Whitesnake (Sep 22,1997 at Nihon Budokan, tokyo)
信じられなかった。暗いステージの上方にスポットがVの字に当たり、まだ何も見えない中に響き渡る「ARE YOU READY!」の叫び。ほんとはここで「ぞわぞわぞわ〜っ」とくるはずなのに、その叫びのあまりの老けように愕然としてしまった。かつての突き刺さるような叫びではなく、変にしわがれて、耳に不愉快な音ですらあったのだ。PAのせいもあるのかもしれない。歌が始まってもそのレベルの音のときはいつも、変に反響して耳が変になりそうだったもので、途中でティッシュを詰めてしまったくらいだから。楽器のハウリングもギターにとどまらずひどかったし。一度など、静かな曲のイントロ部分でベースだかドラムだったかが、異様な音を出してしまい、あわてたデヴィッドがストップをかけて、「すまない。寿司を食べ過ぎたもので」とか言いながらスーツのお尻のところをおさえるなどというオヤジギャグをかます事態もあった。
デヴィッドは黒の皮パンツに赤いシルクのジャケット。下に赤いシャツを着て、さらにその下に黒のTシャツを着ている。かなり暑いだろうにと思うのだが、ジャケットは脱がなかった。髪は真っ黒で短めのカーリーヘア。遠くから見るとすごく若く見える。エリック・マーチンみたいと思っていたが、前で見た人の話ではケヴィン・ダブロウみたいだったそうだ。例のマイクスタンドを使ったステージアクションは相変わらず派手でかっこいい。
エイドリアンは王子様のような白いブラウスに白っぽくなったジーンズ。トニーは黒っぽいシャツに深紫のパンツ、スティーブ・ファリスは黒のベストにジーンズだったかな。ダニー・カーマッシは白のTシャツだった。
セットリストはヒットパレードで、普通だったら狂喜乱舞するところだが、そのどれも声がまったく出ないのだから喜ぶどころではない。気の毒でつらくて、ステージを正視できなかった。声が出なくなるのはわかるが、そうなると音程まで狂ってしまうものなんだろうか? まるでルックスだけ同じにした偽者が歌っているとしか思えない曲が続く。私の周りでも、熱狂的なファンは手を上げ、大声で歌ってはいるが、それ以外は棒立ち状態であっけにとられているという感じ。手拍子やコーラスをつけてはいても、感動のあまりではなくて、同情のあまりという感じだ。
MCも「ハイ」と「ゲンキ」の連発だけで(25年も日本に来てるのに、覚えた日本語が「ゲンキ」だけだなんてね、と本人も言っていたが)、とどこおりがちだった。あれだけ歌えてなければ。本人だって何を話してもむなしくなってしまうだろう。それでも無理矢理オヤジギャグ(メンバー紹介でデニー・カーマッシのときに「バンドでいちばんペ*スの大きな男」と言うのはやめろ〜)をかまそうとするのが悲しい。途中で話すことを忘れて言葉に詰まるという場面もあった。
せめてバックの演奏だけでも楽しもうと思ったのだが、こちらはこちらで見事にばらばら。PAのせいもあるのかもしれないが、バンドとしてのマジックなどまったくない。途中デヴィッドが引っ込み(白い王子様シャツに着替えてきた。シャツの裾を外に出しているのが年を感じさせた)、インストを1曲やったのだが、最初のうちはデヴィッドの歌にはらはらしなくてすむからいいかなと思ったものの、結局ちっとも楽しくなかった。いくら実力者ばかりだといっても、音楽性の違う人間を金で集めただけの集団というのは魅力がない。
デヴィッドの誕生日だったので、途中でトニーが音頭をとって会場中で「HAPPY BIRTHDAY」の大合唱。金髪の美女がろうそくに火のついたバースデイケーキを運んできて、それをデヴィッドが吹き消すというシーンもあった。最後にトニーが三三七拍子もやらせてセレモニーは終わり。そのあとの"IS THIS LOVE"では、デヴィッドは涙にむせびながら歌う。当然ながらさらに声が出ない。
アンコール1曲目の"AIN'T NO LOVE IN THE HEART OF THE CITY"は素晴らしかった。最後だから安心して声が出し切れたのか(あるいは短時間だけ効く喉の薬でものんだのかもしれない)、往年の彼を思い出させるようなブルージーで魂のこもった歌いっぷり。このときばかりは夢の王子様モードに入ってうっとりと聞き惚れることができた。この曲がなかったら、24日の渋谷のチケットはダフ屋に売ってたかもしれない。ラストは"STILL OF THE NIGHT"。うーむ、声が出なくなってるのにこれをやるか、という感じだが、なんとか形になっていた。しかし、サイクシーといいデヴィッドといい、お互いにラストにこの曲ももってくるあたり、確執を感じるなあ。それでもまあ、客席からはちゃんと掛け合いの声が聞こえていたし、それなりに形のついたラストではあった。
1日しか見ていないので、この日がたまたま調子が悪かっただけなのかもしれない。でも、仙台に行った友人は仙台でも同じだったと言っていた。24日の渋谷がどうなっているかで最終的な結論は出ると思うが、もし今のデヴィッドにあそこまでしか歌えないなら、彼はもう引退すすべきだと思う。歌の巧さ、声のよさで売ってたヴォーカリストがこんな形で老醜をさらすのはあまりにも悲しい。偉大な過去の栄光を守ためにも、もうライブ活動はすべきではないと思う。
いっそのこと、若くて無名で実力のあるヴォーカリストにWHITESNAKEの権利を譲ってしまうというのはどうだろう? そうすれば、WHITESNAKEの名曲をこれからもずっとライブで聴くことができる。そしてその公演に、気が向いたらデヴィッドがゲストで出てきて、"AIN'T NO LOVE IN THE HEART OF THE CITY"だけ歌うのだ。「さすがオリジナル」と客をうならせ、すっと引っ込むというのが、偉大なシンガー、デヴィッド・カヴァーデールにふさわしい姿ではないかと思うのだが・・・。