SHOH's LIVE REPORTS

Thunder (Nov 15,1997, Empire, Shephard's Bush, London)


入れの音楽は1月の来日のときと同じように思えた。T REX、ALICE COOPER、MOTORHEAD、そしてDEEP PURPLEの"SMOKE ON THE WATER"が始まると、満員の会場からいっせいに歌声があがった。その迫力たるや並みのボリュームではない。男 性ファンが多いし、西洋人というのは元々声帯が太いからドスの効いたコーラスになるのだ。続く"CAN'T GET ENOUGH"で「ああ、じゃあきょうはこれやらないのね」と落胆する私たちって、日本でと同じことをしてるような。

PAUL RODGERSの声に気持ちよくのっていると、ステージが暗くなり、客席から歓声があがる。幕もないステージの上には先ほどからスツールが2つ置かれていて、1曲目がアコースティックセットなのは一目瞭然だが、はたしてどの曲をやるのだろう。

今回のライブはWOLVERHAMPTONで2日、LONDONで2日連続して行われ、その4日間で彼らの持ち歌すべてを演奏し、ライブアルバム用に収録するという企画だった。ビデオシューティングもあると聞いていたが、WOLVERHAMPTONを見てきた2人によると、ビデオカメラは入っていなかったそうだ。さすがに4日もビデオクルーを雇うだけの予算はなかったのかもしれない。きょうも、それらしい機材は見えない。多分、あす、最終日で必要な場面はまとめて撮るつもりなのだろう。ということは、明日のセットリストはかなりベストヒット的なものになり、きょ うは逆にマニアックになるのかも。

そんなことを考えていると、ステージに人影が現れた。ルークとダニーだ。ダニーは今回はジャージをはいていないという噂は聞いていたが、確かに下はジーンズだった。が、上に着ているシャツは・・・白い衿付きの半袖シャツで、なんと胸のところに20センチくらいの太い真っ赤な縞が入っている。一体どこを探したらこんなシャツが手に入るんだ。ルークは黒の衿つき長袖Tシャツで、前立ての部分だけ白く、ジッパーで開け閉めするようになっている。最初に見たときは、下に白いシャツを着て、上にジャケットという粋な姿かと思って期待したのだが、よく見たら、ただの普段着だった。下は黒の皮(ビニール?)パンツ。

椅子に座ったふたりは、すぐに演奏を始めた。「THRILL OF IT ALL」からの"YOU CAN'T LIVE YOUR LIFE IN A DAY"だ。アコースティックのときはたいていそうだが、ルークのギターはけっこう適当で素人ぽい。まあ、コーラスをつけながらだから、なかなかむずかしいものはあると思うのだが。

この日私は、日本を昼発ってロンドンに3時すぎに着き、ホテルにチェックインしたのが5時すぎだった。エレベーターで自分の部屋に上がろうとしていると、ちょうど降りてきた友人とばったり。「今から行くところなの」「あ、一緒に行くから待ってて」とあわてて部屋に行き、とりあえず必要なチケットやらお金やらを身につけて、すぐに部屋をあとにし、そのまま会場のあるSHEPHARD'S BUSHへと向かった。飛行機の中でほとんど寝られなかったので、36時間くらい寝てないことになる。が、この時点ではまだ緊張と興奮のため、疲れも感じていなか った。

そして、いきなりのアコースティックでダニーとルークが一緒に歌っている姿を見、声を聴いたとたんに、「ああ、やっぱり来てよかった」とほとんど涙が落ちそうになってしまった。ダニーの声が胸や頭や皮膚のすべてを貫いて、体中にエネルギーを充電させてくれてるような気がしたのだ。

1曲終わるとすぐに椅子はかたづけられ、他のメンバーが登場して"BACKSTREET SYMPHONY"へとなだれこむ。ベンは白の半袖Tシャツに黒いジーンズ、クリスは黒の長袖シャツに黒のジーンズ、ハリーはあれ? なんだったっけ?

