コックと泥棒、その妻と愛人の画像です

コックと泥棒、
その妻と愛人


監督ピーター・
グリーナウェイ

カニバリズム

 ジム・ジャームッシュ監督の新作「デッドマン」の中で、殺し屋が淡々と仲間を殺し、食べてしまうシーンがあった。あまりにも平然としているので、かえって不気味さが伝わってきた。

 カニバリズムは、センセーショナルに扱われることが多い。飛行機がアンデスの山の中に墜落し生き残るために死んだ乗客を食べた事件のドキュメンタリー「アンデスの聖餐」(アンバロ・J・コバセビッチ監督)や、その実話に基づく感動の映画化「生きてこそ」(フランク・マーシャル監督)は有名。ただ、殺人には驚かないのに、人肉食には驚くというのは、考えてみると奇妙なことではないだろうか。

 「フライド・グリーン・トマト」(ジョン・アブネット監督)は、殺人の証拠隠滅のために人肉を食べる。知らない他人に食べさせる。精肉屋が人肉を売るという話しは、不思議なブラックコメディ「デリカテッセン」(ジャン・ビエール・ジュネ、マルク・キャロ監督)のほか、スプラッター映画にはおなじみの設定だ。「人肉饅頭」「人肉天麩羅」なんて映画もあった。

 戦争と極限状態での殺人と人肉食を扱った武田泰淳原作の「ひかりごけ」(熊井啓監督)は、果敢な挑戦だが原作の奥深さには及ばない。人肉をほおばる三國連太郎の表情が話題となった。

「追悼のざわめき」(松井良彦監督)は、外国映画祭への出品が税関でストップした過激なラブ・ストーリー。兄が死んだ妹を食べるシーンが正面から捉えられている。愛情表現としての人肉食は、過去には多かったのではないか。

 さて、私がカニバリズム映画のベスト1に推すのは、「コックと泥棒、その妻と愛人」だ。ラストに登場する美しく盛り付けされた人間の丸焼は、映像的にも一つの事件だと思う。極めて良くできた映画だが、最後の「カニバル」という蔑みの言葉は必要ないだろう。

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