Sex Pistols (Nov 5,1996 at Budokan, Tokyo)
まだこのあとの公演が残っているのでセットリストは書きません。なんて書くとかっこいいけど、実は曲名をほとんど知らない私なのであった。
なにせパンクの洗礼というものを受けずにきてしまったので、彼らの曲は他のバンドがカヴァーしているもので最初に聴いたという。一応「シド&ナンシー」は見たし、ジョン・ライドンの自伝も読んだけど、パンク旋風が吹き荒れたころの空気を知らないのは致命的かも。
と思っていながら行ったのは、はっきり言って「珍しいもの見たさ」です、はい。でも、連中も金のための再結成と謳ってるんだから、どっちもどっちよね。
パンクの大御所(って言い方も変か)のライブとあって、会場は厳戒態勢。いつものカメラチェックのあとに、屈強な外国人セキュリティのボディチェックまである。いちばん驚いたのはアリーナのBブロックとCブロックの間に柵が作られていたこと。列と列の間の通路もいつもより広くとってあったかも。Aブロックあたりは列と列の間にも柵ができている。上から見ていると(私は2階席だった)まるで動物園のオリの中に入れられているみたい。
「物を投げたりステージに駆け上がったり……」というアナウンスも、いつもと比べて格段に多く、最後のほうには客席から「うるせえ、しつこいぞ!」という罵声がとんだほど。
まあ、それだけ警戒しているということで、客のほうは「俺たちは無軌道で何をしでかすかわからないパンクなんだぜ」って気分が盛り上がるし、ある種演出みたいな部分もあったのかもしれない。来てる人たちは若い子が圧倒的に多くて、革ジャンに鎖だのなんだのをジャラジャラさせて、髪の毛逆立てて、赤くしたり緑にしたりしてる子たちも多い。客のファッションを眺めてるだけでも退屈しないくらい。
7時開演の前に前座の演奏が始まるというアナウンスがあって、客席からざわめきが。みんな知らなかったのよね? 私も知らなかった。
FLUFFYという女の子パンクバンドだと聞いて、フェニックス・フェスティバルのトップに出てためちゃ下手なバンドを思い出し、一瞬いや〜な予感に襲われたけど、いざ始まってみたらこれがなかなかうまい。ミニスカートで叩いているドラムが少し走りぎみではあったけど、ヴォーカル&ギターともうひとりのギターの子とのコンビネーションがよくて、センスのいいギターワークを聴かせてくれた。ただのパンクでなくて、イギリスのギターバンドのメロディアスな部分をとりこんだ感じ。歌が単調なのはパンクだから仕方がないとして、もう少しメリハリのある声が出せるようになったら、もっとかっこいいんじゃないかなあ。ルックスも抜群だし、GUNSを見いだしたトム・ズータウがゲフィンを離れて設立したレーベルの第一弾バンドだというから、意外に化けるかも。
さて、前座が30分くらいでひっこむと、セッティングが始まった。このときかかっていたのは、およそパンクとは縁のない甘々の60年代ポップス。この落差はなんだ。
そろそろ客席からブーイングが出始め、紙飛行機も飛び出したころにようやく場内が暗くなった。大きな歓声があがり、みんないっせいに立ち上がる……かと思いきや、あらあら誰も立たない。
まあ、私のところは2階席3列目のほうということもあるけれど、私の前2列で立っているのは、最前列にいたワイシャツにネクタイをしめ、眼鏡をかけた典型的なサラリーマンとその友達だけ。隣りの髪を逆立てて革ジャン着た若い男の子たちは座ったまま。私のすぐ前の列なんて、渋谷系のコギャルや半ケツ少年たちだったんだけど、彼らも座ったまま。
アリーナを見降ろすと、さすがにあっちはほぼ全員が立っているけれど、手を振り上げたりしてるのはごくわずかで、残りはじっと立っている。この人たち、ライブが始まってもずっとその状態で、まるで金縛りにあったように立ちつくしてた。多分私と同様、パンクの神様なるものを一目見ようという好奇心だけで来た人たちなんだろうなあ。でもね、それがいわゆるパンクなかっこした子たちなのよ。逆に手をふりあげたり、叫んだりしてるのはネクタイしめたサラリーマン風の人たちなの。世代なのねえ。
