King's Call(Tribute for Phil Lynott) (Jan 4,1996, Dublin)
前夜
コンサートを翌日にひかえた1月3日の夜8時。いわゆるゴールデンタイムに、アイルランドのTV局NETWORK2は、フィル・リノット追悼のドキュメンタリー番組「THE ROCKER」を放映した。局の倉庫に眠っていた貴重な映像やホームビデオをふんだんに使い、フィルの家族、そしてかつてのバンド仲間のインタビューを盛り込んだ貴重な番組。私はこれを見るために、
当日は夜遊びをひかえ(^^;)、 TVの前で今か今かと開始を待っていたのだった。
そしてそれは、フィルの死を告げるラジオのニュースと葬儀の映像から始まった。36歳の死。
なにしろ字幕というものがないので、話のおおまかな部分を想像するしかできません。出演者と印象だけ書きます。
ブライアン・ダウニー。彼は一昨年の来日で見ているので、老けてはいるけれど、それほどショックはなかった。まあ、こうなるだろうな、という順当な老け方と言ったらよいのかしら。彼とフィルの、学生時代の写真と8ミリが流れたのだけれど、これで見ても、フィルは若い頃はけっこうハイパーでお茶目な感じだったのに比べて、ブライアンは当時からかなり落ち着いて見えたから、きっとそういう人なんでしょう。
ゲイリー・ムーア。うーむ。なんかますます顔が怖くなってるんですけど。
スコット・ゴーハム。来日のときは「あ、全然変わってないじゃない。すてき」なってたんだけど、やはりTVでどアップで見ると、それなりに年輪は重ねてるわねえ。
ブライアン・ロバートソン。顔立ちはそのまんま童顔なんだけど、髪がストレートのオールバックになったせいか、ものすごく老けた感じがする。でも、彼のソロアルバム(通信販売のみで売られている)のジャケット写真よりはずっとまし。
エリック・ベル。元々髭があって老けてみえたから、さほど驚かないかと思ってたけど、驚いた。髪も短いし、道ですれちがってもミュージシャンだとは誰も思わないだろう、ごくごく普通のおじさん。
ミッジ・ユーロ。彼もそれなりの髪型に。
ダーレン・ワートン。彼はTHIN LIZZY在籍時に若かっただけあって、いまだに当時の面影を残してる。
母親のフィロメナ。彼女は昨年末にフィルとのことを本にして出版し、いまや時の人だ。とても美しく年をとったすてきな女性。フィルの思い出を語りながら目をうるうるさせるのを見てると、こちらまで思わずうるうる目に。
妻のキャロライン。かつてロックスターの妻だったとは信じられないくらい落ち着いてしまい、ごく普通の中年女性になっていた。服装も地味だし。でも、フィルの思い出を語ると、目が輝いてきて、とてもいい顔になるのね。
「彼はとてもロマンチックな人だった。でも、よくあるような、花だのチョコレートだのといった、そういうロマンチックとは
違ってたわ」
「彼が入院したとき、看護婦が言ったの『あなたは歌手でしょ何か歌ってみて』と。口元に耳を寄せてみたら、彼はMY WAYを歌っていたわ」
ホームビデオに写る娘のサラとキャサリンも可愛い。一緒に遊ぶフィルは、ほんとうに子煩悩な父親という感じで、ああ、このまま幸せに暮らせていたらどんなにか……と涙が出そうになっちゃった。
そして、フィル自身。インタビューに答える彼は、とても落ち着いていて知的で、薬で身をほろぼした人という今までの印象が嘘のように思える。ただ、映像が次第に彼の死に近い時代にいくにつれ、目の輝きが消え、話す言葉も不明瞭になっいくのが明らかにわかって、つらい。
ほかに、SKID ROWのメンバーだったブラッシュ・シールズやアルバム・カヴァーを手掛けていたジム・フィッツパトリック、旧友のヴァン・モリソン、マーク・ノップラー、ボブ・ゲルドフ、ヒューイ・ルイス、それに彼の音楽に影響を受けたミュージシャンたち、U2のボノ、GUNS N' ROSESのスラッシュ、BON OVIのジョン・ボンジョヴィ。
ジョン「THIN LIZZYの音楽のエッセンスというのは、エレクトリックなロックバンドがカウボーイを歌ったってことだと思うんだけど、俺たちはそれを次の10年でやってるのさ」
しかし、番組製作者の意図だったのか、裏でいろいろあったのかはわからないけど、ジョン・サイクスがビデオ映像の中に一瞬登場した以外、コメントでもふれられず、もちろんインタビューにも登場しないというのにはかなり驚かされた。アイルランド人にとってのサイクシーというのは、なかなか微妙な存在なのかもしれない。
実はこの時点ではまだ、翌日のコンサートのゲストは確定していなかった(・_・)。 予想としてはジョン・ボンジョヴィとかジョー・エリオットらの噂があがってはいたものの、あくまで噂の段階で、また、THIN LIZZYとして演奏をするメンバーも、ジョン・サイクス、スコット・ゴーハム、ブライアン・ダウニー、ダーレン・ワートン、そしてマルコ・メンドーサという、来日公演と同じラインアップまでは決まっていたものの、それ以外の歴代ギタリストが参加するのかどうかも不明。
この番組を見ながら、ひょっとしたら……と期待と不安に翻弄される私なのであった。