Paul Rodgers (May 25,1997, Club Citta Kawasaki, Kanagawa)
前日の五反田ゆーぽーと公演にも行ったのだが、いまひとつノリきれなかった。多分、私のほうがGREAT WHITE 後遺症で受け入れ体制ができていなかったせいだろうが、翌日、クラブチッタ川崎のほうも見て、そればかりではなかったかもしれないと思えてきた。
五反田では最前にいたため、ギターのジェフ・ホワイトホーンの熱演プラス愛想ふりまき攻撃とで、ちと固まってしまったため、 きょうは後ろのほうの台に座って高見の見物と決めこむ。結果的には全体像がよく見えてよかったと思う。
ポールは黒の長袖ブラウスの前をはだけて胸毛をみせびらかし(ついでにお腹の段まで見えてしまうのがちょっとなあ)に黒の革パンツ。前日はこれに黄色と黒と青のスカーフ柄ベストを着ていたのだが、はっきり言って派手すぎて場違いだった。ホール公演ということでお洒落してたんだと思うけど・・・。
ジェフはグレーのTシャツに膝の開いたジーンズ。ベースのおじさんは真っ青(前日は真っ赤。もしかしたら黄色も持ってるのかも?)なピチTに吊りズボン。ドラマーは黒っぽいTシャツに半ズボン、かな。
ステージ中央にポールのマイクが立ち、その右がギター、左がベース。後ろの左寄りにドラム台がセットされ、右側の一段高いところにはキーボード(ポール用)という変則的な配置。
"SOUL OF LOVE"で始まり、"I LOST IT ALL"、"SHADOW OF THE SUN"と、立て続けに新曲を披露する。ポールは最初からギターを弾いて、なんだかポール・ロジャースのライブというよりは、バンドのそれみたい。もちろん、曲はいいし、演奏もうまいし、ポールの歌もいいんだけど、なんとなく彼の「歌」を聴きにきた私としては、肩透かしをくらったような気がしてしまう。
そのへんはポールも計算ずみで、次にギターを離し、マイクスタンドを振り回しての"THE STEALER" をはさんで御機嫌をうかがう。
ふだんより思いきり年齢層の高い客がここで一気に盛り上がったところで、"SAVING GARAGE"をはさみ、"SHOOTING STAR"へとなだれこんだ。この曲は、前日の五反田では「これのモデルは誰かってよく聞かれるんだけど、ごく普通の人のことを歌ったものなんだよ。ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョプリンというわけじゃなくてね」というMCが入っていた。これの出来は圧倒的に川崎のほうが上だった。アドリブも自在にはさみ、これぞポール・ロジャースというノリ。これが聴けなくちゃライブに来た甲斐がないってものだ。
ここでポールが壇上に上がり、キーボードの前に座る。なんとBAD COMPANYの"RUN WITH THE PACK"だ! これがもうかっこいいの、なんのって(=^^=)! キーボードの腕もなかなかのもので、キメの部分では立ち上がり、マイクをグイッと自分のほうに曲げて、歌い上げる。うーん、たまらない〜。やっぱり年季が違うよねえ。ポールの歌を聴くたびにTHUNDER のヴォーカリスト、ダニー・ボウズを思い出す習性のある私としては、ここのところで「うーん、ダニーももっとがんばらなくては、こんなにかっこいいオヤジになれないぞ〜」と思ったのでありました。
大歓声を浴びて、満足そうにお礼を言ったあと、再びキーボードの前に座り、"LIVE IN PEACE" が始まる。これはものすごくドラマチックな演出になっていた。最初のフレーズは暗いステージにポールの顔にだけ下からライトが当てられたような形で(「ゴッドファーザー」のマーロン・ブランドのように見え)、静かに始まるのだが、展開部分でドラムが大音量でドスドスドスッと叩かれ、客席もステージもパーッとまぶしいくらいに明るくなる。五反田では初めてだったもので、びっくりして飛び上がってしまった。このあとまた曲の展開に合わせて暗くなったり明るくなったりを繰り返し、ポールは終始絶唱状態。客席はすでに魂を奪われてしまったように、声もなく聴き惚れている。このあたりは70年代ロックの王道といったパターンだろうか。最近この手の大仰な音楽をあまり聴かないせいか、妙に新鮮で感動してしまった。
拍手と口笛と歓声の中、ステージ中央に戻ったポールが別の世界に引き戻してくれる。"ROLLING STONE" だ。ここでのブルーズ歌いは彼の真骨頂。前日はとにかく客席の反応が悪くて(というか楽しんでいはいるのだが、声が出ない。あるいは出てもホールの壁に吸いこまれてしまって、ステージまで届かない)、ステージ上のポールもだんだんとテンションが下がってしまっていたのがこちらにも感じとれた。曲と曲の間のセッティングしているときなど、まさに針1本落ちても聞こえるくらいの沈黙が続いたのだもの。