バックドロップは昔なつかしい新聞記事。パンクについて書かれた記事の中で「PUNK? CALL IT FILTHY LUCRE(パンクだってえ? 汚れた金と言ってやれよ)」というデイリー・ミラーの大きな見出しが目につく。
ジョニー・ロットンは黒の革の上下で下に青いTシャツを着て、髪を赤と緑に染め分けている。操り人形のようにひょこひょことステージを歩く姿が、まるで「バットマン・フォーエバー」に出てたジム・キャリーみたい。遠目のせいか、予想していたほどは太っていないけど、かっこいいというよりは「滑稽」という印象。
スティーブ・ジョーンズは、白いTシャツに金ラメのパンツという悪趣味な姿で、背中に肉がついて猫背になってる姿に年を感じさせる。この人、TVで見たときはいちばんかっこよく見えたんだけどなあ。それでも両脚を大きく開いてギターをかきならす姿はさすがに決まっていて、ひときわ歓声が高くなる。
ジョニーは歌の合間にドラム台の前に行っては、置いてある水でうがいをして、それをステージに吐き捨てている。けっこうしっかりした声で歌っていたから、かなり喉には負担なんだろうな、何度も何度もうがいをしていたので、多分ライブが終わったあと、ドラム台の前には大きな水たまりができてたんじゃなかろうか。それと手鼻をかむ。これがもう汚らしくて、パンクの真骨頂という感じ。あれを見た若い子が真似をして、みんながやるようになったらやだなあ。
最初のころは少しぎこちなかったが、3曲目くらいからだんだんと調子が出てきて、それらしくなってきた。驚いたことにけっこう演奏がうまい。ドラムなんてタイトで音がでかくて、すごくかっこいい。ギターだって決めるところは決めてるじゃない、なんてパンクというと「演奏が下手」と思いこんでいた私はびっくりしてしまった。
スティーブは、ステージの上をけっこう動き回り、決めの部分では足を前後に開いてジャンプしたりもするが、その跳躍の高さが30cmくらいしかないのがちと情けない。
ほとんどの曲で、サビの部分にくると場内をパーッと明るくして、観客も一緒に盛り上げようという趣向になっているのだけれど、手をふりあげ、一緒になって歌っているのはさっきも書いたように、ワイシャツにネクタイしめた人ばかりという光景が、なんともいえずアンバランスで不気味だ。
MCはほとんどなし。たまにジョニーが「ブーッ!」とオナラみたいな音をマイクに向かって出してみせ、一瞬おいて「ジョニーさ〜ん(たら)」とふざけてみせたり、客席から女の子が「I LOVE YOU」と叫ぶと、「YOU LOVE ME? IT'S ALRIGHT. I LOVE ME,TOO」なんて言い返したりしてる。
何かの曲の途中で急に「糞高いチケット代に腹を立ててる奴はいないのか?」と聞いた(と思う)んだけど、客席からは例の「イエ〜!」しか返らなかったもので、しかたなく別のことを言ってた(ように思う)。
「WE SALUTE YOU, WE ALSO SAY(サイ) GOODBYE」と行ってステージを去っていったとき、このままアンコールには戻ってこないかもしれないなあ、と思った。客のノリがあまりよくなかったからね。お約束の拍手は続いていたけれど、かなり長い間出てこなかったので、このまま帰っちゃってれば、それはそれで筋の通った連中かも、なんて思い始めたころに結局出てきちゃいました。まあ、この曲をやらなければ、それこそ暴動でも起きちゃうかもしれないし……。さすがにこの曲では武道館じゅうが大合唱をして、メンバーを満足させることができ、彼らも機嫌よく(スティーブなんてステージに膝をついてイスラム教徒のように客席を拝んでた)帰っていきました。
意外なくらい知ってる曲が多くて(一体いつ聴いてたんだろう)演奏のクオリティも高くて、思いのほか楽しめたけれども、はたして8500円の価値があったかと聞かれるとちょっとクエスチョン・マーク。
あの時代をともに生きた人なら文句なく楽しめたと思う。でも、伝説を期待して行った若い子たちはどう思ったんだろうな?
多分、武道館じゃなくてスタンディングのクラブで見たら、感想はまたちがったものになってただろうと思う。