遺伝の不思議

 先日、夫が気がついた。
「あれー、悠ちゃんの手相、お父さんとそっくり・・・」
「えー、そうなの?」
どれどれ、おお。ほんとだ。
 そりゃあ親子なんだから、悠太とお父さんの手相が似て当たり前。けど悠太のこの手相、1卵性双子の光太とはまったく違うのだ。

 1卵性の双子を妊娠したとわかったとき、「2人の見分けがつかなかったらどうしよう?」とドキドキしたものだったが、蓋を開けてみれば、生まれたときからその大きさの違いから100パーセント見分けがつく双子。「なーんだ、つまんないの」なんて思ったフトドキ者の私。
 それでも、少し大きくなったら似てくるかも・・・と、生後まもなく、「どこか2人の決定的な違いはないか」と探して見つけたのが、2人の手相の違いだった。
 1卵性の双子は指紋まで酷似していると何かに書いてあったのに、意外や意外。
 光太の手相は私にそっくりだったのだ。

 私の手相は、ちょっと独特だ。「○×線」という名前はよく知らないが、普通の手相は、ひらがなの「て」の字の上にもう1本太い線がある。けれど、私の左手の手相は、その「て」の字の上のもう1本がない。正確に言うと、「て」の字とそのもう1本がくっついた状態。手のひらいっぱいに大きな「て」の字があるのだ。
 これは私の父親ゆずりで、そう珍しくもないのだろうが、ちょっと「普通じゃない」気がして密かに気に入っていた。

 その手相を光太だけが持っていたのだ。光太は私の実家のほうの血を多くうけついだのだろうか?
 そして、悠太が夫のほうの家の血を。
 1卵性なのに? うーん・・・

 手相の違いから、というわけではないのだろうが不思議と、悠太はお父さん似、光太はお母さん似と言われる。
 悠太はよく「お父さんに似てきたねー!」とか、「ふとした表情がお父さんにそっくり!」と身内からも言われる。悠太の赤ちゃんの頃は、夫のお兄さん(悠太にとっては伯父さん)の赤ちゃんの頃の写真と似ていたりもした。
 一極集中型の遊びをする悠太、「チョロ」と異名をとる落ち着きのない光太。
 それはそのまま、夫と私なのか?さもありなん、である。

 悠太と光太は基本的に、あっさり和風の顔立ちで私に似ている。
とはいえ、私にそっくり!でもない。ちょっと残念。たまに、「笑っちゃうぐらいそっくり」な親子を見かけるが、悠太と光太は適当に夫と私とミックスされているようだ。
 夫は、子供が自分とあまり似ていないと思っているのだが、いや、なかなかどうして。
 一重まぶたの私の目をうけつぎながら、そこには夫ゆずりの長〜いまつげが。これでずいぶん目の印象が強くなる。私よりも長いまつげ。うらやましいぞ!
 そして、舌。
 私は見た。ふとした瞬間、子供が舌をぱたっと縦半分に折っているのを。
 ううっ!私にはできない!
 随分ばかばかしいが、それでも、ずっと小さい頃から舌を半分に折ることができる友達がうらやましかったのだ。
 何かのテレビで、それも遺伝だときいた。
夫に「ねえねえ、舌をこうやって折れる?」と聞くと、夫はひょいっとやってのけた。
おお、ここにも夫の遺伝子が。
 そして足の指の形。夫の足の小指は微妙に湾曲しているのだが、悠太と光太の足の指は、そのまんま、ミニチュア版である。
 そのほか、ほくろの色が夫と同じだったり(私のほくろの色は薄茶。夫のは黒に近い)。
 悠太と光太に夫の遺伝子の影を見つけるたびに、なんだかうれしくなる。
 あー、遺伝って不思議だなあ、と思うのだ。

 そして、夫と私両方に共通する「毛深いこと」はもちろん見事に遺伝している。3歳にして、すでに立派なすね毛が・・・ちょっと悲しくなった。

 自閉症の原因は特定されていないが、遺伝の要因も無視できないらしい。
実際、アスペルガー気質の家系からアスペルガーの子供が生まれることも聞くし、兄弟での自閉症の発生率や1卵性双子での発生率を見ると、遺伝が関係していると言われるのもうなずける。

私自身はアスペルガーでもないし、コミュニケーションの問題を抱えたこともない。
けど、一つだけ自閉的な性格があることを認めざるをえない。
それは、予定が変わること、スケジュールどおりにならないことが極端に苦手なことだ。

これは、子供を産んでから初めて気がついた。それはそうだ。それまでは、学校や職場、ある程度決まった枠組み、時間の中で生活していたからだ。その中にいればたいていの見通しはつく。
けど、育児は違う。特に新生児期は24時間の中で何がおこるかわからない。ずーっと泣きとおしたり、ミルクを飲まなかったり、離乳食を食べなかったり。
やらなければいけないことは山積みで、2人の世話はまさに分刻みのスケジュールに追われているのに、そのはしから崩れていく。
パニックになりそうな状態をおさえて、おさえて日々をすごす。私がここでパニックになったら誰が2人の世話をするのだろう?
そして、週末。夫がいてくれる。ためこんだ不安な気持ちがようやく夫という出口を見つける。
週末、ささいなことで予定がくずれる。そうするともう歯止めがきかない。いっきに大パニックを起こす。それは、冷静になって我に返れば病的としか思えない。
この世の終わりのように思えるし、自分の存在価値がないように思える。死んでしまいたいとさえ思う。実際に自傷行為に走ることもある。

子供も大きくなり、だいたいの予定、見通しによって生活できている今となっては、パニックを起こすことも格段に減った。
でも、毎日ひりひりとした緊張感のうえで生活していることには変わりがない。

私のこの性格と、夫の、極端に他人に関心をもたない性格が合わさってどうにかこうにかなったら自閉症になってしまうのじゃないか、冗談で話したことがある。
冗談でもなかば本気。
去年、ひそかに「3人目を・・・」ともくろんだことがあったのだが、「もしまた自閉の子が生まれたら・・・」と思うと二の足をふんでしまった。
「3人目が自閉症でもなんでも、どーんと来い!」
 そんな覚悟ができたら、また子供をもつかもしれない。
それまで、もうしばらくかかりそうだ。
出産できる年齢のタイムリミットが来る前に間に合えばいいけれど・・・




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