それに比べると、チッタは狭いだけに客の反応もダイレクトに伝わるし、休日にわざわざ川崎までくる(しかもスタンディング)という熱心なファンが集まったせいか、ものすごくノリがよくて、ポールもうれしそうに何度も「きょうのオーディエンスは本当に素晴らしい!」と言っていたくらいだ。
そんなわけで、"ROLLING STONE" でのギターと歌の掛け合いも客席からの「ヒューヒュー」という掛け声や口笛でよりいっそうライブらしさを加えられ、出色の仕上がりとなった。次に新譜からの"ALL I WANT IS YOU" で軽くまとめる。この曲で特にそう感じたのだけれど、ポールの歌ってまさに演歌だ。容姿も含めて「イギリスの細川たかし」と言って過言ではないと思う。演歌もブルーズも、元々庶民の暮らしの中から出てきたものだものね。だからこそ、年をとってもPAUL RODGERSを聴きにくるおじさま達がいっぱいいるのかもしれない。
さてと、いよいよクライマックス。"FIRE AND WATER""MR.BIG""WISHING WELL"の3連発が始まる。"MR.BIG"でのベースソロはなかなかの聴きものだ。このおじさん、見た目はとっても地味(Tシャツは派手だけど髪が・・・)だが、ベースの音は実に心地好い。この曲以外にも、ときどき「お」と思って、目立つはずのギターよりもベースのほうに耳がいってしまうことが何回かあった。
"WISHING WELL"でのコーラスも、きょうは実に大きく美しく響いて、ポールはすっかりご満悦。そういえば、前回来日のホール公演のときには、ものすごく歌のうまい男性がいて、このコーラスで思い切り目立ってたっけなあ。あの人、今年はこられなかったのだろうか・・・。
アンコールの拍手がとぎれなく続き、再び登場しての1曲は、きのうはCHARがゲスト参加しての"CROSSROAD"だったのだが、きょうは"CAN'T GET ENOUGH"だった(=^^=)キャア。THUNDERがライブでカバーしていることで有名な(んなことないか(^_^;)ゞ)曲だけに、私と友人のまわりだけが異様に盛り上がって大騒ぎしてしまう。でも、まわりの普通のファンの人たちも大声で一緒に歌い、この選曲はきのうのよりもよかったような気がするなあ。
いったん引っ込み、再び登場しての1曲目はお約束"ALL RIGHT NOW"。これまた会場が一体化しての大合唱。ポールはすっかり満足して、何度も何度も歌わせる。今回の日本公演、全体にどんな感じだったのかはわからないが、きのうの様子を見ただけに、ツアー最後の夜が、こんなふうでほんとによかったと思ってしまった。
今までだったらここで終わるのだが、まだ次があった。新譜の最後に入っている"HOLDING BACK THE STORM"だ。最後の部分のブルースフィーリングの語りの部分ではポールにだけスポットライトが当たり、ドラマー、ベーシスト、ギタリストが次々に去っていく。最後の部分をポールが歌ったか歌わないかのところで、袖から聞こえるひずんだギターが声をかき消す。ライトが消え、暗いステージでポールが客席に手を上げて挨拶をすると去っていった。ギターの音はもう少し続き、最後の一音を少し伸ばして消えた。
客がとまどい、未練を残して拍手をする中、客電がついて終了の挨拶が流れる。うーむ、この終わり方って、ちょっと演出過多かも。きょうはまだ最後までポールにスポットが当たっていたからいいが、きのうなんて、ポールが消えたあと、ギタリストがステージに残っていて、彼にライトが当たっていたため、一体だれのライブだったのかという感じで、度胆を抜かれて、しばらく動けなかった。まわりの客も、まさかこれで終わりとは信じられなくて、しばらく誰も席を動かなかったくらいだ。さすがに反省したのか、きょうはギタリストも引っ込んだみたい。
あのエンディングについては、これから賛否両論出るだろうな。でも、私は川崎については割合好意的に受け入れられた。ポールとしては、みんなが納得できる"ALL RIGHT NOW" での大団円よりも新譜の曲で終えたかったんだと思う。現役で前向きにやっていこうと考えているミュージシャンなら当然のことだが、特に彼の場合は、あまりにも偉大な過去を多く持ち過ぎているから、よけいに意識して型破りなことをやらないと、ファンの気持ちに流されてしまいそうな部分が大きいのだと思う。そんな意気込みを、私は買いたいと思った。