客席からはフルコーラスを歌う声があちこちから聞こえる。噂には聞いていたが、やはり地元で見るTHUNDERのライブは強力だ。ダニーの動きは相変わらずのやんちゃ坊主ダンスで、髪が来日時よりもさらに短くなっているので、ほんとにもうガキ大将みたい。

「ななな」の"PILOT OF MY DREAMS"が始まる。ファンはどの曲に対してもおそろしく反応がいい。この会場には2階席もあって、ほんとうは今日は2階で座ってみるつもりだった。が、4日連続チケット(パスポートと呼ばれる)を持ってる客は1階のスタンディングでなくてはだめ、と言われて、仕方なく下に来たのだった。が、あとから考えてみるに、パスポートを買って4日全部行こうという意気込みのコアなファンを1階に集めたのは正解だったかもしれない。会場の一体感がふつうじゃないのだ。

大体が外国のライブハウスって、演奏を聴かずにお酒を飲んで話してるだけの人もいて、それが不愉快ではなく融合できる空間であると思うのだけれど、ここ、エンパイアの、今夜に限っては、そんな悠長な楽しみ方をしている人は皆無のようだった。もちろんビールの消費量はすごくて、酔っ払って円陣組んで踊ってる連中もいたけど、それだってライブが楽しくてはしゃいでるというのがわかる、無邪気な騒ぎ方だったもの。←そばには行きたくなかったけど

"STAND UP" の途中で客席からだれかがブラを投げた。拾い上げたダニーが「これ、だれの?」と広げてみせ、「ものすごくでかいね」と笑いをとる。そこからすぐに"LOVE WORTH DYING FOR"へと入る展開がすごい。この曲を聴くと、来日したときの五反田でのつらいシーンやら、ビデオクリップの信じられないくらいスラップスティックなお笑いやらの印象がごっちゃになって、うっとりしていいのか泣いていいのか笑っていいのかわからなくなる。でも、とりあえずきょうのダニーは声の調子もいいし、歌詞だってほんとにロマンチックなんだから、 うっとりしておくことにしよう。

しかし、ルーク、肝心のところで間違えるなよなあ。間違えるとくるっとうしろを向いてアンプやドラム台のほうに歩いていってしまい、しばらく客席に顔を向けないのが笑える。そういえば、きょうのルークは珍しく白のレスポールを持っている。やはりビデオ撮りを意識しているんだろうか?

手拍子をうながして"DON'T WAIT UP"に入る。THUNDERのファンてすごく素直で、「CLAP YOUR HANDS」と言われるとすぐに両手を上にあげて叩きはじめる。日本人だって最近はここまで素直じゃないかもしれない。

ハリーのドラミングがかっこいい"LAUGHING ON JUDGEMENT DAY "のあとに"LOW LIFE IN HIGH PLACES"が始まると、会場は一気にカラオケ状態。この曲ってバラードの一種なんだけど、決して弱々しい曲じゃないから、こうしてみんながいっせいに歌ってボリュームが増すと、なんともいえない迫力が出てくる。考えてみるとTHUNDERの曲ってそういうのが多い。だから、いつまでもあきずに聴けるのかもしれない。もちろんダニーの声質も大きく関係してるが。今回思ったのだけれど、彼の声って、どっちかというとおっさんのダミ声に近いものがあるのよね。 決してロマンチックな声ではない。それなのにこうしてライブで聴いていて、うっとりさせられてしまうのは、やはり表現力なんだろうか。

歌い終わるとダニーが「YOU'RE THE BEAUTIFUL PEOPLE」とほめてくれた。しかし、これってまさかMARILYN MANSONの曲にひっかけているのでは?

ハリーが前に降りてきてギターをかけ、ルークがハーモニカをふく。これまた合唱曲になる"A BETTER MAN"だ。ルークは、最初から最後までギターは持たず、左手にハーモニカを持ったまま、スタンドマイクの前でコーラスをつけている。ゆったりした曲なのに、ハーモニカを持った手の指がせわしなくビートをきざんでいるのが笑える。けっこうせっかちなタイプなのかも。それとも緊張してるのかしら? まさかね。

