SHOH's LIVE REPORTS

Rage with Grave Digger (Nov 9,1996, Club Citta Kawasaki, Kanagawa)


やはや凄かった、3時間バトル。文字通り「闘い」だった。それもRAGE対GRAVE DIGGERのではなくて、バンド対ファンの。食うか食われるか、バンドが力尽きてステージを降りるかファンが全員倒れてコンサート中止になるかのデスマッチ、といったところだろうか。

5時開場だったが、友人とお茶でもしようかと早めに待ち合わせていて、3時半頃チッタの前に行ってみたら、なにやら長髪のお兄ちゃんが4人、ビデオカメラを前に話をしていた。ルックスは知らなかったものの、多分あれはGRAVE DIGGERのメンバー? と思いながら近づいていくと、先に来ていた友人が「さっきから何度も同じこと言わされて可哀そうなの」と教えてくれた。ビデオカメラを回しているのは外国人スタッフ3人。まさかドイツからGRAVE DIGGERのコンサートを取材するために高い飛行機代払ってついてきたわけではないだろうし、一体なんだろうね? RAGEがビデオでも出す予定があって、その色づけに前座としてインタビューされてるのかなあ? なんてGRAVE DIGGERのファンが聞いたら怒りそうなことを言いながらお茶を飲む私たちであった。

開場時間が近づき、チッタ前で待っていると時々トビラが開いてGRAVE DIGGERがリハーサルしている音が聞こえてくる。え?あと10分で開場だっていうのにまだ練習してるの? さっきいつまでもインタビューなんかしてるからよねえ。これじゃあきっと開場は遅れるな、と思っていたら案の定遅れた。それでも開演はそれほど押さなかったような気がする。さすがドイツ人。

会場はかなり人が入っていて、私がいたAブロックもふだんはけっこう余裕のあるBブロックとの境の柵のところまでまんべんなく人が詰まってる。この分じゃあGRAVE DIGGERとRAGEとの交替で最前の人が入れ替わるなんていうのも無理だろうなあ。

開演前に横のスクリーンに写し出されたのは、今後ライブが予定されているTEN、AMORPHIS、THUNDERのビデオクリップ。その中でもTHUNDER のが思いっきり浮いていたのはご想像通り。あれを見て、ライブに行く気になった人が何人いたか、ファンの私でも疑問だわ。

GRAVE DIGGERは未聴だったので、自然体で聴くようにしたが、出てきたときからヴォーカルの表情に驚いてしまい、なんとなく色物みたいな印象ができてしまったのは残念。どうして、あんなに脅かすような(でも、童顔だからちっとも怖くなくてかえって滑稽)顔をするんだろう? 曲そのものはそんなにおどろおどろしいものではなくて、けっこうスカッとしたものが多かったから、なんだか残念だなあ。しかし、あんなに肩幅の狭い西欧人って初めて見たような気がする。まあ、カイ・ハンセンとかクラウス・マイネとか、ドイツ人って華奢な男性がけっこう多いとは思うけど、この人の場合はまるで子供みたいな体形だった。それなのに上半身裸になってしまうので、ちょっと目のやり場に困ってしまった私。

曲はIRON MAIDEN みたいな感じと聞いていたが、どちらかというとACCEPT+JUDAS PRIESTという印象。曲がよくできていて、頭が自然に動いてしまう。ただ、ヴォーカルの声の出し方が低くドスを効かせるところと高音のシャウトするところが不自然に分離してる感じで、ちょっと残念。中音域で歌うとものすごくいい声をしてるんだけど、それだとソフトすぎてメタルには向かないというのかな。曲の作り方をもう少し変えれば無理なく歌えるようになるんじゃないかという気もするが、ひょっとしたらアルバムではそのへんうまく処理しているのかも。今度ちゃんと聴いてみようっと。

観客のノリはかなりよくて、RAGEだけでなくてGRAVE DIGGERも楽しみに来た人が多いのがよくわかった。ちゃんと一緒に歌ってるし、頭も思い切り振っている。さっきのビデオクルーはステージの上まで歩き回ってカメラを回している。一体なんなんだ??? まさかGRAVE DIGGERの公認追っかけではあるまい。

アンコールを1曲やって彼らが引っ込むとセット・チェンジ。「15分から20分お待ちください」というアナウンスに「そんなに早くできるのかあ?」と茶々を入れていたら、やっぱり30分くらいかかってた。その間にかかったANNIHILATOR で思わず首を振ってしまい、「いけない、ここで体力を浪費しちゃいけなかったんだ」と反省。

