Bryan Adams (March 6,1997, Budokan, Tokyo)
実はブライアンの単独公演を見るのは今回が初めて。たった1度見た東京ドームでのカウントダウンが、あまりいい印象ではなかったため、それ以来ずっと遠ざかっていた。いま思うと、運が悪かったとしか思えない。最初の2曲くらいはアップテンポのロックンロールで、楽しいことは楽しいけど「まあ、こんなものかなあ」なんて冷静に見ていた。が、最初のバラードが始まったとたんに、背筋がゾクゾクッとして、頭の中が真っ白に。
なんだ、このざわざわした気持ちは? あの声、あれが私の感情の起伏をつかさどる器官のどこかを激しく揺さぶるらしい。アップテンポの曲だと演奏に埋もれて気がつかないのだけれど、スローな曲でブライアンの声が表面に出てくると、もろにそれがぶつかってくる。うう、たまらない。
いったんハマるとあとは一直線。ステージはアップテンポを2曲くらいやってはバラード系というふうに、メリハリをつけて進んでいく。"(EVERYTHING I DO) I DO IT FOR YOU" のときには、とうとう感極まって泣いてしまった。
それにしてもステージの上の人たちって、バラエティに富んでる。ベーシストは半ズボンにソックスにベレー帽かぶってスケーター少年だし、ギターの人は髪型も服装もカレッジ系なのにパフォーマンスはHRギタリストみたいに派手。ステージを駆け回ってポーズを決めながらギターソロを弾くだけではたりず、例のお立ち台に駆け上がっていって、ファンの間を弾きながら通り過ぎていくというサービスまで。正面から見ていると大学生みたいなのに、後ろ向きになったとき、後頭部に???な部分が見えるのが、キャリアを感じさせる。
ドラマーは床に座ってるんじゃないかと思うほど低い位置で叩いてるし、キーボードは妙に軽い身のこなしで、プレイの合間に汗をふいたタオルをお立ち台のファンに投げたりしてる。パーカッションの人は、ひとり落ち着いたおじさまなのだけれど、それでもタンバリンを叩くときの腕のヒネリはただものではない。
そしてブライアン! 白いタンクトップにあずき色のジーンズは、ちょっと見にはランニングシャツに芋ジャーかと一瞬ギョッとしたけれど、よく見れば体形は昔のままにすらっとしていて18歳の若者のよう。遠目だからそう見えるのかと思ってたけど、後半近くに来たのを見たら、ビデオクリップや写真で見るよりもずっと若々しくてかっこよくて、思わず「きゃあ」と叫んでしまう私なのだった。
バックのメンバーとブライアンがとっても仲がよさそうなのが見てて気持ちいい。ベースの子は多分とっても若いと思うんだけど、そんな彼をブライアンが可愛がってるのがよくわかる。自分のマイクのところに呼び寄せて、一緒にコーラスをつけさせたのに、途中でわざとマイクを下に向けてしまうお茶目なブライアン。中腰になってマイクの下に顔を寄せ、必死に歌うベーシスト。
マイクと言えば、ブライアンのマイクの使い方、すご〜くかっこいいのね。スタンドごとつかんでステージの端まで行き、そこで横のほうの客席に向かって歌いかけたり、曲の最後にマイクスタンドを持ち上げてポーズをとったあと、それをステージにドンッと戻してキメるとこなんて「やったね!」と掛け声をかけたくなるほど素敵。
日本語も上手なのよねえ。人の名前はきちんと「さん」付けしてるし、ファンの声援には「サイコウ!」と答え、アンコール最後には「ドウモアリガトウゴザイマシタ」と丁寧な挨拶。英語のMCも日本人にわかりやすいように話してくれていて、ほんとにいい人なんだなあ、としみじみ感じ入ってしまった。途中、アリーナの最前端のほうで騒いでいる連中にスポットライトを当てさせて、「君、大阪から来た人だっけ? きょうは友達と来てるの?」なんて話しかけたりしてる。カナダの国旗を振ってる人とかもいて、そっちには「君、きのうはあっちの席だったでしょ」な〜んて。 ←もし本当だったらけっこう凄いことだわね(^^;)
