Donal Lunny Band (Aug 25,1996, Lafore Musium Roppongi, Tokyo)
アイルランドのスーパー・プロデューサー(?)&ミュージシャンであるドーナル・ラニーが、仲間のミュージシャンを引き連れての初来日公演。
六本木ラフォーレミュージアムでの昼夜2回公演に、両方とも行ってきました。メンバーは前々日に佐渡島で日本のグループ「鼓童」などと、フェスティバル形式のコンサートをすませてきたばかりという、かなりのハードスケジュールだったようです。
モイア・ブレナンは、ご承知のようにCLANNADOの女性ヴォーカリストです。そしてリアム・オメンリィは元HOTHOUSE FLOWERSのヴォーカル。シャロン・シャノンは目下人気沸騰中の女性アコーディオニスト。【参加ミュージシャン(主な担当楽器)】
ドーナル・ラニー(ブズーキ)
モイア・ブレナン(ヴォーカル/ハープ)
リアム・オメンリィ(ヴォーカル/キーボード/ボーラン)
シャロン・シャノン(アコーディオン)
ナリグ・ケイシー(フィドル)
モレート・ネズビット(フィドル)
レイ・フィン(ドラムス)
フィオン・ロックレン(ベース)
ジョン・マクシェリー(イーリアンパイプ)これだけでも充分なくらいすごいメンバーなのに、当日ステージに登場したフルメンバーでの1曲目が始まったとたん、「これはとんでもないものを見ることになりそうだぞ!」と期待で背筋がゾクゾクッとしてしまいました。もうすごい迫力。
ドーナルはブルーのポロシャツに洗いざらした黒のジーンズ。モイアは透ける布で袖も裾もひらひらした、いかにもCLANNADOっぽいステージ衣装。シャロンは花柄のミニワンピースに白い綿のブラウスを羽織って、可愛い田舎娘のよう。
ギターの女性ふたりは、ナリグがグレン・クロースタイプの大人の女性で、肩を出した黒のスリムなイブニングドレスが優雅です。かたやモレートのほうは、まるでフランス人形のように愛らしい顔だちで、黒のピチTに黒のパンタロン、光るグレーの長袖ブラウスと、いかにもいまどきの若い子というスタイル。
レイは黒のランニングに黒のトレパン、黒のゲバラ・ベレーで、髭もなんだかゲバラっぽい。フィオンは長い金髪を後ろで束ね、白の長袖Tシャツにジーンズ、ジョンはダンガリーの長袖シャツを黒のスリムジーンズの上にがばっと着て、腰に楽器のチューニングに使う道具類でも入っているのか、ウエストポーチを大事そうに巻きつけていました。
リアムはといえば、相変わらずの短いツンツンヘアに髭面。紺の中国服みたいな上下を着て、国籍不祥です。
といったように、服装ひとつとっても、全員がばらばらなのに、不思議と違和感はありません。どうしてかなあ。
1.ERRIGAL
1曲目は全員が参加して大にぎわいのインスト曲。アルバムにも入ってるし、きのうの新宿ヴァージンでのプロモでも、ドーナルとシャノンの2人だけでやってたと思うんだけど、こうしてフルメンバーで生で演奏されると、その迫力たるや半端じゃない。最初っからすっかり客席には「その気」が充満してしまった。2.O BHEAN A'TI
2曲目はモイアがアルバムにも収録されているトラッドをしっとりと歌います。彼女の声は、ほんとうに透き通るように美しい。それでいて、この前聴いたメアリー・ブラックもそうだったんだけど、決して硬質ではない、とても暖かい響きがある。写真で見るよりはややふっくらしていて、優しいお母さんという印象だ。さすがにエンヤに似ている。3.FAREWELL
ここでドーナルがメンバー紹介を。最後にリアムを紹介したのだけれど、そのときに「彼は日本へはもう3回くらい来たことがあるんだよ」と言ったのを受けて、リアムが「どこでも僕が行った所には、さよならを言わなくてはならないんだ」と次の曲にひっかけたMCを。4.JOHN'S SOLO
