SHOH's LIVE REPORTS

Harem Scarem with Von Groove (Dec 22,1995 at Club Citta Kawasaki , Kanagawa)


会人やってると、つらいこといっぱいあるよね。自分ひとりが黙って我慢すればすむことだったらまだなんとか耐えられるけど、どうしたって戦わなくちゃならないとき、しかもそれが最終的には自分の無力を思い知るだけの結果にしか ならないとわかっているときの腹立たしさと悔しさ……。

なんて、いきなり愚痴っぽい話になってしまったけれど、きょうチッタに着いたときの私はまさにそんな気分のまっただなか。好きな音楽でいやな気分が少しでも晴れるかと思ったけれど、イキのいいVON GROOVEの演奏を聴きながら、どうしてもノレない自分にまた腹が立って、バンドにも申し訳なくて、最後のほうはそのジレンマでほとんど吐きそうな状態だった。HAREM SCAREMが登場するまでの休憩時間、本気で帰ってしまおうかと思ったほどだ。

そして、30分ほどのちに彼らが登場し、最初の音が聞こえてきたとたん、目の前の重くたちこめた霧がさあーっと晴れるように、私の頭の中からいましがたまでのいやーな気分が全部吹き飛んでしまった。1曲目など、音のバランスがまだとれていなくて、ヴォーカルの声がバックの演奏にほとんど埋もれてしまっていたにも関わらず、だ。

VON GROOVE(と熱心なファン)には本当に申し訳ないのだけれど、「なるほど、一流であるということはこういうことなんだな」と、はっきり体感してしまった夜でした。

と、ここまでが概論。

で、完全に立ち直って大いにノリまくったのちに、感じた各論をこれから書きます。

客の入りはまずまず。超満員ではなかったけれど、悪いというほどのこともなかったです。まあ、きょうは最終日ということもあったのかもしれないけれど、彼らの知名度から考えるとまあ妥当な線だったんじゃないかな。

客入れの音楽がずーっとALICE IN CHAINS だったのがひっかかる。実は3rdは聴いていなかったのだけれど、回りの評判を聴くとオルタナ寄りとかいう話も聞いたし、あの噂はやっぱりほんとだったのかも、などと不安に脅える私だった。「ROOSTER」 がかかったときは、ここで曲がフェイドアウトしてライブが始まったら、まんまDREAM THEATER じゃないか、などとも考えたりして。

しかし、心配は杞憂に終わり、無事に(?)VON GROOVEの演奏が始まった。

メンバーが登場しての第一印象は、「詐欺だ!」。

きのう見たビデオクリップでも、決してルックスのいいバンドとは思わなかった。でも、あれでは一応古臭いとはいえハードロックバンドの形をしていたのに、それにヴォーカルだって、額にバンダナなんて巻いてRAGEのピーウィーか、元WHITE LION(FREAK OF NATUREか)のマイク・トランプに似てるかな、なんて思っていたのに……。

出てきたのは、ビデオクリップの倍はあろうかという腕とお腹のヴォーカリスト(そういえば、あのビデオクリップで妙に窮屈そうに革ジャンを着てるように見えたわけだ)と、白っぽい金髪を短かめのマッシュルームカットにしたパンクのお兄さんのようなギタリスト。ベーシストがかろうじてアルバムジャケットの写真の面影を残しているのが唯一の救い。

とはいうものの、演奏はなかなかよかったです。音のまとまりがいまいちなのは、前座という条件を考えると仕方のないところでしょう。あと、ドラムのリズム感がちょっと難ありなのも許そう。ヴォーカルの声はよく出ていたし、ひょうきんとも言えるノリのよさで一生懸命客を煽り、床に貼ったアンチョコを見ながら日本語を喋ってはコミュニケーションをはかろうと努力してたし(しかし、「おやすみなさい」を「おや」と言ってから「すみなさい!」と叫ばれてもねえ)……。とにかく、いい奴らでした。

途中のバラードでは客の男の子をステージにあげ、タンバリンを叩かせたりする演出も。しかし、何を考えてるのか「NOBODY LOVES YOU」 のところで、歌いながらその子を指さしたのは失礼なんじゃないかと思ってしまったのは深読みしすぎ?

