- FMUSICAL :Music : 『オペラ&コンサート5』 208/208 PXF00472 手塚 優     R/English National Opera『サロメ』 (10) 96/06/22 03:59 はじめまして。この会議室に書くのは初めてになります。よろしくお願いします。 T.P.T.で活躍しているデヴィド・ルヴォーが演出した ENO の『サロメ』を6/14に ロンドンで観てきて、その感想を書きました。長くなってしまってごめんなさい。 自分は芝居を観るのが好きで、主に小劇場に通ってるんですが、海外は初めてで、 オペラを観るのも3回目という初心者ですので、至らぬ点はご容赦下さい。 ちなみに、初めて観たオペラは今年のオーチャードの『ポーギーとベス』。 二回目はダッチさんが幹事なさった二期会『カルメン』日本語上演でした。 指揮 Andrew Litton, 演出 David Leveaux, 美術 Vicki Mortimer, 照明 Paul Pyant 振付 Wayne McGregor Salome:Kristine Ciesinski, Jokanaan:Robert Hayward, Herodias:Sally Burgess, Herod:Alan Woodrow, Narraboth:John Marsden, Herodias' Page:Ethna Robinson May 25,31, June 5,7,12,14,19,21,24,27, July 3 8:00pm-9:40pm no interval オペラは勿論初めてですが、『サロメ』の話は一度、小劇場の実験的な公演で 観た事があります。それは「ク・ナウカ」という劇団で、"動く俳優"(ムーバー)と "語る俳優"(トーカー)の二人一役で演ずるという手法を用いたものでした。実は その時はあまりぴんと来なかったのですが、今回、予習でオスカー・ワイルドの 原作(新潮文庫¥400)を読んだら、予想以上に楽しめて、これをルヴォーがどう演出 するのか、とても楽しみになりました。ただ、R.Strauss のオペラの方は、CDは 買ったけど事前に一度も通して聞かなかったこともあって、普段ほとんどクラシック 音楽を聞かない自分にはあまり馴染めなかったのが、不安ではありました。 で、結果的に音楽的な事は、ヨカナーン役の人はやっぱりいい声だなぁってこと くらいしか印象になくて、お恥ずかしいですが、なにも書ける事ありません。m(__)m また、英語も苦手なので、せっかく親しみやすい英語上演が売りのENOなのに、 台詞もほとんど聞き取れず、ただ読んだ原作の訳本の記憶から想像しながらの観劇 でしたので、勘違いもあるやもしれません。 まず、装置ですが、いつもベニサン・ピットでのルヴォーのT.P.T.の舞台美術を担当 しているヴィッキー・モーティマーのセットは、ベニサンの舞台空間をそのまんま London Coliseum の大きな舞台にもってきてしまったかのようでした。舞台上手前方 から下手奥へ、空間を斜めに仕切ってしまう、背の高い石の壁面があります。仕切った 一方の側(上手奥)は、樹が立ち並ぶ林で、宮殿の外がイメージされ、他方(中央から 下手前方の空間)は、主にここで芝居が演ぜられるテラスで、奥の背の高い窓から 漏れる黄色い明りが、建物の中の饗宴の賑やかさを感じさせます。しかし、満月の 月明かりに照らされる空間は静かで冷たく、冴え冴えとしています。 そのテラスを挟んで、若い隊長ナラボーは壁面に階段上につけられた足場に登って、 窓から、中にいるはずのサロメを覗き見ています。またその彼を心配そうに見つめる ヘロディアスの小姓もやはり壁横の梯子に登っています。その壁に登っている二人の 歌から舞台は始まるのですが、なんか歌いにくいんじゃなかろかと、素人考えで、 思ったりしました。そして、テラスで二人の兵士が喋ってるところへ、地の底から ヨカナーンの声が響いてきます。ヨカナーンの閉じこめられた井戸は壁面の周りに 円周に撒かれた砂で表現されていたようです。その声を聞いて、壁の外の人々が 集まってきます。外には、コロスとして、預言者ヨカナーンを慕うナザレの人々 (老婆、少女、男)が佇んでいたのでした。林の奥にはブランコも見えていて、 こちらも冴え冴えとした月の光に浮かび上がっています。 彼らコロスは、原作やCDではわからないのですが、普通いるものなんでしょうか? 彼らの真剣で祈るようなまなざしと、あとから出て来るスマートに装ったローマ人 たちのひやかしの視線が対照的でした。 そしてサロメの登場。彼女は美人です。けど、いかにもヨーロッパ系白人で、自分の イメージのセム系の褐色の肌と細い身体とは、少し違ってました。これは仕方ないか。 彼女が、義父のユダヤの副王ヘロデの前で踊る場面では、最後に胸をはだけたりして、 いかにもルヴォーだなぁって感じではあります。振付は、なかなか変な踊りでした。 