SHOH's LIVE REPORTS

Smashing Pumpkins (Feb 27,1996 at Shibuya kokaido,Tokyo)


リーってばほんとに嘘つきだ。なにが「まったく同じ曲をまったく同じように演奏する」よ。

「定刻開演をいたしますのでお早めにお席におつきください」としつこいくらいのアナウンスがあったのも道理、しっかり6時半ジャストに始まった追加公演。

23日と同様、ぞろぞろと登場したメンバー。ビリーはなんとあの坊主頭にバンダナをかぶっている。おまけにダーシーは肩より長いロングヘアになってるし。まったくなんて連中なんだろう。

アコースティックセットの態勢に入り、1曲目を歌い出したとたん、ビリーが音程をはずしたのかひとりで笑いだしてしまい、曲がストップ。頭にかぶっていたバンダナをひっぺがすと、ジミーに向かって投げつける。別に怒ってるわけではなくて、ふざけて笑ってるのだが、あの体でやられると不気味だ。

気をとりなおして"TONIGHT、TONIGHT"を歌い出したが、どうもきょうは声の調子が変。高いほうの声が出にくそうな気がする。さっき間違えたのも、そのあたりが原因なのかも?

そのあとの曲も、どれもみんな23日に比べると出来が劣る。フェイクが激しいし、ビリー自身があまりのってるとはまったく思えない。MCもほとんどない。1度だけ日本語で「どうもありがとう」と言ったくらいかな。

だいじょうぶかなあ、という不安を裏付けるように、アコーステックは7〜8曲で終わってしまった。イハの歌と、立ち上がってのヴァージョンがすべてすっとばされてしまったわけ。

休憩時間も、この前みたいに凝ったBGMはなくて、ただ音合わせの雑音が聞こえるだけで、疲れていた私は思わず居眠りしてしまったほど。うーむ、この違いはなんなんだろう?

それに、さっきのアコースティック・セットで感じたのだけれど、渋谷公会堂の音のバランスはとどろきアリーナより悪い。これで第2部の轟音セットをやられたら難聴になるんじゃないだろうか。

などと、うつらうつらしながら考えているうちに20分の休憩(この日はあらかじめアナウンスで知らされていたのだが、実際には20分以上かかってたかも)が終わり、第2部が始まった。ビリーとイハは23日と同じ服装。ダーシーは袖がピンクで見頃が光る白のTシャツにジーンズ。

オープニング3曲はほんとにすごくて、客のテンションも一気に上がる。白い服を着て鉢巻きをした男の子が前のほうでぴょんぴょん翔び跳ねているのが、悪霊が乗り移ったイタコみたいに見える。

しばらくして前のほうから外人客が10人くらい、ぞろぞろ最後列のほうにやってきたのだが、これは前のほうで暴れていて係員に注意された連中らしい。でも、曲が激しくなるとまたすぐに1人2人と前のほうに走っていってしまう。

それにしても、やっぱり席ありのライブはスマパンにはまったく合わないぞ。もちろんみんな立って体を動かしてはいるんだけど、間に席があるのとないのとでは大違いなのよね。大体、人口密度があまりにも薄くてさびしくてしかたがない。前のほうも、ローリングやダイブなんてできないから、ステージを黙って見上げてるだけみたいだし、メンバーも調子狂っちゃうだろうなあ。もっとも、ダーシーなんて客席ほとんど見てないけど。

ビリーの声の調子は相変わらずイマイチだけれど、この手の曲になるとあまり気にならなくなる。ステージングそのものはワイルドだし、特に疲れているようにも見えないから、単に喉が枯れてしまっただけなのかも。

本編ラストから2番目の"SIAMESE DREAM"で、この前と同じようにビリーとイハがギターをこすり合わせるポーズが入ったが、ここでビリーが右手を前にかざして右足を踏み出した。あれ? この姿、最近どこかで見たことがあるような……? そうだ! PAGE/PLANTで見た、テルミンを操るジミー・ペイジだわ。スマパンってテルミンなんて使ってたんだ。

アンコールは2曲。1曲目には、先日と同様、ダーシーの夫がドラムを叩いて"1979"を演奏した。ただし、この日はビリーが紹介。「ダーシーの夫で CHEAP TRICK のドラマーもやってる」って、あのねえ。

アンコールが終わり、メンバーがさっさと引き上げて、さあ次のアンコールが……と思っていたら、なんと場内が明るくなってしまった。しかも「本日の公演はすべて終了しました。ロビーにて……」というアナウンスまで始まってしまったではないか。 場内から上がるブーイングの嵐。やっぱりきょうはビリーが風邪をひいたかなにかで調子が悪かったんだ。だからこんなに短い(といっても2時間以上たってたけど)コンサートなのね。

荷物をまとめて出口まで行きかけたところで場内が再び暗くなった。歓声が上がる。あわてて席に戻る人々。

あらまあ、メンバーが出てきて演奏を始めた。ビリーは機嫌がいいのか悪いのか、皆目見当がつかない。ギターを壊しそうなフリをするけど、結局は壊さずに終わったり、マイクスタンドにつけてあるピックを上に投げ上げては受け止めているうちに、ピックがなくなってしまい、あわてて床に落ちていたのを拾って弾き始めたり、天然ぼけという感じで笑える。

で、最後の"FAREWELL AND GOODNIGHT"では、なんとダーシーとジミーが手ぶらで前に出てきてドラム台のところに座り、イハが座ってギターを弾き、4人が順番にソロを歌うという、この前とまったく違うヴァージョン。ハーモニーもすごくきれいに決まって、この日いちばん感激してしまった。正直言って、ここまでのところは、「何かが違う。どこかでボタンをかけ違えてしまったんじゃないか」という気がして、思いきりノレなかった。席が邪魔していたせいだけではなく、メンバー側にも、どうしてもお互いのリズムが合わない歯痒さがあったんじゃないか、と思うのだが、この最後の1曲には、この夜のすべてを許せてしまうだけのものがあった。「この1曲だけのためにでも、来てよかった」って思えたのだ。

アンコール1回だけで場内が明るくなったとき、あれで本当に終わるつもりだったのか、それとも演出だったのかはわからない。でも、あれで終わってしまったとしたら、私はライブレポートは書かなかったと思う。つまらないライブの感想を書くほど、私はヒマじゃないもの。

他のメンバーが引っ込んでしまい、最後まで弾いているキーボードの横に立ち、一緒に弾くビリー。そして最後の最後、キメのフレーズを思いっきり力強く叩きつけるように弾いたあと、キーボード奏者の肩を抱いて、仲良く一緒にステージを去っていったのでした。

いやはや、調子がよくても悪くても、人騒がせなバンドだぜ、スマパンって。


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