Smashing Pumpkins (Feb 23,1996 at Todoroki Arena,Kanagawa)
いやあもう、とどろきアリーナは遠かった。
最後の曲が終わって、ダッシュで会場を走りでて、外に待ってたバスにいちばん乗りして駅に着き、タイミングよく入ってきた電車に乗れたというのに、それでも家に着いたら0時。
ライブそのものが7時30分(ほとんど遅れなかったと思う)から始まって、途中20分くらいの休憩をはさんで10時30分までだったので、ふつうのライブに比べると終演時間が遅かったことも原因だったんだけど、観客のかなりの数が、途中で電車の都合からか帰っていったのが気の毒だったなあ。
という愚痴はおいといて、ライブそのものは最高!
私はスマパンを最近聞き始めた未熟者で、雑誌なども読まずに行ったので、今回のライブはほんとうに先入観なしの初体験。予想通りだったところや、まったく考えてもいなかったことがごっちゃ混ぜで、頭の中が混沌としているのだけれど、とにかく結論は「やっぱりこの人たちめちゃくちゃかっこいいわ!」ってところに落ち着いた。
会場のとどろきアリーナは、ほんとうに本物の体育館。それ以外の何物でもない。だだっ広いフロアの両側を観客席が見降ろすように作られているが、そこに人は入れていない。フロアの前方にステージ、後方にPAのための柵で囲まれた一角があるだけで、あとはまっ平らなフロアがあるだけなので、入場してきた観客たちは、ステージ前方に向かうか、壁ぎわにごきぶりのようにくっついて腰を降ろすかの2パターンに分かれていた。もちろん、体力のない私はゴキブリ組だ。
ステージと言っても、ひだを寄せた3枚の幕がバックにかかり、両側に大きなデイジーの花(花芯が直径50センチくらいの丸い大きな電球になってて、それがいろんな色に光る)が1つずつセットされているだけ。すごーくシンプル。後ろのほうから見た限りではそれほどスピーカーも積んでないみたいだけど、こんなに広いところで音量は足りるのかしら?
入口を入ってすぐのところには、屈強な黒人セキュリティが2人仁王立ちしていて、走り出したりする客がいると注意したりしている。外国のスタジアム・ライブに来てるみたい。
ほとんど時間ぴったりに場内が暗くなり、歓声(若い白人男女が多くて、けっこう前のほうは騒がしかった)が響き、最前列のほうにはすでに逆さになった足が見えている。
やがてなんのてらいもなくメンバーがぞろぞろと現われて、それぞれのポジションについたのだが、ここでまず【驚いた事その1】。
ビリーが頭つるつる(゚.゚;)! あとから見た雑誌ではすでにこの頭で写っていたが、私はビデオクリップでしか見たことがなかったもので、なんとなく小柄で髪の毛ぼさぼさの人という印象があった。ところが、目の前に現われたのはガタイもすごくでかくて、まるで大入道。 着てる服が遠くからは人民服のように見えた(ほんとはパジャマだったらしい)のも不気味さを増していた。
で、【驚いた事その2】。
全員(キーボードを除く)が椅子に座ってしまった(゚.゚;)!
そう、最初からアコースティック・セットだったの。彼らのライブに対する予想って、とにかく激しいものだとばかり考えていたので、とても驚いた。もっと意外だったのはこれがまたぴったりと収まっていたこと。ビリーの声って、いい声というのではないのだけれど、妙に説得力があって、思わず惹き込まれてしまう。悪人なのに、話しているとどうしようもなく好きになってしまうタイプっているけど、そういう感じ。
ダーシーはフレンチスリーブで襟ぐりが広く開いた、白っぽいサテンのロングドレスで、とてもエレガント。プラチナブロンドの外巻きの髪と赤い口紅が映えていて、椅子に座ってベースを弾いている姿はまるでクラシックの演奏者のようだった。
1曲目の"TONIGHT,TONIGHT" から3曲目くらいまでは完全にアコースティック。1曲終わるごとに、ビリーはギターをスタッフに渡し、次のギターはドラムセットの前に立てかけてある中から自分でとってくる。マメな人なのね。
5曲目くらいで、ギターにプラグを挿し込もうとするんだけどわからなくなり、スタッフを呼んで教えてもらうビリー。「ギターテクがいないとギターもいじれないんだ」みたいなことを照れ隠しに言ってみたりして。
彼のMCは、あとにも書くけれど、ものすごく面白い。このあたりではまだ「どうもありがとうございます」のあとに「おはようございま〜す」と言ったくらいかな。
7曲目くらいで、ビリーが曲に入る前に自分の前のマイクをすっと上にあげてしまったので、「あれ? インストかな?」と思っていたら、イハが歌い出した。裏声を効かせた繊細なヴォーカルで、ちょっと音程は不安定だけれど、なかなか味がある。変な喩えだけれど EAGLESでドン・ヘンリーの歌の合間にティモシー・シュミットが歌うとほっとする、あの感覚。
次の曲でようやくビリーとイハは立ち上がる。ここでやった曲ではふたりのギターのハモリがそれはそれは美しくて、思わず「そうかあ、スマパンってこういうバンドでもあったんだあ」と再評価。
ダーシーはそのまた次の曲まで座ったまま。全員(ドラム以外ね、もちろん)が立って2〜3曲やると、あっさりと引っ込んでしまった。
【驚いた事その3】
このあとの待ち時間が長かった。 最初はふつうのアンコールみたいなものかと思ってたんだけど、全然メンバーが現われるようすはないし、第一BGMが最初はクラシック、次に東南アジア風民族音楽、ブルース、そしてまたクラシックと、何事かを暗示するかのように移り変わっていくもので、最後のほうには「なるほどこれは演出なのね」とあきらめて待つ態勢に。
でも、はっきり言って、あそこまで長い休憩は必要ないんじゃないかと思う。せっかく上昇の一途をたどっていた観客のボルテージが、ここでだんだんと下がっていったような気がするもの。もっとも、アコースティックでスローな曲をやっているにも関わらず、前のほうでは四六時中ローリングやらモッッシュやらが行われていたようだったから、そういう連中の熱を冷ます必要があったのかも。 最初から飛ばし過ぎて体力使い果たしているキッズに、回復の時間を与えたのか? いずれにしても、私はこの待ち時間ですっかり冷え込んでしまった。
やがてアルバム1曲目のあのピアノの音が響き始め、第2部が始まった!