オペラ歌手は踊りもできなきゃいけないんですね。大変。 で、その踊りの前に、サロメは隊長に命令して、ヨカナーンを井戸から引出して、 彼に愛の告白をするわけですが、彼に拒否されてしまう。この辺り、自分の勝手な 思い込みかもしれませんが、同じ世界を見る事はできなかったヨカナーンとサロメの 悲恋が感じられた気がします。そしてもう一つの悲恋、サロメに恋する若き隊長と 彼を慕う小姓の悩みは、隊長が自害するのに自分に刃を突き立てようとする、まさに その時に小姓が彼に抱き付くことで、終わりを迎えます。 自分ではサロメを救えなかったヨカナーンが再び自ら地の底へ戻って行った後、 王ヘロデとその妻ヘロディアスがテラスに現れます。その彼らの連れてる小姓なん ですが、王の小姓の一人がどうも性別がよくわからない感じで、王の男色嗜好が 感じられる風な気がしました。そして、隊長の死体に遭遇した王が感じる死の天使 の翼の羽ばたきと冷たい風。これを照明を抱えた黒子?が、脇からショールを羽織ろう とする王妃の姿に横から照明を当てて、壁面にあたかも翼を広げたような大きな 影を映すことで表現してたのが、自分には最も印象的でした。 そして、ヘロデの求め応じて、サロメの奇妙で扇情的な舞が終わり、彼女はその 褒美として彼女が手に持つ銀の皿にヨカナーンの首をのせること要求します。 王は後悔しますが、結局、王として、それを肯ぜざるを得ない。この辺での王の 言い訳のとこは、原作では、なんとなくローマ皇帝や運命なんかのような、自分では 逆らえないもの対しての王のコンプレックスみたいなのを少し感じてたんですが、 舞台ではそんな感じはありませんでした。で、王の許可を得て、地下に降りた首切り 役人の手によって、血だらけのヨカナーンの首を井戸の底から地上へつきだされます。 ここのとこ、実は自分は気が付かなかったのですが、首は銀の皿にのせられておらず、 直接手に掴まれたまま、サロメに手渡されます。この銀の皿を用いなかった点を、 あとで一緒に観劇した方がルヴォーさんに質問した所、せっかくあれほどまでに愛し、 手に入れた男の首を銀の皿にのせてしまうと、間に抽象的なものが入り込んでしまう 気がして、もっと直接的に愛情を表現したかった、というような答えでした。 (ちょっと、表現に記憶違いがあるかもれませんが。) ついでにブランコについて。これは昨年のT.P.T.『三人姉妹』でも出てきたので、 ヴィッキーさんに聞いたら、たぶんどちらも無垢な子ども時代を象徴してるんだろう ってことでした。あと、これは聞かなかったけど、今回の装置の壁面のずっと上方に、 白い小さな女の子の服が一着留められてて、これもそうだったのかなと思います。 もう無垢な時代に後戻りはできないし、さりとて、愛の世界に目覚めた彼女には もはや生娘として父親の前に立つことはできない。「愛の神秘は死の神秘よりも 大きい」と歌いつつ、ヨカナーンの首に口づけした彼女の口は、血で真っ赤に 染まります。 ルヴォーさんは、なぜ『サロメ』の演出の仕事が自分に来たのかというと、 たぶんこれの前にやった作品(スコティシュ・オペラ『ねじの回転』)もそうだった けど、あまり上演される事の多くない作品だからじゃないかなと、少し冗談めかす ようにおっしゃってました。 ---------------------------------------------------------------------- 265/277 PXF00472 手塚 優     T.P.T.について(RE:R/ENO『サロメ』) (10) 96/06/26 09:12 208へのコメント コメント数:1 初めてのRにレス下さった方々、ありがとうございました。慣れぬオペラのRなんて 書いたら、知恵熱が出てしまったようで(^^;)、コメントが遅くなりました。 やはり、どうも少しピントのずれた感想になってたようですね。(^^;ゞ) 『サロメ』は原作のワイルドの新潮文庫版解説には「楽劇に近」いとありますが、 もともと劇で、音楽はともかく、芝居は全然難解ではないです。>#233 みぶさん もしR読んでそういう印象を受けたのなら、それは書き方が悪いだけですので。 T.P.T.とは、シアター・プロジェクト・東京といって、元・松竹のプロデューサー 門井均が、英国の演出家デヴィッド・ルヴォーを芸術監督として、二人だけで発足、 '93年から東京・江東区森下の廃工場を改造した劇場や稽古場のあるベニサン・ピット を本拠地に活動している劇団です。 ベニサン・ピットは、せいぜい200人程度の小劇場ですが、とても天井の高い空間で、 また公演毎に客席と舞台を自由に設置できて、密度の濃い舞台空間を作れる所です。 今回は、その背の高いセットと閉じられた舞台空間がベニサンぽかったのでした。 ルヴォーは'57年生まれで、'88年以来何度か来日し、日本で演出していますが、 世界的にも、'93年にNYでの舞台がトニー賞にノミネートされたくらい評価の高い 演出家です。