次はジョンのソロ。イーリアンパイプの少し悲しげな哀愁を帯びた響きに、ドーナルが叩くボーランのリズムが重なる。ジョンって、少年のようなルックスで内向的な感じで下を向いて音楽だけに没頭しているタイプなのだけれど、人が演奏しているときにはモニターの音量などをチェックして、それをステージ袖のスタッフに合図したりして、音楽的な面ではかなり几帳面な人みたいでした。5.AR BHRUACA
その次のリアムの歌の素晴らしかったこと。曲名の意味はTHE BANKS OF RIVER LEEだと言っていたけれど、それ以外の説明がよく聞きとれなくてとても残念(;_;)。 ドーナルが代わって弾くキーボードからリアムのほとんどアカペラの歌へと入り、最後はイーリアンパイプのソロで終わる、それはそれは感動的な曲でした。今までの彼の歌に比べたら、かなり低い音階で歌っているんだけど、その深い音質は、彼の力がさらに深まったことを表していました。シャーノス・シンギング(無伴奏で歌う伝統的な歌唱法)の継承者というだけあって、その声の説得力たるや並みじゃあありません。昼の部で私の後ろに座っていたおばさまが、休憩時間に連れの人と話していて、「モイアの歌は予想通りすてきだったけれど、それよりなにより、あの男性の歌に感動してしまいました。声が素晴らしいですね。そして彼自身のたたずまいも」と熱く語っているのを聞いて、「短髪と髭で若い女性の顔ファンから逃れられたと思ったのに、リアムってば今度はおばさまファンがついてしまうのねぇ」と思った私でした。
6.SPIKE
スパークス・アイランドの歌だというこの曲では、ドーナルがはりきりすぎてブズーキの弦を切ってしまいます(昼の部)。元々4弦しかない楽器だから、1つでも切れたら大変だろうなMか、と思って見ていたら、やっぱりドーナルおじさん、あわてて取り替えにいってました。7.MAIREAD
次は若いほうのフィドラー、モレート嬢のソロ。静かな調べを切々と弾きまくり、瞬間下を向いた顔に笑顔が浮かんだと思う間もなく、激しくアップテンポに変わる当たりの切り換えが、若さゆえにキレがいい。でも、なんてったってとにかく可愛い。長いブロンドヘア、陶器のようにつるつるの白い肌、くるんとカールした睫毛に赤い唇。若い男性客の視線は、ほとんどの場合、シャロンか彼女に向かっていたように思います。8.O RO
若さ爆発タイムのあとは、しっとりと大人の時間。モイアが娘が生まれたときに作った子守歌だという曲を歌います。静かな曲にふさわしく、ドラムスは下におりて、静かにコンガを叩き、リアムのキーボード、ドーナルのボーラン、それに2人の女性がフィドルをおろしてコーラスに入ります。歌もうまいのねえ、この人たち。9.SI DO
再びリアムがステージ前に出てきてボーランを手にします。ふと足下を見ると裸足。そういえば彼、HOTHOUSE FLOWERSで来日したときも裸足でステージやってたっけ。思わず目頭が熱くなる私です。でも、夜の部は最前列正面という、願ってもない席だったので、すぐ目の前に立っているリアムを前にして泣いてるヒマなどありません。瞬きするのも惜しんで、じーっとみつめて聞き入ります。曲はコネマラ地方の民謡らしく、どうも若い男が年寄りの女性と結婚する話を歌っているみたいなんですが、MCが早くて聞き取れません。「そういう時って、大方酔っ払っているか、金のためなのかって言われるんだよね。どこの世界でも同じだよね」といった茶々をドーナルが入れてたような気もします。
リアムによれば、コネマラ地方の曲というのは沖縄民謡に似ているらしい。が、演奏した曲は、沖縄民謡というよりも、THIN LIZZY の"SITAMOIA"にそっくりだったのに私は驚きました。アイリッシュ・トラッドに詳しい知人の話では、この曲はよく女性によって歌われることが多くて、男性が歌うのを聴いたのは初めてだということだったのですが……。
