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たった1日だけの日本公演という、なんとも贅沢なショウに行ってきました。渋谷 ON AIR EAST はオールスタンディングで800人 入る会場ですが、そこが最終的には8〜9割の入りだったでしょうか。ソールドアウトではなかったですが、最近のライヴとしては入りはよかったと思います。もっともチケット代4500円(ただしドリンク代500円を入口で払うので実際には5000円)という安さと、「1日だけ」 という条件も加味すると、「やはり複数回の全国公演は無理なのかなあ」 という気持ちにもなりました。
それにしても一体なぜなんでしょうね。実際にライヴが始まったら不思議で仕方がありませんでした。あれだけの楽曲を持ち、あれだけのパフォーマンスが出来るバンドはそういないと思うのに、なぜみんな見に行かないのかなあ。そもそもどうしてアルバムが売れないのかなあ。
という愚痴はおいといて、大満足の内容でした。スティーヴがライヴでも巧いのは4年前の来日公演で確認していましたが、素晴らしいの一語。しかも、今回のアルバムで感じたのですが、前は剛球一直線だったのが、とても微妙なニュアンスを感じ取れる瞬間が何度もありました。「ああ、ここでそうくるのか」 と心の中で悶絶したこと数度。
途中1〜2度声がかすれて出にくそうだったことがありましたが、あれだけ長時間あのヴォリュームで歌い続けていたら無理もありません。が、最後のほうになるとまた絶好調に戻り、レオのギターとの掛け合いでは信じられないような高音を出してみせて、レオに 「わかった、降参」 と言わせていました。
うれしかったのは選曲が前作 「OPEN」 と最新作 「HOMERUN」 から重点的に選ばれていたこと。4年間の空白がこれで埋まり、ファーストからの彼らの音楽の変遷もしっかり生で受け止めることができた、という印象をもちました。中間に入ったアコースティック・タイム(スティーブは 「カラオケみたいなものだからみんなで歌ってね」 と言ってました)で 「D-FROSTED」 もしっかりカヴァーしていましたし。
オープニングは 「HOMERUN」 と同様、例のブーメランみたいなSEから始まって "Everything Can Change"。そのあとは 「OPEN」 と 「HOMERUN」 からの曲を交互にやるという感じ。"Homerun" の最後の心臓の鼓動みたいな音になったところでいったんメンバーがひっこみ、オーディエンスは曲と同じに過去の曲がテープで流れてくるのかな?と待っていたのですが、なんと意外なことにそのまま終わってしまい、全員が椅子に坐ってのアコースティック・セットに入ってしまいました。
3曲終わったところでドラマー、ベーシスト、キーボーディストが自分の位置に戻り、スティーヴもマイクスタンドの前に立つのですが、レオとマンディだけは坐ったまま。その形で次の2曲を演奏しました。これは、正面から見ていた人には視覚的にも楽しかったんじゃないかと思います。ギタリストが2人いることをビジュアル的にも上手に使っているなあと思いました。ただ、この趣向はヨーロッパではやってなかったんでしょうかしらね。スティーヴが坐って いるレオを見て、「これって初めてだね」 と言ってレオが何か答えると 「俺は気にしないよ」 と言ってました。「俺達だけラクしてごめんね」 とでも言ったのでしょうか。
この形で初期のカヴァー "Hush" をやったんですが、アコースティックギターの音が新鮮でけっこう楽しめました。掛け合いの部分も盛り上がるし、バンドとしてもはずせないのかな。ファンとしてはオリジナルにいい曲がいっぱいあるのだから、カヴァーはそれほどやってくれなくてもいいのに、と思ってしまうのですが、このほかに "Mighty Queen" 、 "Blackberry Way"、"Take It Easy" と4曲もやってしまった。
