Placebo (June 19,1997, Shibuya Club Quatro, Tokyo)
10曲入りのアルバム1枚しか出してなくて来日、というのもちょっと早すぎるんじゃないかと思うけど、最近この手の青田刈りみたいな招聘が多い。プロモーターも早いうちに唾をつけておいて、売れてきたときのプライオリティを得ようという考えなのか。
クアトロはけっこう人が入ってた。台風が来てるというのに、こんなとこに来てていいのかあ、と言いたくなるような制服姿の女子高生(中学生?)もいたりして。やはり、というか、当然年齢層は低め。
けっこう長いSEののちにメンバー登場。最初に現れたベースのステファンは2メートルはあろうかという長身。すらっと細くて、無駄な肉がいっさいついていない体にストッキングで作ったみたいな黒い透け透け長袖Tシャツ(昔、HANOI ROCKSのライブビデオでマイケル・モンローが着てたやつ)を着て、黒のジーンズ。プラチナブロンドの髪を頭に張りつくくらいに短く刈っていて、彫りの深い顔を強調している。映画「ブレードランナー」に出てくるレプリカントみたい。とても血が通った人間とは見えない(^^;)。私がいた右のほうに立っていたので、どうしてもブライアンよりも彼のほうに目が行きがちだった。
ヴォーカルのブライアンはステファンの肩くらいまでしかない。体も華奢で、歩き方も女の子っぽくて、例によってお化粧もしているみたいだ。黒髪は肩くらいまで。ステファンと並ぶと、すごいコントラスト(^_^)。黒の半袖Tシャツ(胸に銀色で文字がアップリケしてあったけど、なんと書いてあるのか読めなかった)に黒のパンツという地味なかっこ。
ドラマーはよく見えなかったが、けっこうゴツイ体つきの人みたいだった。
このバンド、確かメンバーそれぞれの出身国がばらばらという多国籍バンドだったと思うけど、ステファンはまさに北欧。ブライアンはどこだったかなあ。ドラマーは途中の茶々入れの様子を見るかぎりではアメリカ人っぽい。
演奏はけっこう、というか、予想以上に巧かった。ブライアンのギターは、超絶テクとかいうのではないけれど、心地よい音を響かせてくれて、うれしい期待はずれ。ドラムもアルバムより複雑な叩き方をしていて、ときどき「あれっ?」と耳をそばだててしまうような部分もあった。ステファンは表情をほとんど変えず、ベースをうねらせるようにしながら客を煽るのがかっこいい。
ブライアンの声はかなり特殊で、あれを2時間聴くのはつらいかなあと思っていたのだけれど(ライブ前にMarさんからゲディ・リー声というサジェスチョンを受け、あまりにぴったりだったので、ライブの間中ゲディ・リーの顔が頭を離れなくなってしまった)、途中"LADY OF THE FLOWERS"などではスタンドにマイクを2つつけ、片方にエフェクターをつけたりして、けっこう工夫をこらしてた。あの声はけっこう好きだったな。
ステージングもいろいろ考えてるみたいで、"36 DEGREES"では、ギターから手を離して(ほあら、ギターが入らないパートがあるでしょ)、ギターごと自分の体を両手で抱きしめる姿がなんともいえずナルちゃん入りまくり。でも、ちょっと作りものっぽくて、見てるほうは照れる。あれがごく自然にできるようになったら、彼らも大物になった証拠だろう。
"I KNOW"だったかな? 始まる前に「タバコ・ブレイクだよ」とタバコに火をつけ、そのままギターなしでマイクに向かって歌いだしたのは、けっこう決まってたと思う。見た目子どもっぽく見えるけど(声も子ども声だしね)、彼の意識としては大人の男(?)をきどっているつもりなのかも。
MCは予想外にはあったけど、普通のバンドほどにはなくて、すごく地味。そういえば、最初のほうで「初めての来日だよ。ステファンはベースをなくしたんだ」と言ってたけど、それって日本に来る途中で紛失したということなんだろーか?
本編で一通りの曲はやってしまったので、アンコールで何をやるのかと思ってたら、これがもう度肝を抜かれた。
SEに続いて登場したブライアンとステファンは、本編のときとは逆の位置に立つ。さっきまでブライアンが使っていたマイクスタンドは、ステファンが立つと胸の下のほうまでしかこない。それをスタッフが一生懸命折り曲げて片づけている。
最初は、「お、今度はステファンが歌うのかな?」と期待したのだが(DOKKENじゃないって)、それはなくて、じゃあ右端にきたブライアンはどうするのだろうかと思ったが、あまりにも端にいるので、私の位置からはよく見えない。マイクをいじってる様子はないし、どうするのかなあと思っているうちに曲が始まった。かなりヘヴィーで激しい曲。途中ブライアンはネックから手を離し、ギターを下のほうに置いたままお琴を弾くように両手で弾いている。結局歌は入らず、インストだけで引っ込んでしまった。うーむ、雰囲気がちがう〜。PLACEBOって実はこういうバンドだったのか。
途中、ギターチェンジをしたものの、思うような音が出なくてブライアンが奥に引っ込んでしまったときにも、ドラムとベースだけでジャズの即興演奏みたいなのをやってたし、意外に音楽性の幅が広いバンドなのかもしれないなあ。それが、今の音楽業界でやっていくために、どうしても同じような音にされちゃうんだろうか。
客席も、毎度おなじみの縦ノリオンリーで、変化が少ないのよねえ。曲によってはゆったり体を横に揺する程度のほうが合ってるのもあるのに、そういうときはただじっと突っ立ってるだけ。で、縦にのれる曲になると、とたんに頭がピョコピョコ出てきて暴れ始めるというパターン。
ギターチェンジ(これがかなり頻繁)の間、ファンが声をかける→ドラマーが返事をする、という繰り返しがけっこうあった。つくづく思ったのだが、この手のバンドって、いい意味でも悪い意味でも、ファンとミュージシャンとの間の垣根がまったくなくなったようだ。
昔みたいな「スター」という存在はもう望めないのかしら。私からすると、ミュージシャンというのは、ある種憧れの対象であって、そうそう簡単に近づける存在じゃないほうが素敵だと思う。友達みたいになってしまうのは夢がなくていやだなあ、と思うのだが、今の若い子はそんな風には考えないのね。
スターになってから来日するのが普通だった時代と、アマチュアに近い頃から呼んでしまう時代との違いなんだろうか。あれ? 話が変なほうにいっちゃったけど、内容的にはかなりいいライブだったと思う。ただ、未熟な部分は当然あるし、時間的にも1時間ちょっとという短さで、それで6000円というのはないと思うな。