ビリーは黒の長袖Tシャツにシルバーの光るパンツ(しかし、お尻が大きい! ジーンズのウエストサイズ40インチくらいあるんじゃないのかしら?)、ダーシーはオレンジと黄色の長袖Tシャツを腕まくりして着て、下はふつうのブルージーンズ。さっきとはがらっと印象が変わった。
こっからはもうジェットコースター状態。激しい曲がめじろ押しで、ノリまくり、頭振りまくり、じっとなんてしてられないっ!って気分になってしまう。音は、この手の体育館にしてはとてもいいほうだと思う。ドラムのリズムのキレがよくて、最高に気持ちいい! 心配してた音量も、さっきのアコースティックのときに比べると、しっかり上がって轟音状態になっている。
ビリーとイハがお互いのギターを高く持ち上げて、弦をこすり合わせるように弾く姿は、まるでメタル系のライブみたい。大きな体で、足をガッと開いてギターを弾くビリーの姿は不動明王のよう。人類じゃないような気がするな、この人って。
ビリーのMCも絶好調で、途中でいきなり「俺の名前はフランク」なんて言い出すものだから、一瞬私は「え? ビリーじゃなかったの?」なんて間抜けなことを考えてしまったのだけれど、そのあとにイハのほうを指して「あれがトゥルー・ジョー(誰?)で、これ(ドラム)がサミー・ヘイガー、で、あっち(キーボード)がガース・ブルックス。そして……」とダーシーのほうを指さしてから「ミニー・マウスだ」(^^;)ナンナンダア。
途中でイハが友達だと言って紹介した女性カメラマンがステージに上がり、イハの挨拶を通訳する。「前のほう、死なないように気をつけてくれよ。まだまだこれからロックするからな!」
【驚いた事その4】
アンコールでダーシーが「ドラムとビデオの両方を操るという難しい技に挑戦しているのは、CATHARINE というバンドのドラマーで私の夫でもある人です」と紹介し、彼がドラムを叩いて1曲演奏した。なんともハチャメチャというか、なんでもアリのステージで、楽しいよね、こういうの。
最後にビリーがけっこう長く観客に感謝の言葉を述べたのだがこれがもう大傑作。
「きょうはどうもありがとう。高い金を払って……(ここんとこがわかんなかった)……みんなの忍耐に感謝します。次はえーと……」(月曜!と客から声がかかる)「そう月曜だ、ありがとう」「月曜にはまったく同じ曲をまったく同じように演奏するからな」「俺たちにはバリエーションってものがないんだ」(大爆笑)
私はPAの後ろでステージが全体に見渡せるところで見ていたのだけど、柵の中に音楽評論家用の席があって、そこに座っていた福田一郎氏などは膝を叩いて喜んでいた。来月あたり発売のどこかの記事には、このMCのことが書かれるかも。
アンコールは2回。
2回目のアンコールの最初"BY STARLIGHT"で、バックに月と星のライティングがあったのが、この日初めての演出らしい演出だったかも。
【驚いた事その5】
どのあたりだったか忘れたけれど、どっちかのアンコールの最中に客席に向かい「誰かここに来て俺のギターを弾かないか?」と呼びかけた。しばらく誰も上がっていかないので、心配してしまったが、とうとう女の子がひとり上がっていって、おずおずとストラップを肩にかけ、ビリーにコードを教えてもらってジャラジャラと弾き始めた。あそこでめちゃくちゃうまい人が上がっていって、思いっきり弾きまくったら面白いのになあ。誰か月曜にやらない?
【驚いた事その6】
そして、最後の最後、メンバーがどんどん去って行った中、残ったビリーはギターを床におき、足で弾いたりしたあげくに、アカペラで照れたように"FAREWELL AND GOODNIGHT"を歌い上げて、最後まで残っていたキーボーディスト(サポートメンバー?)にお礼を言ってステージを去っていった。
予想のつかない展開といい、テンション全開の演奏といい、凄いものを見ちゃった、という感じだ。あのくらい凄ければ武道館くらいの会場でも充分見せられたと思うのだけど、椅子があると雰囲気が変わっちゃうかもねえ。追加の渋谷公会堂もとったので、そっちがどうなるのか、今から楽しみ。