バラードとアップテンポの曲をうまく配列して、だれることのないセットリストでした。新譜の中で 「これはみんなで腕を振るのかなあ」 と思った曲では案の上スティーヴが腕を振ってみせたのでちょっと笑ってしまいましたが、自然にそうしたくなる曲調だからオーディエンスもみんな従ってました。
アンコール1曲目の "Heaven" は超ロマンティックなバラードなんですが、スティーヴは最前列端にいた女性ファンに向かって片手をさしのべ、じっと目をみつめたままでイントロの2小節を歌って自分自身でも盛り上がっていました。彼にみつめられていた女性はきっとあのあと何日間かは夢心地だったことでしょう。
そして最後の最後、なんともう一度 "Homerun" のメロディが流れ、バンドもファンも一緒になっての大合唱で2時間弱のショウが幕を閉じました。そうだったのか! あの途中で尻切れトンボみたいに終わったように見えたのは、この大団円を迎えさせるための伏線だったんですね。パズルの1片が最後にすっぽりと正しい位置にはまった気持ち良さを感じてしまいました。
スティーヴはいつものベレー帽ではなく、黒いスカーフで頭頂部を包んだジプシーのようなヘアスタイル、黒の半袖Tシャツに黒のジーンズ、銀のバックルがついたベルトに大きな銀のペンダント、まではいいのですが、その上に羽織っているシャツがねえ。今どき誰も着ないだろうと思われるようなスカーフ柄(ほら、中森明菜が昔着てたみたいな)、それも赤と黄色なんですよ・・・。あの趣味の悪さにはちょっと言葉を失いました。途中、シャツを脱いでTシャ ツとジーンズだけになったので、「そのほうがいい」 と思ったのもつかの間、次は黒地にいろんな色のラメで細かい花柄の入ったシャツを着て出てきて驚愕させ、最後にはワッシャー加工された紫色の光る素材のシャツを着てきました。この人のセンス、かなり独特。 後腰につけているモニター制御装置を隠す意図もあってシャツを羽織るのかな。途中で何度かスイッチをいじってボリュームを調節していましたし。
半袖になったときの腕の太さには驚きましたが、あれってエクササイズしてる証拠ですよね。そのせいかお腹も出ていなくて、安心しました。まあスリムとはお世辞にも言えませんが、ああいう体質の人はエクササイズして余分な脂肪がつかないようにするだけで大変でしょうから、偉いです。他のメンバーもレオとマンディは体質的に太らないタイプなのでしょうが、スリムでしたし、ドラマーとベーシストもちゃんと鍛えた体型を保っています。見習わせたいミュ ージシャンがいっぱいいます。
今回はレオ側の前のほうで見ていました。イヴェントのときなどけっこう三枚目的なキャラなんですが、ギターを弾いているときはスターになりきっているようで、ソロで正面に出てくることも多く、もうひとりのマンディ ”あくまでも裏方に徹するもんね” メイヤーとは大違い。トーキングモジュレーターを使うシーンなどでは、スティーヴを食ってしまうほどの活躍ぶりでした。コーラスの声もスティーヴ張りの高音をらくらく出していたし、やはりこの人とステ ィーヴがバンドの中心なんだな、と実感しました。ただし、テクニカルなギタリストではなく、自分が作った曲なのにけっこう間違えるところなど親近感を持てます。
アルバムにキーボードが多用されていたので、当然ながらサポートのキーボーディストがついてきていて、この人は髪型といい服装といいバンドのイメージとはかけ離れた雰囲気でしたが、"Heaven" の最後にキーボードソロを弾いたりして、かなり重用されていました。でも "Heaven" の途中で入るピロピロピロってところは、もうちょっと可憐に弾いてほしかったなあ。ライヴでは無理なのかもしれませんが。
ショウを終えたメンバーはみんな大事な仕事を無事に終えた満足感に浸っているようでした。ファンがあげた日の丸入りのフラッグをうれしそうに広げたスティーヴは 「またすぐに戻ってくるからね」 と約束して去っていきました。本当に絶対にすぐまた戻ってきて、ちゃんとした全国ツアーをやってほしいです。そのためにはファンとしても布教活動に励んで、アルバムの売り上げをなんとかしないといけないのかもしれませんが。