![]()
開場前の列に並んでいるとき、近くのファンと話していたら、その方が大阪駅でメンバーと遭遇したときジョーがえらく機嫌が悪かった、というのを聞きました。チケットの売れ行きが悪いことに怒っていたらしいというので、今夜のショウはどうなるんだろうとちょっと不安になりました。
実際、梅田ヒートビートは開演近くになっても前3分の1くらいしか埋まっていません。ステージから見たらかなり寂しく見えることでしょう。「この際、タダでもいいから通りがかりの人を呼び込んでしまえばいいのに・・・」などと思っているうちに開演となってしまいました。
衣装は東京と同じで、ジョーは黒の皮パンツに黒Tシャツ、黒のレザーっぽい生地の長袖シャツ、それに先が四角くなった銀色(!)の靴。フィルは黒のベルベット風の縦縞パンツと黒のタンクトップ、トレヴァーはジーンズに白Tシャツ、黒のジャケット、ディックは胸にピンクの柄(ひょっとしたら Bowie? トレヴァーも東京で着ていた)が入った白地のTシャツにジーンズ。ウッディは黒のマーチャンTシャツでした。
先入観のせいか、最初に登場したときのジョーは険しい顔をしているように見えます。フィルの笑顔もいつもほどではないし。けれども曲が進むにつれ、それもだんだんとほぐれてきました。なんといってもこの日のジョーの声は絶好調。今までは途中で必ずモニターの音が聞こえなくなって自分のメロディラインを失ってしまい、耳を押さえる仕草が出ていたのですが、それが一度もありませんでした。
音響、ライティングとも、会場の規模と合っていたのか、とてもうまくいっていたように思えます。今まで毎回ものたりなく感じていた "Five Years" での声が重なる部分もエコーがうまく入っていましたし(そういえば名古屋ではファンがコーラスをつけていた)、オレンジ色の上からのライトに照らされて、逆光の中に輪郭だけが浮かび上がったジョーがマイクスタンドに向かう姿はとても印象的でした。
ディックのソロから入るドラマティックな "Time" も、きょうはまるで Bowie が乗り移ったかのように完璧な歌いっぷり。途中、片腕を上げてゆっくりと振る仕草はこの曲を最初にやった東京から続けていたのですが、東京、名古屋のファンはあまりやってあげていませんでした。が、さすがノリのいい大阪のファン、この日は大勢の腕が上がっていました。ステージから見る側としては、気分的に大きく違ってきますよね。このあたりからジョーの機嫌がすっかり直ってきたように思えます。その次の "Lady Grinning Soul" は毎回ハラハラしながら聴いていた曲なのですが、最終回とあって本人も気合を入れたのか(途中で下向きになったマイクをぐいっと戻すときのその勢いが半端じゃなかった)、いちばんの仕上がりでした。ディックのピアノとフィルのギターのかけあいも美しく、ピンクから赤に変わる照明も効果的でした。
ここでジョーが「May I?」と声を張り上げ、何事かと思って耳をすますと「take an opportunity to introduce Mr. Phil Collen!」と紹介しました。もう何度か見ているので、こうきたら "Moonage Daydream" が始まるとわかります。すぐに私を含め、周囲のファンはうっとり没入モードに・・・。
しかし、この日のこの曲はすごかった。フィルのギターソロは相変わらずの美しさなんですが、そこにさらにヘヴィネスが加わり(多分、バックとのハーモニーが完璧だったんだと思う)、グラム・ロックというよりHR/HMと呼ぶにふさわしい曲にと変貌していました。うっとりどころか唖然として聞き入るオーディエンス。フィルのソロの間はうしろに下がり、暗闇で自分のギターをかきならしているジョーも楽しくて仕方がないというふうに髪を振り乱し、体を揺らしています。終わったときにジョーがフィルに近寄って「The best of you! Mick would be proud of you!」と口走ったのは、まったくの素(す)でしたし、受けたフィルも「ほんと?」と実にうれしそうな顔をして、こちらもアマチュアバンドをやってるティーンエイジャーが誉められたかのような雰囲気。なんだか胸が熱くなってしまいました。
トリビュートものというと、金儲けが目的のおざなりなものが多くなっている昨今、これほどまでにミュージシャンシップにあふれ、トリビュートする相手に対する敬意を忘れない人たちは珍しいのじゃないかと思います。自分たち自身がすでにトリビュートされるほどの大物だというのに。
あまりにもドラマティックになりすぎた場をほぐすかのように軽快な "The Jean Genie" が入り、ジョーが 「Piano man again!」 と叫ぶと、ディッキーのソロが入って、私の大好きな、そしてジョー自身も名古屋で 「My favorite in this album」 と紹介していた "Life On Mars" が。この曲も今まではどうも音程が不安定になりがちで、途中で外すケースが多かったのですが、黄色い上からのライトの下で、両手でマイクスタンドを上下につかむお得意のポーズでの歌い出しから素晴らしいヴォーカルを聴かせてくれました。自分でもよほどうれしかったのか、エンディングの演奏部分では「ジャンジャンジャン」と口で合わせながら両手を激しく合わせ、最後にぐっとうしろに頭をそらせた姿勢で両手を高々と上げて「やったぜ!」という気持ちを表現していました。
ニコニコしたままギターを肩にかけ、フィルと向かい合うと、「ワン、トゥ、スリー、フォー!」 の掛け声とともに "The Man Who Sold The World" をスタート。最後の 「お〜お〜」 の部分もきれいにきまりました。
「俺が最初にこの曲を聞いたのはイギリスのTV番組 "Top Of The Pops" で、 ここにいるふたりの男がトップバンドの一員として演奏していたときなんだ」 というMCで始まったのが "Starman"。名古屋では 「この曲は多分、きみたち誰でもが知っているいちばん有名な曲」 というようなことを言っていました。私の感覚では Bowie の曲の中でいちばん有名、という気はしなかったのですが、あとから友人に聞いた話ですと、日本でいちばんヒットしたのはやはりこの曲なんだそうです。好きなこととなるとしっかり調べてあるんだなあと改めて感心。