10.HORNPIPE
前半最後は再びにぎやかに全員で演奏しまくり、楽しげに手を振りながらメンバーは引っ込んで行きました。【休憩】
15分の休憩が入ります。ロビーに用意されたブースでアイルランド関係の本やCDを物色したり、紅茶やお土産品を買ったり、ギネスやベイリーズを飲んだりしました。11.ELEANOR
シャロン以外のメンバーが登場し、パイプがメインのインスト曲で派手に再開。リアムは白っぽいニットの帽子を水泳帽みたいにぴったり被ってる。はっきり言ってすごく変。←さすがにこれはすぐに脱いでた(^^;)12.SLIDES
シャロンも登場。リアムがキーボードのところで曲について紹介したけど、なんと言ったのかよくわからない。ドーナルの「"TRIP TO SADO(佐渡)"という曲だよ」というジョークは、昼夜ともうけてました。13.SHARON'S SOLO
ドーナルのブズーキだけがついて、シャロンのソロが始まります。ソロになっても他のメンバーはステージに残ってて、みんなが踊りながら曲に参加しているのがとってもいい雰囲気。時々お互いに顔を見交わしては微笑み、一生懸命アコーディオンを弾いてるシャロンを応援するようにみつめては微笑み、ここぞというところでは掛け声をかけたりして、すごくアットホーム。まるでいちばん末娘の初舞台を見守る大家族、といった趣です。いいなあ。シャロンは、ここ2枚くらいのアルバムがとても売れたらしく会場からの歓声もモイアを超えるくらい受けていました。特に男性の声が多かったのは、なんといっても彼女が可愛いから。化粧っ気のない顔はまるで少女のようで、演奏の合間に仲間のほうを見てニコッと微笑んで「すてきよ!」とでも励ましているような仕草がとてもラブリーです。
14.ALASDAIR
「スコティッシュ・ケルトはドネゴール地方の曲に似ています」モイアのMCに会場から歓声が飛びます。「ドネゴール出身の人がいるの?」「そうさ!」
なごやかな掛け合いがあって、モイアが歌い出した曲は、それまでとはまたちょっと趣の違う、不思議に重みのあるメロディで、とても素敵でした。ひとくちにケルト音楽といっても、ほんとうに奥が深いものなんですねえ。
15.AS I ROVED OUT
リアムがステージ正面に出てきて、次の曲の紹介を始めます。民族同士の戦いがあって、領地がいろいろに入れ替わり、そのつど下の人たちは辛い悲しい思いをさせられる……といったようなことを歌っていると言ってるような気がしたんですが。全然自信はありません。曲自体はとても静かで、時々聞き取れる歌詞からすると、ラブソングのようでもありました。「ダイアモンドの指輪を君の右手につけたい」右手の指輪というのは、どういう意味があるんでしょうね?16.NOLLAIS
ここで年上のほうのフィドラー、ナリグのソロです。さきほどと同様、静かな旋律から始まるのですが、その音にこめられた情念たるやすさまじいものがありました。これはやはり「年の功」というのでしょうか。それとも彼女自身の感性か。ごくシンプルなメロディにこれほど感情をこめられるなんて、ほんとうに凄い! と感動している間もなく、いきなりアップテンポの部へと転換します。この変わり方がまたすさまじい。ロックの世界の言葉で表現すると、「泣きのギターから一転して怒涛の速弾きに」といったところでしょうか。ドーナルのブズーキとリアムのボーランが興奮をさらに高める作用をし、会場が一体となって音に酔いました。17.SALLY
騒然となった会場を静めるかのように、モイアが「私の大好きな曲」と言って歌い始めます。イエーツの詩と関係があるとかないとか言っていたような。このコンサート、こういった緩急の付け方も実に見事です。さすが、スーパー・プロデューサーと言われるドーナルの仕切りだけあります。18.CAVAN POTHOLES