ちなみにこの時は最優秀リバイバル賞を受賞しました。ここ3年は、 T.P.T.で年3本!というペースで精力的に活動してて、今年は春の『エレクトラ』だけ で、少しベニサンでの活動は休むみたい。次回作は秋の銀座セゾン劇場で松本幸四郎 主演の『マクベス』。これは神戸オリエンタル劇場公演もあります。 FSTAGE MES(4)『かべすの幕間3』#4,10,28,29,33に『エレクトラ』の舞台の感想が あります。また#80,82はルヴォーがベニサンでやってるワークショップの見学記です。 ルヴォーのオペラの演出は、'94年のスコティッシュ・オペラ『ねじの回転』が初めて で、'95年に同じく『フィガロの結婚』を演出。で、今回が初めての ENO での演出で、 彼のオペラ演出としては、3本目になります。 T.P.T.でルヴォーと組んでる美術のヴィッキー・モーティマーは、この3本のオペラ でも美術を担当してます。女性で、まだ30才になったばかりのはずです。 自分は今回、T.P.T.の観劇ツアーで観まして、ルヴォーさんにも少しお話を聞かせて 頂いたのですが、今回の『サロメ』演出の話は2年くらい前に来た話だそうです。 これは推測ですが、T.P.T.で今年、初めてギシリア悲劇『エレクトラ』を取り上げた のも、R・シュトラウスがオペラとして取り上げてたからじゃないかなと思います。 ---------------------------------------------------------------------- 278/278 PXF00472 手塚 優     ENOのことなど…(RE:R/ENO『サロメ』) (10) 96/06/26 22:35 208へのコメント ベニサンは、もともと「紅三」と書きます(^^)。>#271 みっきいさん もともと染色工場だったものを、松竹が稽古場用スタジオに転用したそうです。 ENO はできるだけ幅広い人々に手頃な値段で芸術に親しんでもらうために、英語で オペラを上演している英国で唯一のフルタイム・レパートリーなオペラ・カンパニー で、ロンドンで最も大きな劇場 London Coliseum で、年10ヶ月の公演を行ってます。 『サロメ』の指揮者 Andrew Litton は、ダラス交響管弦楽団の音楽監督、ボーンマス 交響管弦楽団の名誉指揮者。 サロメの Kristine Ciesinski は、以前にも ENO の別プロダクションでサロメや マクベス夫人とかもやっているそうです。演技派なんでしょうかね。 あと、ヘロディアの Sally Burgess は、WestEndの『ショウボート』でオリヴィエ賞 にノミネートされたことのある人で、最近『カルメン』で Met デビューしたそう です。これ全部プログラム写してるだけで、よく知らないので、この辺でやめます。 で、「7つのヴェールの舞」なんですけど、そうなんですか!すっぽんぽんになる 演出も珍しくないんですね!!ルヴォーさんのは最後の最後に胸はだけるだけだし、 それも斜め後ろで観てるヘロデ王に向かってするので最初は後ろ向きで、正面向いて すぐ直しちゃうから、実は奥ゆかしい演出なのかな(^^;)。 ちなみに、この踊りの振付 Wayne McGregor さんは、スキンヘッドでピアスしてる とても若そうな人だったのですが、RNTの A Little Night Music の振付もしてて、 こちらは芝居と一緒ですごく洗練された感じで全然違う印象だったので驚きました。 その振付でオリヴェエ賞にもノミネートされたそうです。 あと、今回、予習で聞いてたCDがちょうど、マルフィターノのサロメでした。 (ウィーン・フィル、ドホナーニ)。写真だと、この人のが自分のイメージには 近いかな。LDプレーヤー持ってないのが残念(^^;)。 そういえば、Netnews の rec.music.opera で、Salome の映像のお薦めの subject で ユーイングのサロメは"fake"だ、って書いてた人がいたのをたまたま見つけました。 今回の旅行で観た『ジュリアス・シーザー』は、元・芸術監督のピーター・ホールが RSCに戻って演出した舞台だったのですが、評判はいまひとつのようでした。 ---------------------------------------------------------------------- 358/359 PXF00472 手塚 優     シアターガイド(RE^2:R/ENO『サロメ』) (10) 96/07/03 20:42 342へのコメント みっきい さん、どうも。8月号、今日見ました。サロメの踊りが褒められてますね。 あと、写真にあるようにサロメは壁に昇って歌うんですが、これは月が昇るイメージ かなって思いました。上にかかってるのが、例の白い子どもの服です。 ピーター・ホールは忙しいみたいですね。