Dishwalla (April 9,1997, Shibuya Quatro, Tokyo)
客電が落ちてステージに人影が見えたとたん「きゃあ〜っ!」という黄色い声の渦。さっきまでは意外に男の子率が高いじゃない、なんて思ってたのに、こ、こ、これは・・・。 さすが美形バンドというべきか。
しかし、ライトがついてステージの上が明るくなったとき、思考が一瞬停止した。
え? 美形はどこにいるの? 端から順番に見ていく。右端は金髪を短く刈り上げたおじさんみたいなベーシスト SCOTT。そのうしろには金髪(?)の頭をレゲエにしたキーボード(誰?)、よくは見えないけど上半身だけでもきっぱりおじさんを主張してるドラマーのGEORGE、背が高くてがっちりして、チャックのシャツを着たいかにもアメリカの田舎青年風ギタリストRODNEY、そして中央にはキップ・ウィンガーを若くしたような小柄な男が腕に白い線の入ったジャージの上着を着て立っていた。
なんか、今年の私ってジャージに呪われているみたい。
と思っているうちに曲が始まった。なんと1曲目から"CHARLIE BROWN'S PARENTS"だ! この曲、何かに似てると思いながらどうしても思い出せないままに、大好きになってしまった曲だ。で、ライブでイントロのギターを聴いたとたんに思い出した。RADIOHEAD の"CREEP" にそっくりなんだ。どうりで私が好きになるわけだ。
しかし、ヴォーカルのJ.R.は予想以上に歌が巧い! で、どうやら彼が美形メンバーだったようで(いまごろ気がつく)、彼の一挙手一投足に回りの女の子たちはキャアキャア叫んでいる。でも、どうして、彼がジャンプするとそろって馬鹿笑いするんだろう? なんか失礼な気がするんですけど・・・そりゃあ、端正といっていいほど整った顔立ちの彼が、OASISのリアム"ゴリラ"ギャラガーみたいに動くのはかなり変。もっと自分に合ったステージパフォーマンスがあると思うんだけど、でも、まだ若いんだから、あり余るエネルギーをステージで発散したっていいじゃない。
彼って、カメレオンみたいなタイプで、曲によって、表情によって、いろんな人に似てるように思える。最初はキップ・ウィンガーと思ったけど、リチャード・ギアにも似てるし、マイケル・ハッチェンスにも、NINE INCH NAILS のヴォーカルにも、ジョージ・ハミルトン(誰も知らないだろーなあ)にも似てるように見える。
そうこうしているうちに次の曲が始まった。なんとこれまた私が大好きな"THE FEEDER"だ。こんなにはなから目玉の曲を出しちゃっていいわけ? あとで困らないのかしら? まさか1時間以内で終わっちゃうなんてことないでしょうね。
そんな内心の不安をよそに、体は音楽に反応して動き出す。これ、アルバムよりずっとヘヴィーでかっこいい。ヘヴィーメタルと呼んでもいいくらい。ここのベーシストって、見かけは地味だけど、かなりいい線いってる。ベースの音とヴォーカルの声が、このバンドの要(かなめ)かもしれないなあ。
J.R.「次は新曲だよ」
RODNEY「まだ名前もつけてなくて新曲としか言えないんだ」
SCOTT「キヨコの歌だよ」
RODNEY「キヨコって誰?」
J.R.「あ、こいつ赤くなってやんの」
などという中学生のような会話が交わされ、ミドルテンポの曲が4曲目に演奏された。既発の曲に似た感じで、あんまり印象には残らない。
そしてなんとなんと5曲目は"COUNTING BLUE CARS"!
こいつら何を考えてるんだ〜? 持ち駒がなくなっちゃうじゃないか〜。このあとどうつなげていくつもりなんだろう? 第一アンコールにやる曲がないじゃない。
しかし、この曲はやっぱり名曲だった。ヒットしただけあって、サビの部分では客席からも声が上がる。最後の部分ではJ.R.がマイクを客席に向けると、それに応える大合唱。感激したJ.R.が「いえ〜〜〜す!」とシャウトして暴れまくる。最後はドラム台のところにみんなが集まって、1大ジャムセッション風の演奏が繰り広げられ(J.R.もギターを弾いていた)、まるで本編最後のような盛り上がりを見せた。
アコースティックヴァージョンが聴きたいと思っていたけれど、やはりライブではこっちのヴァージョンだわ。
正直言って、このあとはショウとしてはやはりダレた感じがあったことは否めない。J.R.の声を聴き、顔を見てるだけでも楽しいことは楽しいけれど、やっぱり構成は大事だなあ。
というわけで、このあとはもっぱらJ.R.ウォッチングにいそしんだ私。最初に出てきたときは、耳くらいまでの髪がぼさぼさで、なんだか若い頃のニール・ヤングみたい、なんて思ってたんだけど、次第に汗で濡れて乱れた前髪がはらりと額に落ちかかったり、その髪を両手で後ろにかきあげ、オールバックにしたところなんて、やっぱり美しい。
で、彼自身も自分の容姿の効果を熟知しているらしく、かなりナルちゃん入ってたことも確か。"PRETTY BABIES"のときとか、マイクスタンドの前に立って両手を広げ、体をくねらせながら歌う姿は、ちょっと恥ずかしいときもあった。たらしていた手をまっすぐ持っていかないで、ちょっとひらひらっと品を作ってから髪を耳にかけたときには、思わず「うっへえ」と苦笑が。
おかしかったのは中盤で「暑いな! いいかい?」と言ってから上着のジッパーをシュッとマイクに音が入るくらいの勢いでおろしたとき。
回りの女の子たちからいっせいに「きゃあっ!」という叫びが漏れ、熱い期待で会場中が燃え上がったこと。残念ながら上着の下にはグレーの長袖Tシャツを着ていたことがすぐに判明して、今度は「は〜っ」というため息が聞こえた。←実は私もちょっと期待したんだけどね
でも、Tシャツを着ててもわかる肩や胸の筋肉の盛り上がりを見ると、けっこうアメリカンな体形かもしれないから、お見せしないほうがよかったのかも。
ラスト近くはまた激しく盛り上がる曲の連発で"EXPLODE" あたりではフロアの前のほうが嵐の海のように揺れている。けっこう外国人が多い。私が立っていた後ろのほうにも外国人が多くて、これはこの手のライブには珍しいくらい年齢層が高いのが特徴だった。別に業界人というわけでもなくて、ごくふつうの普段着を着たおじさん(でもほんとはまだ30くらいなのかしら)たちなんだけどね。DISHWALLA のファン層ってよくわかんないな。あんまり若い子(いわゆる渋谷系)がいなかったのも意外だった。
アンコールのいちばん最後はカヴァーだったみたい。「みたい」というのは、聴いたことはあるけど曲名は知らなくて、近くにいた人たちの話を聞いていたら「あれはCARSだよ」と言ってたから。
というわけで、1時間30分弱のライブが終わった。ショウケースギグとしてはかなり長かったし、内容もよかった。向こうでかなりライブ経験を積んでるとみえて、演奏にも歌にも危なげなところがない。こういうバンドが新人で出てきちゃうところが凄いよね。アメリカの底力ってところだろうか。
ただ、今後もっとビッグになることを考えているなら、もう少し自分たちのカラーに合ったステージ構成とかパフォーマンスを工夫してもいいかもね。特にJ.R.。着るものも髪型も動きも、もっと彼に合ったものがあるはずだし、それをみつければ物凄くカリスマ性のあるシンガーになれるはずだと思うのだ。誰かブレーンになってあげて。