アルバムに入ってるシャロンの曲です。このあたりから、客席で立ち上がって踊る人が出始めました。昼の部ではいなかったんですが、夜はアイリッシュ人口も多く、ギネスの消費量も多かったせいかノリがよくて、かなり前から立ち上がりたくて仕方のない様子が見えていました。が、床がフラットなので、立ち上がると後ろの人が見えなくなるという遠慮から、なかなか立てなかったみたいです。実は私もそのひとり。このあたりではまだためらってました。
19.CATHAIN
私が勝手に、このコンサートでいちばんのハイライトと思ってる曲。もちろんヴォーカルはリアムです。 初めは静かに、まるで声明のように響く声で始まり、ボーランのリズムが加わって次第に激しさと速さを増していくこの曲は、アルバムで聴くより生で聴くほうが100倍くらい素晴らしい。楽器の数も違うし、リアムの生の声の迫力が違う。もちろん私はすでに立ち上がって、リアムを見上げながら恍惚状態に入っておりました。
ところでボーランですが、HOTHOUSE FLOWERSで使ってた頃は、短いバチを使っていたと思うんですが、今回はドーナルもリアムも手だけで叩いていましたね。
20.POLKAS
大声援がなりやまない中、全員がそろって楽しげなインストルメンタルでしめくくりです。ドーナルおじさんは、このころにはもうすっかり汗びっしょり(そういえば、昼の部が終わり、夜の部で登場したとき、彼だけが別のシャツに着替えていました)。みんな顔を紅潮させ、持てる力を出し切るかのように弾きまくって、最後にはステージ前に並び、お辞儀をして引き上げて行きました。【ENCORE】
もちろん、ここで帰る客などいるはずありません。「WE WANT MORE」の掛け声と拍手でアンコールを求めます。やがて、ドラマーを先頭にメンバーがステージに戻ってきてくれました。21.ERRIGAL
これもまた面白い趣向。アンコールが1曲目と同じです。でも、この曲って最初にも最後にもぴったりなんですね。こういう演出もなかなかお洒落だなあ。昼の部はここまでで終わり。全員が並んで手をつなぎ、リアムが掛け声をかけて「せーの」でお辞儀するのを3回くらい繰り返して帰っていったんですが、夜の部は客の熱狂度があまりにもすごかったので、もう1度出てきてくれました。で、1曲やってくれて今度こそ終わり。
ただ、歓声と拍手があまりにもすごかったので、これ以上熱狂されてもと思ったのか、リアムとドーナルがちょこちょこっと打ち合わせて、佐渡で覚えたという5本締めをやろうと言い出しました。言葉が通じなくてもやりたいことは観客全員に通じました。
最初は1本指同士、次は2本指同士というふうに両手の指をクロスさせて「ちゃんちゃんちゃん」と声を出します。その声の大きさも、最初は囁くような小声で、指の数が増えるにつれて大きくしていくのです。そして最後には5本の指全部、つまり両手で拍手をして「わーっ!」と騒いで終わり。これって、すごく頭のいいやり方だったと思う。日本人もアイルランド人も、それ以上アンコールを求めることもなく、みんなすごくすっきりした顔をして会場を出ていったもの。
ああ、それにしても濃い1日でしたぁ。疲れたことは疲れたけれど、こんなに心地好く疲れたのはひさしぶり。リアムはやっぱり天才です。彼の声には人の心を動かす何かがあります。その力をもっともっといろんな場面で見せてもらいたい。こういうメンバーでのコンサートももちろん素敵だけれど、やっぱり彼自身が作り上げた作品をひっさげてのツアーに来てほしいものだと心から熱望しました。お願い、早く来てね(^^)/゙。
(注1)セットリストは、ステージに貼ってあったものをコンサート終了後いただいてきたのを見て書いているので、短縮形 だったりする可能性もあります。
(注2)アクセント記号が出せないので、曲名表記は正確ではありません。