Jeff Buckley (Jan 30,1995 at Shinjuku Liquid Room,Tokyo)
歌詞なんて無意味だ。メロディなんていらない。声だけが他のすべてを圧倒していた。
彼ののどからしぼり出される静かな叫びに空気がふるえ、そのバイブレーションに魂が揺れる。
彼の声が空間を海のように満たし、その波にもまれながら、心地よく溺れる。
どうしてあんな声が出せるんだろう・・・
どうしてあんな風に歌えるんだろう・・・
どんなジャンルでもくくれない音、どんな国境でも分けられないトーン。いままで誰も聴いたことがない、だれも生み出したことのない音楽。
彼は今世紀最後の天才だと思った。
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とにかく声も出ないくらい感動しまくりのライブでしたが、音楽的な内容の素晴らしさと好対照をなしていたのが、あまりにも飾らなすぎるジェフ君の素顔。
白くテレンとしたVネックの、いわゆるオヤジTシャツの上に木綿のシャツを前をはだけてはおった彼に、最初にスポットライトが当たったときは、「え? あれがジェフ?」と我が目を疑ってしまった。だって、あまりにも小柄で普通っぽくて、そのへんの道端でアクセサリーでも売ってそうな男の子だったんだもの。
おまけに「驚異のヴォイス」の持ち主のくせして、酒(赤ワイン)は飲むわ、タバコは吸うわ、ドラムが壊れて次の曲に入れないと、即興で歌詞を作ったお笑いフォークソングを歌うわで、なんというかカリスマ性なんてこれっぽっちもない。
それなのにそれなのに、ひとたび歌い始めると、まるで違う人格が現われたかのように、内側から何か光が発し始める。あれがオーラというものなのでしょうか。
バックを固めるドラムもベースもギターも、みんなすごく上手なんだけど、それでも彼が歌い始めるとすべてふっとんでしまって、彼のほうにしか気持ちがいかなくなる。
歌の最後の「ふ」というため息までもが曲の一部を構成していて、聴き手の最後の防波堤まで突き崩してしまうような、そんな破壊力をもった声でした。
あしたのホール公演(日本青年館)はどういう展開になるのか、いまからどきどきしてしまう私なのでした。