節内にとどまり、痛風の症状が現れます。
痛風患者の97〜98%は男性です。女性は、女性ホルモンの作用により、尿酸が体内に溜まりにくいためです。
 
 

<小説>
堀 辰雄著『風立ちぬ』
 『風立ちぬ』は、堀 辰雄自ら病みつつ、より病状の重い婚約者に付添って信州のサナトリウムに入った数か月の経験をふまえて、書かれた。
 
 

<英語の風>
風を表現した英単語をご紹介します。
Dictionary.com で調べました。

人間の体内から出てくる風、強さを表す風、方向を示す風、風に混じるものを表す風、地域に特有の風というように、風の表現は多多あることに気付きました。
 

[Air in motion] Wind.

wind(一番一般的な、風)

draught=draft (A current of air in an enclosed area)

flatus=腸内{ちょうない})ガス、一陣{いちじん}の風、放屁

air=微風(An atmospheric movement; a breeze or wind)

breathA slight gust of fragrant air.

puff =突風(A short sudden gust of wind)

whiff A slight, gentle gust of air; a waft

zephyr(ゼファー)=そよ風、西風、微風(The west wind)

blowA blast of air or wind

currentA steady, smooth onward movement: a current of air from a fan

jet streamA high-speed, meandering wind current, generally moving from a westerly direction at speeds often exceeding 400 kilometers (250 miles) per hour at altitudes of 15 to 25 kilometers (10 to 15 miles).

gustA strong, abrupt rush of wind.

blastA very strong gust of wind or air

breeze=そよ風(A light current of air; a gentle wind)

squall=スコール、突風(A brief sudden violent windstorm, often accompanied by rain or snow)

gale=強風{きょうふう}、疾風(A very strong wind;Any of four winds with speeds of from 32 to 63 miles (51 to 102 kilometers) per hour, according to the Beaufort scale.)

stormA wind with a speed from 64 to 73 miles (from 103 to 117 kilometers) per hour, according to the Beaufort scale. Also called violent storm.

tempestA violent windstorm, frequently accompanied by rain, snow, or hail.

hurricane=ハリケーン

whirlwind=つむじ風、旋風、嵐 (A rapidly rotating, generally vertical column of air, such as a tornado, dust devil, or waterspout)

tornado=竜巻

samielA strong, hot, sand-laden wind of the Sahara and Arabian deserts: Also called simoom..

cycloneA violent tropical storm, especially one originating in the southwestern Pacific Ocean or Indian Ocean.

anticycloneAn extensive system of winds spiraling outward from a high-pressure center, circling clockwise in the Northern Hemisphere and counterclockwise in the Southern Hemisphere.

typhoon=台風

simoonsimoom

simoomsamiel=A strong, hot, sand-laden wind of the Sahara and Arabian deserts: “Stephen's heart had withered up like a flower of the desert that feels the simoom coming from afar” (James Joyce). Also called samiel.

harmattanA dry dusty wind that blows along the northwest coast of Africa

monsoon=モンスーン(A wind from the southwest or south that brings heavy rainfall to southern Asia in the summer)

trade wind=貿易風(Any of a consistent system of prevailing winds occupying most of the tropics, constituting the major component of the general circulation of the atmosphere, and blowing northeasterly in the Northern Hemisphere and southeasterly in the Southern Hemisphere.)

sirocco=シロッコ(A hot humid south or southeast wind of southern Italy, Sicily, and the Mediterranean islands, originating in the Sahara Desert as a dry dusty wind but becoming moist as it passes over the Mediterranean.)

mistral=南フランスの地中海沿岸に向かって吹く乾燥した冷たい北風(A dry cold northerly wind that blows in squalls toward the Mediterranean coast of southern France.)

bise=アルプス地方の冷たい北風(A cold north wind of the Swiss Alps and nearby regions of France and Italy)

tramontane=イタリアの冷たい北風(A cold north wind in Italy)

levanter=地中海の強い東風(A strong easterly wind of the Mediterranean area)

blizzard=強風を伴う吹雪、暴風(A violent snowstorm with winds blowing at a minimum speed of 35 miles (56 kilometers) per hour and visibility of less than one-quarter mile (400 meters) for three hours. )

chinook
 Definition 1. A moist warm wind blowing from the sea in coastal regions of the Pacific Northwest.
 Definition 2. A warm dry wind that descends from the eastern slopes of the Rocky Mountains, causing a rapid rise in temperature.

foehnA warm dry wind coming off the lee slopes of a mountain range, especially off the northern slopes of the Alps.

khamsinA generally southerly hot wind from the Sahara that blows across Egypt from late March to early May.

northerA sudden cold gale coming from the north

southerlyA storm or wind coming from the south

flaw
   Definition 1. a sudden burst of wind; gust.
   Definition 2. a short storm with a sudden onset; squall.

sea breezeA cool breeze blowing from the sea toward the land

southeasterA storm or gale blowing from the southeast.

northeasterA storm or gale blowing from the northeast.

waftA light breeze; a rush of air

headwind=A wind that blows opposite to the course of a ship, aircraft, or the like

windflawA sudden gust or blast of wind

draftA current of air in an enclosed area

cat's-pawA light breeze that ruffles small areas of a water surface.
 