場内が暗くなり、バックドロップにライトが当たると、「チャンチャンチャラララチャンチャンチャン」というSEが聞こえてきた。へえー、こんなので始まるのかあ。てっきり新譜から来るかと思っていたら、なんとびっくり「SECRETS IN A WEIRD WORLD」のイントロ。そこから"DON'T FEAR THE WINTER"へとつながる。さっきまでのGRAVE DIGGERでもずいぶん盛り上がっていたと思っていたが、RAGEの演奏が始まったとたん会場内の温度が一気に上がったような気がした。そういえばいつのまにか人口密度も増えてきて、首を振ると前の人の背中にぶつかりそうな感じだ。

ピーヴィーは相変わらず 広い額にバンダナを巻いてさっそうと登場。ほんとにこの人って、全然ハンサムじゃないのにものすごくかっこいい。ハンサムな空気を身にまとってるような雰囲気。

ライナーノートだったかに、今度のアルバムではヴォーカルを気のすむまでいじれたので、初めて満足できる仕上がりになったと書いてあったのを「そんなにいじったんじゃライブでそれより上手には歌えないんじゃない?」なんてちょっぴり否定的な思いで読んだのだが、こうして聴いてみると決してそんな印象はない。もちろん、時々音程が不安定になるのは相変わらずだけど、それがまったく気にならないだけの力強いパワーが彼の声にはある。

音のバランスは最初のうち、ちょっとぼやけ気味だったかも。ツインギターの音が混ざり合っちゃって、反響しすぎてるような印象があった。後半かなりよくなったと思うけど。でもって今回のピーヴィーのMCは「初めてだよん」尽くし。

「BLACK IN MIND」 からの曲で前回のツアーではやらなかった曲、「MISSING LINK」からの曲で今のツインギターの編成でやるのは初めての曲(はっきり言ってこれはダレた)、「SECRET IN A WEIRD WORLD」からの曲でこれまた今までライブではやったことがなかった曲(と紹介しておきながら、「でもその前にこっちの曲をやるぞ」と方向転換。さてはピーヴィー、セットリストの順番を間違えたな)、といった感じ。

中には「え、ほんと? 確か前にもライブで聴いた覚えがあるぞ」っていうのもあったけど、まあ、かたいことは言いっこなしね。そういえば、ピーヴィーのMCでようやく例のビデオクルーがドイツのTV局の取材だということが判明した。「日本に進出するドイツ文化の一面」とかいうルポ番組でも作るんだろうか?

それにしても、ほんとにRAGEの曲ってどれもこれもかっこいい。スピーディでメロディアスで、それでいて叙情派に流れることがないのはピーヴィーのへたうまで男っぽい声のせいかなあ。"TALKING TO THE DEAD" のギターソロなんて、アルバムで聴いたときはちょっと映画「フラッシュダンス」のテーマ曲みたいでクサい、とか思ってたんだけど、生で聴いたら気絶しそうになるほど気持ちよかった。

パワフルなドラミングもたまらない〜。客の反応も素晴らしくて、どの曲でも歌声がとぎれることがないし、拳を振り上げるタイミングもばっちり。集団熱狂状態とでもいうのだろうか。お互いの熱気と興奮でさらに気分が盛り上がっていくのが肌で感じられる。そういえば、はっと気がつくとすでに拳を振り上がるのにも苦労するほど人口密度が上がってきている。前のほうから避難してきたと思われる人が、ふらふらになりながら後ろのほうに下がっていく。

アンコールは2回。ここでもピーヴィー、順番を間違えたらしく"HIGHER THAN THE SKY" のサビを客に歌わせようとしてから、いきなり"TROOPER"へ。これは前回来日でもラストにもってきたたけど、よっぽど好きなのかなあ、MAIDEN。

で、2回目のアンコールの最後が、さっきやりかけた"HIGHER THAN THE SKY"。 ここでは何度も何度もサビのところを客に歌わせ、またファンのほうもそれはもう熱心に大きな声で歌ったものだから、ピーヴィーったらほんとにうれしそうだった。いったん挨拶して引っ込んだあともまた出てきて、もう一度同じところを歌わせたりして、それがちっとも無理矢理とか押しつけがましいとかいう感じがなくて、なんかすごーく家庭的であったかい雰囲気が満ちていた。

足は痛いし、首は痛いしで体はぼろぼろなのに、心の中は満足感でいっぱいという、いつもながらのRAGEのライブを堪能できた夜だった。来年も来てね。


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