Fair Warning (June 23,1997, Shibuya Kokaido, Tokyo)
渋谷公会堂前はダフ屋の群れでいっぱいだった。前を歩く女性2人が好奇心を押さえきれずに聞いた。
「誰のコンサートなんですか?」
「知らねえよ。なんか外タレだよ、外タレ」おじさん、あのねえ(^^;)。私の席は右寄りの前のほうだったので、助っ人のヘニーが目の前というおいしい位置。彼、THUNDERHEADのときは、可愛いけどちょっとイモっぽいかなと思ってたんだけど、髪を短くしたら、もろにキアヌ・リーブス。超ハンサム!
隣りのウレと寄り添ってコーラスをつけたり、黒のレスポールを高く掲げて見せたりとパフォーマンスも派手なので、見ていてあきない。
トミーは黒のタンクトップに鮮やかなブルーの長袖シャツを羽織り、黒のぴかぴか光るビニールパンツにチャンピオンベルトみたいなシルバーのバックル付きベルト。ウレは黒地に原色プリント柄の長袖シャツに黒のジーンズ。シルバーのベルト。ヘルゲは黒と白の大柄なプリントのブラウスを裾を出して来て、黒の革パンツ。ヘニーはピンクと黒っぽいプリント柄の長袖シャツに黒のジーンズ。はっきり言って、トミーとヘルゲはオバサン臭いファッションだ。
セットリストはよく覚えていない。意外に1stからの曲が多かったような気がした。途中に長めのドラムソロが入るのがちょっと興ざめだが、トミーの喉を休ませるためには仕方がないのかもしれない。
しかし・・・とにかく音がでかかった(・_・)。
最初から最後までそれがいちばん強烈な印象かなあ。開演前にちょっと音合わせが聞こえたとき、「なんだかものすごく音が大きくない?」と言っていたのだが、客電が落ち、SEが終わって、演奏が始まったとたんに、目の前のアンプから吹き寄せてくる音の嵐で体が倒されそうになった。おおげさでなくほんとに鼓膜が一瞬破れそうになったのだ。あわててバッグからティッシュを出して耳に詰める。それでも音は暴力のように耳の奥に侵入してくる。私の前の女性も必死にバッグをさぐっていたが、どうやらティッシュを持っていなかったらしく、手帳を破くと手でもんで柔らかくして耳に詰めていた。ほかの人はそのままの状態で大丈夫なんだろうか。難聴になっちゃうぞ。
あまりにも音が大きすぎるために、モニターの音が聞こえなかったのだろう(実際、曲の途中でトミーが何か言いたげに袖に入っていったことがあった)、あのトミーが音をはずしまくっていた。おまけに大音量に負けまいとがなりたてなくてはならないので、最後のほうでは声が出なくなってしまった。
ヘルゲのギターも音はずしまくり。曲の中でギターが光る肝心のところで音がはずれるから、聴いてるほうはガクガクッときてしまう。最初の3〜4曲めくらいで、トミーがわざわざヘニーを紹介して、ヘニーからヘルゲへとギターソロを聴かせるところでも、ふたりともへろへろ。いったい何の曲をやってるのかわからなくなるくらいひどかった。
PAは客席の中央にいるはずなのに、あの音の悪さに気がつかなかったのだろうか。それとも気づいても直せないような状況だったとか? 途中のヘルゲのアコースティックギターソロでも、弾き始めたらギターの音が出なくて、あわてて調整するという一幕があった。ウレが「ほら、こうして俺たちは"DON'T GIVE UP"を実際に証明してみせているのさ」なんてMCでつなぎ、トミーがもう一度同じ紹介をして、それでもまだ直ってなくて、最後にようやく始まるときには、トミーが「もう一度やろうか?」というのをヘルゲが手で押しとどめるというシーンもあった。要はスタッフが未熟ということなのだろうか?
それでも、客席は終始盛り上がっていて、腕を振り上げ、一緒に歌い、手拍子を叩いている。ただ、せっかく一緒に歌ったその歌声も大音量にかき消されてしまうので、ステージのメンバーにまで伝わらず、どこか距離のあるステージと客席になってしまっていた。昨年のリキッドでの、素晴らしい一体感のあるライブを経験したあとだけに、「こんなもんじゃないだろう?」という気持ちがぬぐえない。
最後のほうで、「サプライズがあるんだ」というトミーの紹介でアンディが登場した。黒のツアーTシャツに黒のジーンズという地味なかっこうで、言われなければローディかと思ってしまいそう。それでも、彼のギターが入るとやっぱり音が引き締まる。ヘニーが下手とかいうのではないが、アンディのギターの音があるからこそ、ヘルゲのピロピロした音が引き立つんだろうな、と納得してしまった。
アンコールでは今回の公演の目玉となったのであろうヒットメドレーがくるのだが、ここでのトミーは、高音が途切れるようになってしまっていた。FAIR WARNINGの曲は、なんといってもどこまでも伸びるトミーの声で完成されているから、これはかなりつらかった。本来だったら、怒涛のようなヒットソングの連続に酔いしれ、一緒に歌って陶然とするはずなのに、フェイクしつつ歌うトミーをハラハラしつつ見守るような具合になってしまっていた。
終わって客席に挨拶をするメンバーを尻目に、肩を落とし、さっさと袖に入っていくトミーの肩を、ウレが「でも、よくやったよ」とでも言うように叩いていたのが目に残った。
最後にウレが「YOU MUST SEE THIS!」と言った。さすがドイツ人、すごい英語だ。そしてメンバー全員が横1列に並ぶと、今回の来日でファンからもらったとおぼしきフラッグをつなげたものを広げて見せた。どれもみんな作ったファンの気持ちがこもっていて、とても素晴らしいものだった。トミーがしみじみと、まるでひとりごとのように「VERY BEAUTIFUL!」とつぶやいた。メンバー全員、ほんとうにうれしそうだった。
このファンの気持ちを無にしないためにも、そして自分たちが創造している素晴らしい音楽を大切にするためにも、ひとつひとつのライブをきちんと組み立てられるようになってほしいと思った。音楽的な才能や技術と同じくらい、プロのミュージシャンにとって必須の部分だと思う。