SHOH's LIVE REPORTS

Dark Tranquillity
(September 4,1999, Shibuya On Air East, Tokyo)


場である渋谷 ON AIR EAST の前にはふだんより一段と黒い集団が集まっていた。男性:女性の比率もぐっと男性側に傾いている感じ。これは前のほうに行くと危険かなと思い、Aブロックの柵より後ろの壁際に立った。

前座の SOILWORKは ARCH ENEMY寄りの音と聞いて期待していたのだが、まだ修行中という感じがした。なんとなく全体のまとまりがなくて、バンドとして一体になってライヴに聴衆を引きずり込んでいく迫力が感じられない。ドラム、ベース、ヴォーカルに比べるとギターの音が小さ目でせっかくのツインリードの魅力が弱まってしまったように思えた。また、ヴォーカルが2曲目くらいからMCになると息が切れてハアハア言ってるのがちょっと情けなかったな。

とはいえ初来日で前座という条件としては、かなりよくやったと思う。最後にやった曲は、おやっと思わせる新鮮な雰囲気があって、アルバムを聴いてみようかな、という気にさせた。

ヴォーカルは鋲付きフィストバンドを両腕にはめ、ちょっと光る黒の体にぴったりした半袖Tシャツ、下は皮パンツ、頭は坊主刈りというルックス。体が大 きいので一件恐ろしげに見えるが、よく見ると顔はまだまだ童顔で、かなり若いんじゃないかと思った。他のメンバーはドラマー以外は全員マーチャンの自分たちのTシャツをお揃いで着ていて微笑ましかった。

さて、適度に温まってきた会場にメインアクトの DARK TRANQUILLITYが登場。びっくりしたのはヴォーカルのミカエルが予想外にほっそりしていたこと。北欧のデスメタル・バンドということで勝手にがっしりした体格の人を想像していたもので。丈の短い黒の長袖Tシャツは親指に袖先をひっかけるようになっていて、細身の体をより強調していたが、あれって袖がめくれなくて暑くないのだろうか・・・?

おまけにこのミカエル、絶えずニコニコと笑みを浮かべながらステージの上を走り回り、モニターの上に乗って聴衆を煽ったり、かと思うとステージに跪いたりと、一瞬たりともじっとしていない。左腕を背中に回し、右手に持ったマイクを前に突き出して歌う様子はまったくのジャンル違いながらINXSの今は亡きマイケル・ハッチェンスを思い出させた。多分、ほっそりした容姿と自然なウェーブがついたダークブロンドの長髪のせいだろう。

ギタリストのひとりも長髪で、ちょっと DREAM THEATERのラブリエに似た感じだったが、こちらはミカエルとは対照的に終始表情を変えず、動きも少ないのが印象に残った。クールなのかシャイなのか、いまいち掴めない。ライヴ了後に前列のファンたちと握手していたときにようやく笑顔を見せていたので、緊張していただけなのかもしれないが。

残りのメンバーはみんな短髪。キーボーディストは特にもみあげを長く伸ばしたプレスリーみたいな髪型で、しかもポロシャツ姿。それでいて演奏中ずっと右手を振り上げてメタル風に聴衆を煽るので、ちょっと不思議な感じがした。そういえば前座の SOILWORKでもキーボーディストがそうやって煽っていたが、北欧ではこれが流行りなのだろうか(^^;)?

さて、肝心の演奏だが、ハマった。細かいことを言えばきっといろいろアラはあったんだろうな、と思う。曲が長いせいもあって、途中でヴォーカルの音程がちょっと怪しくなったり、ギターのチューニングが合っていないときがあったり、という部分もあったが、そういうことがほとんど気にならないくらい、DARK TRANQUILLITYの世界というものを創り出していた。

MONSTER MAGNET のライヴ・レポートの中で、「同じような曲が続いて少しあきた」と言う私とは逆に、「それが彼らの個性であって気持ちいいのだ」という友人の意見があって、なるほどそういうものかと思ったと書いたが、今回のライヴでそれを実感した。初期のアルバム2枚しか持っていないので、初めて聴く曲が多く、時には「あれ、これ、さっきやった曲と同じでは?」なんて思うことも何度かあったのだが、 それがまったく気にならない。とにかくあの演奏であのヴォーカルが聞こえてさえいれば気持ちよくて陶然としてしまうという状態だった。要は私のツボにハマる音だったということなのだろう。

ミカエルの声は元々好みのタイプではあったが、実際にライヴで聴くと実にいい声だ。デス声も地声もどちらも魅力的で、なおかつ歌にドラマが感じられる。歌詞の内容はわからないのに、まるで芝居の一幕を見ているような気にさえさせてくれるのだ。ベルギーにジャック・ブレルというシンガーソング・ライターがいた。どちらかというとシャンソンの分野に入る人だが、彼の歌はまさに演劇を聴いているような気分にさせるものだった。ミカエルの歌を聴いていて、このブレルの歌を思い出してしまった。

曲調と、このミカエルの歌いっぷりのせいか、聴衆の反応は意外に大人しめで、ころがったりする人はなく、前のほうの人も曲に合わせて首を振るか拳を挙げる程度。私は途中から我慢できなくて前のほうに行ったのだが、3列目くらいから後ろはみんな適当に間隔を空けて立ち、それぞれが歌の世界に浸っているような楽しみ方をしているので、まったく押されずにステージを見ることが出来た。昨今では珍しい光景だったかもしれないが、それだけに彼らの独自性を表しているような気がした。

MCは簡単な曲紹介がほとんどだったが、最後のほうだったか、掛け合いで客に叫ばせたときがあって、その最後のほうは多分母国語で、キーボーディストが笑いをこらえていたところを見ると、何か馬鹿げたことを言ってたのかもしれない。次のアルバムに入る予定だと紹介された新曲は、途中でちょっとアップテンポな展開が入るメタルっぽい曲で気に入った。会場の反応もよかったと思う。

汗をかくことはなかったけれど、心の襞のすみずみまで彼らの音楽がしみわたって、いいエネルギーが充電されたように感じたライヴだった。


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