TNT (April 26,1997 at Hibiya Yagai Ongakudo,Tokyo)
過去2回も日比谷野音で雨に降られてさんざんな目に遭ったもので、きょうは天気予報を見ても1日快晴と書いてあるにもかかわらず、しっかりポンチョを持って行った。
しかし、ほんとにいい天気だった。暑すぎることはない程度に暖かくて、野外でライブを見るには絶好のお日和。開演30分前くらいについた野音では、缶ビールを片手にしたオーディエンスが、みんないつもよりもずっとなごんだ表情で待っていた。
Tシャツは3種類、赤と黒はそれぞれ胸にTNT のロゴが入ったもの、それに黒のチビTがあるのがいかにも今のTNT の音楽性を表しているようで面白い。それにしても、Tシャツ売場の前にできている列に並んでいるのが、ほとんど女性だというのも、近頃では珍しい光景かもしれない。会場を見渡しても、実に女性客が多い。やっぱりね。←って何がやっぱりなんだか
まだ昼間のように明るいうちにコンサートは始まった。ステージ袖に待機しているメンバーがしっかり見えてしまう。以前と同じに、右側がロニー、左側がモーティ。ドラム台はちょっと変則でモーティの後ろあたりに置かれていた。ロニーのうしろにキーボードが設置されているので、そのへんとの兼合なのかも。ドラム台とキーボードの間に10段くらいの階段が作られている。この階段は、途中でモーティが上がって、てっぺんのところで客を煽りながら弾いたり、トニーが上がって歌ったりというふうに使われていた。
モーティは黄色っぽい長袖のインド風の上着に黒のピッカピカのビニールパンツ。彼って全然変わらない。確かもう20歳をすぎた息子がいるんだと思うけど、とてもそんなふうには見えない。ロニーは黒にブルーっぽいプリントが前見頃だけにされた半袖のシャツに、黒のジーンズ。彼はしっかりオヤジ化してた。足は細いけど、上半身は向こうの人によくあるような厚みのある体になってた、と思う。ドラマーは黒の半袖Tシャツに黒のスウェットパンツで、長身、プラチナブロンドをベリーショートにした若者。けっこう可愛い。キーボードは、すごく長い豊かな金髪で、黒のメタルTシャツに黒のジーンズ、それに黒の上着を羽織った、いかにもメタラーっぽいお兄さん。
そして、少し遅れて登場したトニーは・・・うーん、PRINCEかなあ。髪は写真通りのショートだけど、思ったよりもカールがかかってた。あごのひと筋の髭も写真通り。おまけにサングラスをかけているもので、表情がえらく険しく見える。このサングラス、この前のBON JOVI 横浜公演のWOWOW放送分でジョンがかけていたものと似た、目尻吊り上がりタイプだからね。衣装は濃紺の少し光る素材のシャツに、ブルーに白のプリントがされたジーンズ。意外に地味、というか、どういう方向を目指しているのか、よくわからない雰囲気。メタルでもないし、かといってグランジでもない、でもってもちろんギターポップでもないのよねえ。
最初の3、4曲はすべて新譜からの曲。これはけっこう冒険だったかも。来てる客は明らかに過去のTNT の音を求めて来てるのが明らかだから、曲に対する反応は鈍い。決して悪くはないし、好意的には聴いているのだけれど、それは「待ってればそのうち昔の曲をやってくれるもんね」という安心の上になりたっている好意、という気がしないでもない。
個人的には、最初の曲から「あら、意外にいいじゃない」という印象を持った。トニーの声が前よりもずっと魅力的に聞こえる。ちょっと甘い感じの響きがなかなか男っぽいし、無理していない分余裕も感じられるし。ただ、曲そのものはやっぱり、どれもこれおもどこかで聴いたことがあるような感じで、これ!というツカミのあるものがないのが弱点だろうなあ。
ギターソロは相変わらずのお遊び満載。でも、これってなんか子供騙しみたいで、一度見たら充分という感じかなあ。元々ギターソロとかドラムソロとか、あんまり好きじゃないからかもしれないけど。TNT の場合、スーパーギタリストのバンドというイメージはないから、客もギター小僧率が低いしね。あんまりソロをやる意味がないように思うのだけれど。
トニーが途中でサングラスをはずす。げげげげーっ! なんだこれは〜? 目の回り真っ青じゃない。一瞬、殴られたのかと思っちゃった。アイラインだかアイシャドーだか知らないけれど、とにかくあの目は尋常ではない。一緒に行った友人が「オジーかと思っちゃった」と言っていたけれど、まさにそういう感じ。あまりにも化粧が濃くて、表情がまったく見えない。その焦点の定まらない目で、ステージ前のほうに出てきて客を煽るのだけれど、正直言って怖い。私はBブロックのいちばん前の端のほうだったので、ステージからかなり近い位置だったんだけど、間近に見られてうれしい、とか思えないくらい怖かった。
ステージングそのものも、昔の溌剌!という感じではなくて、凄みを強調したようなものになっているから、MCだけが昔のままに元気いっぱいで会場に響くという感じだった。
それにしても、歌を客席にふる回数の多いライブだったなあ。昔の曲ではもちろん、みんな歌っているんだけど、新譜のバラードをいきなり客席にふったときには、「うっわあ、これは無理だよ〜」と思わず叫んでしまった。回りを見回しても、みんな困ったような顔をして口をつぐんでいる。わずかに真ん中あたりの女性ファンの固まりが一生懸命叫んでいるのが聞こえて、なぜかホッとしてしまう気弱な日本人なのであった。
前半がおもに新譜を中心にした構成。後半は昔のヒット曲を並べた構成で、もちろん後半がおおいに盛り上がったのだが、私はなんとなくしっくりこないものを感じてしまった。トニーの声は、出ているようではあったけど、肝心のところは全部客に歌わせているのでよくわからない。それに、ほんとに高い部分はキーボードの人がコーラスで出している声のほうが大きかったような気がする。ここぞというパートは、もちろんトニーがシャウトするのだが、その声が昔と違ってかなりダーティだ。わざとやっているのかもしれないけど、曲調と合わないような気がしたなあ。
それになにより、あの目の化粧とステージング。別に昔の通りでずっといてほしいとは思わないんだけど、彼らの場合、昔の曲と今の曲があまりにも違いすぎるから、別のバンドのライブなのに、ヴォーカリストが同じで、同じようなパフォーマンスを見せられているような、そんな居心地の悪い思いをしてしまった。最初から最後まで、「なんか噛み合っていないなあ」という思いの残る内容だった。
やっぱり彼らは、今回のアルバムを作るにあたって、TNT の名前は使うべきではなかったのかもしれない。
アンコールの最後で、トニーが「I'LL BE BACK AGAIN SOON!」と叫んでいたのが妙に印象に残った。普通は「WE'LL BE BACK」よね。やはりこれが終わったら脱退して、ひとりで戻ってくるつもりなんだろーか。
あ、結局雨は降らず、最後は肌寒くなってはきたものの、野外ならではの爽快感は満喫いたしました。