なぜか最後にフィルのほうを見てうれしそうににっこりした(エンディングのタイミングがぴったりだったから?)あとで、ウッディの紹介があり、トレヴァーのベースで始まったのが "The Width Of A Circle"。この曲はフィルのギターとトレヴァーのベースのバトルもすごいのですが、なんといっても圧巻なのはウッディのドラムソロ。私はふだんはドラムソロやギターソロはあまり好きではないのですが、今回のウッディのソロは何度聞いてもあきず、そのたびにエキサイトしました。どこがどうなのかわからないのですが、とにかく音が気持ちいい。どんなに速くなっても決してそれだけではない何かがあるのです。しかもそれを細い体で苦もなく叩いて見せるのですから驚いてしまいます。
ドラムソロが終わると袖にひっこんでいたメンバーが戻ってきましたが、このときフィルは例によって上半身裸になっていますし、ディックはウッディに向かってひれ伏すようにお辞儀して 「おそれいりました」 の意を現しています。おかしな奴(^^)。
「俺たちがなぜここにいるのかを忘れちゃならないね。そもそもの始まりはミック・ロンソンのトリビュートだったんだ。で、これはもっともロンソンらしい曲だ」 と "Ziggy Stardust" が始まります。この曲も裏声がとてもよく出ていて秀逸な出来に。どうせレコーディングするなら今夜録音すればよかったのに・・・。
2日目の東京からセットに加わった "Panic In Detroit" は途中で入るディックの 「ア、ア、ア」 という掛け声がとてもエキセントリックでかっこいいステージ映えする曲です。が、あまりに楽しすぎたせいか、ジョーは途中で歌に入り損ね、横を見て苦笑、照れ隠しか、汗ふき用の黒タオルで首筋を乾布摩擦のようにこすってました。
本編最後はトレヴァーの紹介から入った "White Light White Heat" で、これもノリのいい曲なのでオーディエンスはみんな腕を振り上げながら踊りました。アンコール1曲目の "Rock N' Roll Suicide" は、横浜初日でおおいに泣かされた曲ですが、静かでありながら激しい、素晴らしい曲だと思います。その激しさの一端はウッディの重くてインパクトの強いバスドラの音のせいかもしれない、と最後になって気がつきました。"Suffragette City" でいったんメンバーは引っ込みます。このときにジョーが言っていた 「Hopefully we'll see you again one day」 という言葉は本当にぜひ実現してほしいと思います。今回1度きりなんてもったいなさすぎる。
再びステージに戻ってきたジョーは青い陶器のマグカップを掲げて 「カンパー イ!」。中身は当然サケです(^^;)。「ディックは今回が初めての来日だったん だけど、すごく気に入っちゃってね」 とジョーが話をふるとすかさずディックがマイクに向かって 「みんな愛してるよ!」。「だからもう家には帰らないんだって」(笑)。
「ここでちょっと時間をもらって、今回お世話になった人たちに感謝の意を表したい。Mr.Udo、そして担当のタックさん、それにレコード会社のタミー、彼は俺たちをブート屋に連れていってくれたり、いろんな翻訳をすべてやってくれ、俺たちが飲んだり食ったりした払いもしてくれたんだ(笑)。さらに今回素晴らしい仕事をしてくれた照明の**(日本人の名前だった)、うしろのほうにいるけど音響の**、そしてギターテクの**、最後にいつでも本当に俺たちを助けてくれている、今回はオープニングの紹介もやっていた、こんなにちっちゃい(と手で自分の胸のあたりの高さを示して)マルヴィン・モーティマーに感謝したい」「でも、それよりさらにフィルと(と言ってからトレヴァー、ウッディ、ディックの方に頭を下げて "Thank you,thank you,thank you" と言いながら)みんなにこんな機会を与えてくれたこと、そして子供の頃の夢を実現させてくれたことに感謝します」
「そしてもちろん、聴きにきてくれたみんなに」 と最後にオーディエンスに手をさしのべて拍手をしたジョーが観客から返る拍手の中でギターを肩にかけ、"All The Young Dudes" が始まりました。もちろん観客も一緒になってコーラスを歌い、腕を振り、感動のフィナーレとなりました。
去っていくジョーとフィルの後姿を目に焼き付けながら、「お願いだから4年後ではなく、もっと早くに DEF LEPPARD として戻ってきてね」 と祈ってしまった私ですが、今回の来日は、単なるお遊びとか暇つぶしの粋をはるかに超えた、ショウとして素晴らしいものだったと思います。また、今までは大きな会場ではるかに遠い存在だった彼らが、とても身近な、どこにでもいるような音楽好きの仲間のように見えたこともうれしい驚きでした。また、このプロジェクトで来日公演が実現することがあるなら、そのときにはぜひ、今回見逃した方たちにも足を運んでいただきたいです。
- Watch That Man
- Hang On To Yourself
- Changes
- The Superman
- Five Years
- Cracked Actor
- Time
- Lady Grinning Soul
- Moonage Daydream
- The Jean Genie
- Life On Mars
- The Man Who Sold The World
- Starman
- The Width Of A Circle (Include Ds solo)
- Ziggy Stardust
- Panic In Detroit
- White Light White Heat
- ENCORE 1 -
- Rock 'N' Roll Suicide
- Suffragette City
- ENCORE 2 -
- All The Young Dudes