Redd Kross (Sep 13,1997, Shinjuku Liquid Room, Tokyo)
DEF LEPPARDのジョー・エリオットがお気に入りだという話を聞いて聴き始めたという不純なファンではあるが、今ではLEPPSを離れて好きなバンドだ。最近の来日バンドのギターポップ系の中ではいちばん期待して待っていたライブといえ る。「どんな感じ?」と聞かれると、「うーん、ビートルズっぽくてねえ、ENUFF Z'NUFFが好きなら好きになると思うんだけど」としか答えられないくらい、自分でもどこが好きなのかうまく表現できないバンドでもある。ライブを見れば、そのへんがもうちょっとはっきりするかな、という期待もあったりして。
土曜のリキッドは想像していたほどには客が入っていない。ついこの間、感動のライブを見せてくれたPRETTY MAIDSのときよりは入っているんだけど、あのときと雰囲気が全く違う。まるで別の会場みたいに思えるのは、フロアで開演を待つ人たちがほとんど、だらしなく床に座りこんでいるせいかもしれない。タバコの煙もふだんより凄いし、なんだか場違いな場所にまぎれこんでしまったような居心地の悪さを感じてしまった。
フロアで見るのは遠慮して、上の段に行ってみると、なぜかカウンターの椅子がひとつ空いていた。RED KROSSを座って見るのもちょっと、とは思ったものの、ステージを正面から見られるという誘惑には勝てず、とりあえず座ってみる。目の前にカメラがセットされていて、その三脚にセットリストの紙が貼りつけてある。数えると12曲。やっぱり短いのかなあ。
さりげなく登場したメンバーを見て、まず絶句。ヴォーカルのジェフがピカピカ光るシルバーサテンのブラウスを着ている。それも、決してファッショナブルな着方ではなくて、ごく普通のだぼっとしたパンツの上にだらしなく裾を出して着ていて、スーパーのバーゲンか何かで買ってきたのを適当に着てるみたい。太ってるとまではいかないが、決して華奢とは言えない体つきだから、なんだか変だ。腕をひらひら動かしたり、頭を振って髪をなびかせたり、体をくねくね動かしたりする様子は、前に見たPULPのジャービスみたいなんだけど、あれほど服 装も体形もスタイリッシュではないので、なんだか滑稽に見えてしまう。でも、それが素朴な感じで意外にいい味出しているんだけどね。本人がどういう線を狙っているのかがわからないので、最初のうちは笑っていいのか失礼になるのか悩んでしまった。
1曲目は2ndアルバムでも1曲目の"PRETTY PLEASE ME"。いきなり勢いのある曲なので、フロア前方には早くも縦ノリの波が立っている。さっきまで床に座りこんでた人間とは思えない。
それほど巧いとは言えないが、ライブでたたき上げてきただけのことはあって、演奏はタイトだ。ヴォーカルもギターを弾いているから、音に厚みもあるし。はじめはヴォーカルの姿に驚いてそっちばかり見ていたが、途中で入るコーラスの美しさに「だれがつけているんだろう?」と見回すと、右側でベースを弾きながらマイクに向かっている弟のスティーブンの姿が目に入った。か、か、かわいい!
ジェフは短めのストレートヘアを真ん中分けにしているが、スティーブンはウェーブのかかった肩までの髪で、体もほっそりスリム。ちょっとENUFF Z'NUFFのドニーに雰囲気が似ている。このふたりが兄弟だなんて、言われなければ絶対にわからないなあ。でも、だからコーラスの声が絶妙に合うのかも。
彼は日本語を勉強しているらしく、途中のMCでジェフを指して「オニイサン、ジェフ」などと紹介して受けていた。
2曲目はシングルに入っているらしく私が知らない曲。この曲ではなんとTHIN LIZZYのリフが使われていて、びっくりしてしまった。ジョーや私が(わははは、同列に語ってしまうぞ)惹かれてしまうのは、こういうところなのかもしれない、 なんて妙に納得する。
"STONED""TEEN COMPETITION""MESS AROUND"と2ndからの曲を立て続きにやって、次がようやく1stから"JIMMY'S FANTASY"。個人的に1stがめちゃくちゃ気に入っているので、「いいぞいいぞ」と思ってしまう。このあたりで椅子に座っているのが我慢できず、立ち上がってしまう。高いスツールだから座っていても立っていても目線は変わらないのだが、体が思うように動かせないものね。
ギターは赤いチェックのシャツを着て、カールのあるショートヘアの小柄な人で、一見地味なタイプかと思うのだが、曲の最後にギターを投げてみたり、床に寝転がって足をバタバタさせながら弾いたりと、けっこう暴れ者の部分も見せたりする。曲の途中に入るギターソロはなかなかいい音を響かせていて気持ちよかった。
そうそう、どの曲だったか、ベースがギターみたいな音を出し、ギターがベースみたいな音を出してハーモニーをつけるところがあって、これはすごくかっこよかった。彼らって若いけどキャリアは長いそうだから、音の引き出しがとても広いのかもしれない。単純そうでいて一筋縄でいかないような技をいろいろ使っているのかもしれないなあ。
"GIRL GOD""CRAZY WORLD"ときて、その次は知らない曲が3曲くらい続き(最後にやった曲はセットリストの紙には"SKY"と書いてあったが、静かなバラード部分と激しく盛り上がる部分がミックスされたなかなかドラマチックな曲だった)"LADY IN THE FRONT ROW"で本編終了。やっぱり短いぞ。
まばらなアンコールの拍手(そりゃあ出てくるのはお約束だけどさあ、ミュージシャンに対する礼儀ってものがあると思うのよねえ)にも関わらず、メンバー再登場。ジェフが「スティーブンは日本語ができるんだよ」と言うと、スティーブンが「スコーシ」と言ってからあわてて「まだまだ全然だよ。第1章のイントロダクション程度だもの」と真面目に言い訳をするのがおかしい。「ここで友人を紹介しよう。古い曲のコーラスを手伝ってもらうんだ」とあって、アナという女性が登場。飾らない服装の小柄な女性でジェフの隣りに立つと、まるでガリバーと小人のよう。ひょっとしてジェフって2メートルくらいあるのかも?