最後には例のギタリストがパンクっぽいリフを弾きながらいきなり歌い出し、何かと思ったらKISSのカヴァーだったという意外なエンディングで大いに盛り上がっていました。

私は全然気がつかなかったけど、HAREM SCAREMの演奏の間、ずっと客席で見てたらしいです、VON GROOVEのメンバー。終わってからも特に取り巻かれることもなくて、逆にマイケルのほうから近くにいた女の子に話し掛けていたらしい。

さて肝心のHAREM SCAREM。私はこのバンドに特別な思い入れはなくて、2ndの「MOOD SWINGS」 も回りが絶賛するから買ってみたものの、妙にピロピロした感じが強くて、いまいち入り込めなかったの。3rdはさっきも書いたように買ってもいなくて、どうやらオルタナっぽいらしいということで期待もしていなかった。それなのに、あんなに感激してしまったのは不思議だ。

とにかく音のまとまりが最高! 跳ねるような躍動感がありながら充分な重さとグルーヴ感を持ったドラムスの存在感に驚いた。ギターの音色も、アルバムで聴いたときのような表面をすべるようなピロピロ感はなくて、落ち着いた美しい音色だったのにも感激した(私のところからは見えなかったのだけれど、あとから聞いた話ではレスポールだったのね)。

ヴォーカルの声質が、いわゆるHR系のヴォーカリストとしては珍しいタイプだったのにもびっくりした。中音域の少ししゃがれたような声で、どちらかというとバックの演奏に埋もれてしまいがちな音域なのだけれど、そのハンデをはねのけるだけの力強さとしっかりした歌唱力。新譜からの「BLUE」なんて、初めて聴いたのに胸の奥がジンとするほど感動してしまった。

そしてコーラス。彼らに関しては最初から重厚なコーラスが売りのひとつだったのだけれど、これに関してはきょうは音響がいまいちだったかも。せっかくのハーモニーが演奏の反響に隠れて聞こえにくくなっていた(マイクのエコーが効き過ぎていたという説もあり)。それでもやはりそれぞれの曲がコーラスで決まっていたことも確か。ラストの「NO JUSUTICE」なんて、コーラスのところのかっこよさに鳥肌が立ったほど。ドラマーのダレンがコーラスの要だったことを知ったのもきょうの発見でした。

ヴォーカルのハリーは、きのうのTVで見たときはあまり印象に残らない顔だと思ったし、きょうも始まったばかりのとき、ギターのうしろでキーボードを弾いていたときにはサポートメンバーかローディかと思ったくらい目立たなかったのだけれど、実際に歌い始めたとたんに可愛さが表に現われてきて、最後のほうにはいかにもフロントマンという風格さえ感じてしまったのはなぜ?

彼はキーボードのほかに、2曲おきくらいにギターも弾くのだけれど、彼がギターを弾いて4人でやったインストの曲は、今まで見た色々なバンドの中でも出色だった。DREAM THEATER みたいにテクニカルで完成度が高くてため息が出そうなものではないんだけど、聴いてて実に楽しくて体が自然に動いてしまう。アルバムには入っていないみたいだけど、即興でもないみたいだと、HAREM SCAREM通の友人が言っていた。彼はきのうのチッタにも来ていたのだけれど、曲順は同じで、きのうはアンコールを2回に分けて1曲ずつやっていたのを、きょうは1回で2曲続けてやったのが違うとこらしい。

結局、帰りにはVON GROOVEの1stとHAREM SCAREMの3rdを買って、おまけのサインももらって帰ってきた私なのでした。でも、帰ってすぐ聴いているのだけれど、ライブのほうが圧倒的にいいですね、HAREM SCAREMは。

なんにせよ、今年最後のライブがすてきなものでよかった、と神様に感謝したい気分です。音楽ってほんとうに素晴らしいものだなあ、ってしみじみ感じながら眠ることにしましょう。


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