月の満ち欠けと潮汐は関係がありますことから、月は水の精と考えられておりまして、 白で丸い蛤(漢語で「蚪蛤」トコウ)が住んでいたと考えられていたそうです。 これは古代中国の原始信仰であるそうです。 楚辞・明治書院・聞一多説より
蛤の古音を2字にしますと蝦蟆(カバ)又は蟾蜍(センジョ)となります。 これで蛤から蝦蟆(オタマジャクシ)又は蟾蜍(ガマガエル)に変身しました。 中国神話の起源・貝塚茂樹著・角川文庫より
蟾蜍の当て字として「蟾菟」と書き替えられまして、蟾と菟がともに月に住むようになったようですね。 中国神話の起源・貝塚茂樹著・角川文庫
仏教美術の月天は、十二天中の月宮殿に住む王で、兎がその使者とされています。 玄奘三蔵の「大唐西域記」に帝釈天の話が出ているので、 帝釈天のお話と月ウサギの語源とが唐の時代に一致しても不思議はないようですね。 しかし弥生時代の銅鐸(桜丘5号銅鐸)に月うさぎが描かれているので、もっと前の時代かもしれません。 (周の時代のすぐ後あたりかとも思いますが現在調べております)
ウサギの語源には古くから2つの外来語説があったようです。 古代朝鮮語の烏斯含(ウガサム)と梵語の舎舎迦(ササカ)の2種類です。 この2つはウサギに発音が似ていません。新村出博士によれば、 インドの古語サンスクリットでは月の一名を「ウサギ」と云うそうで、 「ウサギ」の意味は跳びはねる動作を云うそうです。
インドのジャータカ神話から。昔「うさぎ」と「きつね」と「さる」の 三匹が仲良く暮らしておりました。三匹は前世の行いが悪いから今は動物の姿になっているので、 世のための人にためになるような良いことをしとうといつも話し合っておりました。帝釈天はこの話を聞いていて何か良いことをさせてあげようと、 老人の姿になって三匹の前に現れました。
三匹は老人のために色々世話をしてあげました。 さるは木に登って果物や木の実を採ってきてあげました。 きつねは川の魚を採ってきてあげました。しかしうさぎにはこれといった特技がありませんでした。
うさぎは老人にたき火をしてもらい「私には何の特技もありませんので、 せめて私の身を焼いてその肉を召し上がってください」と言うや、 火の中に飛び込んで黒こげになってしましました。
これを見た老人は帝釈天の姿に戻り「お前たち三匹はとても感心なもの達だ。 きっとこの次に生まれ変わったときには人間として生まれてくるようにしてあげよう。 とくにうさぎの心がけは立派なものだ。 この黒こげになった姿は永遠に月の中に置いてあげることにしよう」といったそうであります。
こうして月には黒こげになったうさぎの姿が見えるそうです。
日本では今昔物語(平安末期の1077年頃書かれたもの)の、 「天竺の部・巻五・第13話」に月兎の話がありました。 天竺の部では、本生伝の形で世俗的な話が中心となっています。
古代インドで日蝕は、修羅が帝釈と戦い破れて、日月を掻き晦まして身を隠すため であるという話があるそうです。古代インド天文では、九つある惑星のうち、 第8と第9惑星が太陽と月を呑み込んでしまう悪神であると考えられておりました。 その悪神の名はラフ(Rahu)と言いまして次のようなお話があります。
ラフは、神々が乳海を攪拌して作った不老不死の酒を、饗宴にまぎれ入って盗み飲んでしまいました。 それを日神スリイアと月神チャンドラとが最高神ヴィシュヌに知らせました。 最高神ヴィシュヌは宝輪で悪神ラフの首と手足を断ち切ってしまいました。 ところが霊酒の奇特で、その後首も手足も不死の命をえて天を駆け回り、 時には告げ口をした日や月を呑んで、せめても鬱憤をはらしていると言うそうです
九曜 | 五行 | 方角 | 季節 | 干支 |
八白 | 土 | 北東 | 晩秋から初春 | 丑寅 |
九紫 | 火 | 南 | 夏 | 午 |
インド天文学 | 意味 | 音訳 | 読方 |
Rahu | 竜頭 | 羅(目候) | ラゴ |
Ketu | 竜尾 | 計都 | ケイト |
古代インドでは、「太陽の黄道」と「月の白道」の2つの交点に 竜頭(ラゴ)と竜尾の2竜神が住み、時々太陽や月を食べると考えられていたそうです。 このラゴウ・ケイトの二惑星はインド起源で、七曜(七星)に加えられ 九星となったそうであります。 「星空のロマンス」野尻抱影著・ちくま書房より
法隆寺の中宮寺所蔵です。天寿国曼茶羅繍帳残欠(国宝)には月が描かれ 下左横に兎が両手を上げており、中央に薬壺が描かれています。662年。推古天皇の30年。聖徳太子の逝去をしのび橘大女郎が作らせたものとあります。 左上に月が描かれ、右に桂樹、中央に薬壺、右に兎が描かれております。
これは古代中国において、月で兎が不死の薬を搗くと考えられていたものが、 日本に伝わってからは餅を搗くと変化したしたものと云われているそうです。 変化の理由は「満月」を「望月」と云いますが、これが「餅搗き」と転化したとのことです。
その他月宮殿は古鏡に描かれていますが、年代が不明です。「鏡」と云う言葉も気にかかります。 不死の薬が餅に変化したことは、唐代と飛鳥時代で、一応時代的には矛盾しないようですね。 十二支と十二獣 北隆館 大場盤雄著
望月から餅搗きへの転化の説が書かれている本は他に
『日本の食文化大系19 餅博物誌』(古川端昌著、東京書房社)」
昭和6年の『日本伝説研究』第三巻・藤沢衛彦氏
『たべもの語源辞典』(清水桂一編、東京堂出版)などがあります。KODAさんが探してくれましたm(..)m
カナダ・インデアンのお話で、月にカエルがいるお話もあります。 月が色々な人を招待したのですが、多く呼び過ぎて妹のカエルの居場所がなくなったので、 兄の月の顔に張りついてしまったと言う話です。もともとアジア起源のこの話が、シベリア・アラスカを経てカナダに伝わった説があるとのことです。 すると兎もカエルと一緒に、カナダへと渡ったのでしょうかね(^^)
月が、使い兎に「月は欠けてもまた満ちるように、人間が死んでもまた生き返ることができる」と 人間に伝えるように言いました。しかし兎は間違えて「月は欠けてもまた満ちるが、 人間は死んだら生き返れない」と言ってしまいました。怒った月は兎を棒で叩きました。 兎は爪で月を引っ掻きました。兎の口が割れているのはこのためで、 月に黒い字があるのはこのためであると言います。 アフリカでも兎が出てくるのには驚きです。ただ月の影は兎の姿ではなくて、ひっかき傷なのですね。
参考引用文献★楚辞(新釈漢文大系34)明治書院 星川清孝著
昭和53年12月1日 第9版 3398-21434-8305
天問 第一段 出自湯谷・・・の解釈文より楚辞・明治書院中国古代の文化・白川静著・講談社学術文庫484
ISBN4-06-158484-7 C0139 P840E中国神話の起源・貝塚茂樹著・角川文庫
「星空のロマンス」野尻抱影著
星の神話伝説集・草下英明著・教養文庫1071
中国の神話伝説・青土社
十二支と十二獣・北隆館