"FACTORY"とかいう曲で、軽快で気持ちよくノレる曲。こういうタイプの曲もいいなあ。アナがひっこみ、「次はスティーブンに歌ってもらおう。彼が12歳のときに書いた曲だよ」(!)
コーラスをつけているのとは違って、ソロで歌うのは緊張するらしく、しばらくマイクの前でタイミングをはかっている。「精神を集中しないとね」とひとりごとのように呟き、客席から歓声が上がると「シーッ!」と唇に指を当てる。シーンとしたところでいきなり始まるパンキッシュな曲。うん、かっこいい。スティーブンの声はジェフよりは少し高めなので、こういう曲によく合っている。
反応がよかったのに気をよくしたのか、ジェフが「スティーブンにもう1曲やってもらおう!」と叫び、ドラムとギターに耳打ちして曲を打ち合わせる。次はさらにパンキッシュで、あっという間に終わってしまう短い曲だった。
そして、おもむろにジェフがマイクに向かい、「ヤア」とか音合わせみたいな声を出したあとで始まったのは、な、な、なんとBEATLESの"IT WON'T BE WRONG"! あとから友人に聞いたら、シングルのボーナストラックに入っているそうなのだが、私は持っていないので、彼らがこれをやっていることも知らなかったから、ものすごく感激してしまった。BEATLESのカヴァーもいろんなバンドがやってるけど、これを聴いたのは初めて。コーラスのつけ方がかっこよくて好きな歌だけに、ほんとにうれしかったなあ。ギターなんかは間違えまくりだし、演奏も歌も かなり荒かったけど、アレンジとしては面白い味を出していたと思う。
大歓声に送られてメンバーが引っ込み、客電もついて、さあ帰ろうかと出口に向かいかけたところで、なんとまた出てきてしまった。ジェフがアカペラを1フレーズ歌ってみせるてから何かジョークを言うが、だれも聞き取れず、客席はシーンとしてしまう。気をとり直し、マイクにむかう。「初めて日本にきたとき、1990年(ほんとにそんな前?)に僕らは信じられないくらい凄いバンドを見たんだ。THE PIRATES(?)というんだけど、そのバンドのカヴァーをやろう」
ギターがVENTURESの"PIPELINE"みたいなリフを弾き初め、客席から手拍子が起こるが曲は始まらない。もう一度同じリフをやり直し、「あははは」と笑ってから一転してまったく違う曲が始まった。わ、"HARD DAY'S NIGHT"だ! THE PIRATESってBEATLESのコピーバンドか何かだったのかしら?
いきなりやったにも関わらず、途中でブレイクするところなどぴったり息が合っていて、かなりステージでプレイを重ねてきたと思わされる。コーラスもぴったりで、まるでジョンとポールが歌っているようだ。
そのまま終わるのかと思ったが、このあとに知らない曲がつながっていた。ちょっと語りかけるような感じのバラードで、こっちは多分彼らのオリジナルだと思うが、最後にひずんだギターの音が響くなか、ジェフが引っ込み、ギターはタオルで弦をこするパフォーマンス(?)を見せて引っ込んだ。最後まで本気なんだかふざけているのか、気を抜けないバンドだ。
大汗をかくまでにはいかなかったけど、ほのぼのと楽しくて、心がなごむようなライブだった。願わくはジェフ君にもう少しシェイプアップしてもらって、服装にも気をつかってもらえるとうれしいのだけれど。