Marion (April 8,1996, Shibuya Quatro, Tokyo)
クアトロは、後ろのほうまでいっぱいの人、人、人。新人だから8割くらいかなあと踏んで、ゆっくり行った私は、見やすい場所を探すのに苦労してしまった。
「SUZIE Q」 とか、やたらと古い60年代の音楽が客入れに使われているのを聴きながら、「どう考えてもここに来てる連中が知ってるはずなんてないよなあ」なぁんて、若い子たち(だって平日の夜だっていうのに普段着よ、普段着)を見ながら考えてしまう私……。
客は6対4くらいの比率で女の子が多い。意外。もっと女の子率が高いと思ってた。
しかし、客席が暗くなり、メンバーがステージに現われた瞬間の嬌声はすごかった! この間見たPULPもアイドルバンド並みの騒ぎだったけど、あれには一種、アイドルぶりを冷静に楽しむみたいな部分もあったと思えたのだけれど、今夜のはまさに熱狂的な騒ぎ方。う〜む、う〜む、どうしよう。
びびっているうちに1曲目が始まってしまった。ヴォーカルのジェイミー、いきなりハイテンション。細い体を後ろにのけぞらすような高いジャンプを何度も繰り返す。照明が暗いので顔はよく見えないが、横顔のシルエットを見る限りではやはり美少年系のようだ。
服装は驚くほど地味。袖をまくったグレーの長袖シャツに、細身だけれどモッズ系でもなんでもない普通のグレーのパンツ。シャツの裾をパンツの中に入れてベルトをした姿は、ひと昔前の家庭教師のお兄さんのよう。およそお洒落とは程遠い、でも、悪趣味ではない自然な感じが逆に新鮮でかっこいい。
しかし、あの髪型だけはなあ……なんだかとっても不自然なんですけど。しかもそのもみあげの部分を時々両手でなでつけるようにして整える姿が、とっても変。
フィルは、アルバムのスリーブに入ってた写真より太って髪も長くなってるせいか、なんだかおばさんみたいだった。トニーは前髪を異常に長くしていて、顔がほとんど見えない。ニックは髪がさびしげだった。
全体として見ると、ジェイミー以外はルックスをどうこうというバンドではないと見たが、それでも女の子たち(時には男の子も)の嬌声は、メンバー全員に平等に掛けられていた。
正直言って、最初の1曲の間は、あまりのアイドル騒ぎに恐れをなしたせいか、「ひょっとしてハズレかも……」という気持ちがあった。ノリはそこそこいいし、ジェイミーの声もよく出ていて、アルバム以上に聴かせてはいたんだけど、ノレないかもしれないという不安が拭いきれなかった。
でも、2曲目くらいからどんどん勢いがついてきて、ドラムの跳ね方はキモチいいし、ツインギターは想像以上にジャラジャラしていてうるさくてかっこいいし、ベースもキレてるし、いやほんとに自然に体が動いてしまう心地好さでした。客席前のほうは、最初からずうっとぴょんぴょん飛びっぱなし。曲によっては人の頭の上をゴロゴロころがる奴もいて(なんかちょっと違う気もしたけど)、あれじゃ終わってからビショビショだろうなあと余計な心配をしてしまうほど。
こんなこと書いても、多分あの場にいた若い子たちは誰も同意はしてくれないだろうけど、U2がデビューしたばかりでクラブで演ってたころって、きっとこんなふうだったんだろうなあ、なんて思ってしまった。しかも、そこにギターがもう1本加わっているんだから、もっともっとかっこいい。
惜しむらくは、曲がどれもこれも似てることね。アイディアはいいんだけど、それを曲に仕立て上げるときに、歌メロが似てしまうのか、なんだか同じに聞こえてしまう曲が並んでる気がする。途中で新曲だと言って演奏した「SPARKLE(?)」は、ミドルテンポでわりと静かめな曲だったけど、それなりにフックがあって、曲作りにも少しずつ慣れてきてるのかなあという気持ちを抱かせてくれた。
アルバムで聴いてて、「ライブのときはどうするんだろう?」と思ってたハーモニカは、ちゃんとジェイミーが吹いていて、この入り方が実にかっこいいんだ。あのへんのセンスをもう少し磨いてくれると、もっともっと成熟したバンドになれるような気がする。単に私の好みだってだけかもしれないけど。
MCはほとんどなし。アンコール1曲目にアコースティックで「YOUR BODY LIES」をしっとり歌い上げ、そのあと激しい曲を2曲か3曲立て続けにやって終わり。さっさと引っ込んだメンバーのあとで、最後までステージの床にかがみこんでうろうろしているジェイミーが何をしてるのかと思ったら、煙草の箱を探していたようで、1本抜き取り口に加えると、箱を客席に投げて去っていった。
期待通りだったかと聞かれると、「どうかなあ?」と思うけど、決して悪くはないライブでした。多分彼らはまだ、前座で3〜4曲ハイテンションでやって、メインアクトを食ってしまう勢いで去っていくタイプのバンドなんだと思う。
多分、このままバンドを続けてツアーも積み重ねていけば、そしてもっとバラエティに富んだ曲をいっぱい作れれば、きっと文句なく何時間でも楽しんで聴けるバンドになっていくんだと思う。この次も必ず行くから、そうなって戻ってきてほしいな。