この曲は友人の結婚式のためにフルコーラス覚えたので、地元英国民に負けないくらい歌える。曲の最後のほうでダニーが歌うのをやめてしまったが、ファンはそのままずーっと歌い続ける。とうとう最後まで歌い通してしまったもので、ダニーは「あきれた」という表情でメンバーと顔を見合わせ、「UNBELIEVABLE!」と叫んだ。

"LIVING FOR TODAY"を手拍子で盛り上げた次は、ベンがなんと"NUT ROCKER"をフルヴァージョンで演奏した。今までは"BALL AND CHAIN"の導入でちょこっとだけ弾いてただけだったものだが、きょうはおもいっきり弾きまくり状態。キーボードがステージ袖に向かっておいてあるので、表情が見えないのが残念だったが、背中を見てるだけでも楽しんで弾いているのがよくわかって、こっちまでうれしくなってしまう。この部分もアルバムに入るのかなあ。

"LIKE A SATTELITE"は、ライブではあまりやっていないと思うのだが、ファンの間での人気は高いから、これまた合唱状態。ダニーはちょっと歌い込みが足りない感じかな。ときどきフェイクしてるみたいな部分があった。この曲、むずかしい。

"MOTH TO THE FLAME"、"SHE'S SO FINE"と大好きな曲がきてご機嫌の私だったが、次の曲のイントロが始まったとたんに固まってしまった。"DON'T WAIT FOR ME"だ。91年だったかな、2回だけの東京公演で帰ってしまった来日時(しかも2日目はダニーが足をくじいて動けなくなるというアクシデント付き)以来、日本ではやっていない、と思う。しっとりしたバラードで始まり、徐々に盛り上がって、最後はハードな70年代風のリフでおもいきり気分を高揚させて終わるという、THUNDERの真骨頂が発揮できるタイプの曲だ。ダニーの歌唱力とルークのソング ライティングが絶妙に組み合わさったときに生まれるマジックともいえる曲。構成がけっこう複雑だから、ライブの流れの中でセットに組み込むのがむずかしいのかもしれない。こんなにいい曲なのにめったに聴けないから、よけいにありがたみが増すのだろうか(^^;)。私にとって、この日のハイライトはまさにこれだったと言える。

"RIVER OF PAIN"の頭の歌い出し部分を完全に客席にふってしまい、思いがけなく小さな声しか返ってこないのにちょっとあわてながらも、エンディングへとなだれこむ。"BALL AND CHAIN"は、間に手拍子やら掛け声やら叫び声やらでファンの忠誠心をためす(^^;)、不思議なもので必死に叫んでいるうちにどんどん気持ちが熱くなっていく。ほんとにダニーってばのせ上手なんだから。

アンコール1曲目はどこかで聴いたことのある曲。"DANCE TO THE MUSIC"というタイトルをたよりに帰国後検索してみたら、SLY AND THE FAMILY STONEの曲だった。多分、とおい昔、街に流れているのを聴いたことがあるのだと思う。しかし、この曲はアップテンポでいながらソウルフルで、次にくる"DIRTY LOVE"と実にぴったりと合っている。カヴァーをやってるという違和感がまったく感じられない。

"DIRTY LOVE"で最後の力をふりしぼって踊ったあとは、もう死人状態だった。まともに食べてないうえに寝不足の極致だし、足はむくんでるし、まるで夢遊病者のように動いていた。ホテルにたどりつき、お風呂にゆっくりとつかって、ベッドに入ったのが2時すぎ。そのままストンと爆睡してしまい、翌日目がさめたら昼の1時だった。

1. YOU CAN'T LIVE YOUR LIFE IN A DAY
2. BACKSTREET SYMPHONY
3. PILOT OF MY DREAMS
4. STAND UP
5. LOVE WORTH DYING FOR
6. DON'T WAIT UP
7. LAUGHING ON JUDGEMENT DAY
8. LOW LIFE IN HIGH PLACES
9. A BETTER MAN
10. LIVING FOR TODAY
11. NUT ROCKER
12. LIKE A SATELLITE
13. MOTH TO THE FLAME
14. SHE'S SO FINE
15. DON'T WAIT FOR ME
16. RIVER OF PAIN
17. BALL AND CHAIN
-ENCORE-
18. DANCE TO THE MUSIC
19.DIRTY LOVE


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