<絵画>
風は目に見えないので、風を描くことはできません。
しかし、風の神様は描けます。
風神雷神の絵は歴史の教科書に載っていたのを覚えていますか。
俵屋宗達という江戸時代の画家が書いたのと、それを尾形光琳が模写したのが有名です。

風神雷神図屏風 (ふうしんらいしんずびょうぶ)

 俵屋宗達筆

 紙本金地著色
 各169.8×154.5
 江戸時代(17世紀)
 京都 建仁寺
 国宝

尾形光琳の絵は、 紙本金地著色風神雷神図 尾形光琳 二曲屏風 と呼ばれ、東京国立博物館保管になっています。
以下の解説は、東京国立博物館のWEBから拝借。
建仁寺に伝わる俵屋宗達の名作を極めて忠実に模したもので、この後抱一、其一が同様な図様の作品を制作した、琳派の画系を象徴する作品。「法橋光琳」の墨書と「方祝」円印があり、光琳五十歳代の作とみなされている。

風神は、風を袋に入れて持ち歩いているようです。
袋の口を開いたときに、風が吹き出すと昔のひとは考えていたのでしょう。
雲に乗っているところなんか非常に面白いですね。
雲も風(移動する温度差のある空気)が作っているのに、風の袋とは無関係に描かれています。
 

<兵法>
武田信玄の残した語句に『風林火山』(ふうりんかざん)があります。
武田信玄は、『風林火山』を軍旗に記して、軍略の手本としました。
この言葉は、古代中国の兵法家の孫子の軍争編の句を拝借したものです。

其疾如
其徐如
侵掠如
不動如
難知如陰、
動如雷霆。

その疾(はや)きこと風の如く、
その徐(しず)かなること林の如く、
侵掠(しんりゃく)すること火の如く、
動かざること山の如く、
知り難きこと陰の如く、
動くこと雷霆(らいてい)の如し。

風に託すイメージは、行動のスピーディさです。
即断即決する前の熟慮は、外からは林のようにもの静かで、山のようにびくとも動かない。
しかし、一度決断すると、疾風のごとく素早く、しかも烈火のように猛然と攻撃する。


<漢字>
風から来る漢字をまとめてみました。


 おおよそ、ボン・ハン

風をはらむ帆の象形。
風があまねく吹き渡るところから、「すべて、おしなべて」の意味を表わす。


 たこ

几は風の省略体で、巾との合字。


 こがらし

几は風の省略体で、木との合字。
秋の末から冬の初めにかけて吹く風


 なぎ

几は風の省略体で、止との合字。

風が止み、波が穏やかになること。


 おおとり

おおとり おほ― 【大鳥・鳳】 

風に乗ってくるように思われた鳥の意味で、 風の省略体と鳥との合字。

(1)ツル・コウノトリ・ワシなどのような大きな鳥。
(2)中国で、想像上の鳥。翼の長さ三千里、一度に九万里を飛ぶという。鵬(ほう)。

 かぜ

甲骨文には、帆の象形と鳳の象形の二種類がある。
風を受ける帆から、あるいは風のように自由な鳳から、かぜを表わす。
のち、形声字、虫+凡に変化する。
虫は、風雲の乗る龍(たつ)を表わす。


 あらし

山のように大きくて激しい風と言う意味か?


 サツ、ソウ

形声文字、風+立(風の音)
風の音(颯颯)

颯爽(風のようにすっきりとしている様)


 タイ
台を持ち上げるような風という意味か?

台風


?(Netscapeにはフォントがないようです) ヨウ
風+易(あがるの意味)
風に吹き上げられるの意。


 ク
旋風


?(Netscapeにはフォントがないようです)  シ
風+思
すずかぜ、疾風


?(Netscapeにはフォントがないようです)  ハン
馬+風(風のように速く走るの意)


 ヒョウ
風+票(火の子が舞い上がるの意)
舞い上がる風、つむじ風



 
 

最終更新日 2002.1.08 

 

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