そんな掛け合いの末に、なんと客席からファンを3人ステージに上げてしまった。最初は「だれか僕のギターを弾かない? それとも彼(キース)のでもいいよ。あと、ベースも、ドラムも」と呼びかけると、3人の男の子たちがステージ前に駆けていく。お、いいぞいいぞ。いい度胸してるじゃない。
それぞれにベース、ブライアンのギター、それにドラムをあてがって、「何を演奏したい?」と聞くブライアン。最初にギターの子に聞いたのだけれど、あがっちゃったのか英語が聞き取れなかったのか返事ができなかった。仕方がなく今度はベースの子に聞くと、「SOMEBODY!」と元気に答えた。すると、なんとほんとに"SOMEBODY"が始まってしまった。
これが、けっこうサマになっていたのでびっくり。途中で止まることもなく、ブライアンが歌うバックをしっかりつとめただけじゃなくて、コーラスまでつけている。さすがファンだねえ。ギターの子はどうやらキースのファンらしくて、弾きながらキースのほうに歩いていこうとするのを、ブライアンが後ろからTシャツをギューッと伸びるほど引っ張って自分のマイクのほうに引き寄せ、一緒に歌おうとする。可愛いっ!
ファンをステージに上げて楽器を弾かせたり歌わせたりする趣向はU2やSTING もやってたけど、ここまで徹底的にやらせちゃうのは初めて見た。それに、こうしてステージに上がっても平気で演奏できちゃうファンというのも凄い。日本人も国際化してきたんだなあ、なんて妙な感心をしてしまった。
ところで、今回初めてブライアンのライブに行って驚いたことのひとつは、ファンのマナーがすごくいいこと。手拍子も場をわきまえているし、複雑な拍子もちゃんと合わせてるし、バラードになるとみんな歌に耳を傾けていて、単調な手拍子をする人がひとりもいない。一緒に歌えるところはしっかり歌ってる。お互いにわかりあい、信頼で結ばれてるという感じがして、とても気持ちがよかった。
"SUMMER OF '69" のときだったかな、そんなファンを信じ切っているかのように、自分は歌わず、ファンの声を聞きながら一心にギターをかきならしているブライアンを見て、なんだか胸が熱くなってしまった。
私は1階の前のほうだったのだけど、開演前からすぐ目の下に四角いお立ち台のようなものがあるのが気になっていた。1時間くらいたったとき、そこにスタッフがばらばらと現われて何やら準備を始めた。え?ひょっとしてここに来るの? と思ってるうちに第一部が終わり、メンバーがひっこんだ。
そして、期待通り、客席の間を抜けてメンバーがその台に上がっていき、お互いの間が50センチくらいしか離れていないような密集したところで演奏が始まった。すぐそこに見えるブライアンは、ほんとうに若くてかっこいい!
みんなが勝手に好きな曲のイントロを弾くと、それに合わせてブライアンが歌い始める。エディ・コクランの古い歌だったりビートルズナンバーだったりとバラエティ豊か。ベーシストが始めたのが"COME TOGETHER" だったのはなんとなく納得しちゃったな。あのベースラインってかっこいいものね。
Bステージが始まったときに、天井から大きな人形が下がってきて踊るように動き始めた。下着姿の巨大なグラマーガール2人だ。これを見ただけで「あ、あれをやるんだな」とわかってしまうのだが、実際に、カヴァーのあとで"(I WANNA BE) YOUR UNDERWEAR"が始まった。人形の動きがリアル。歌自体は想像していたほどセクシーな印象はなくて、元気なロックンロールになっていた。やっぱりブライアンにセクシーとか色気とかは似合わない?
途中でブライアンがステージの上から客席を物色する。でもって、特に目立った動きをしていたと思われるミニスカートの女の子をまずステージに上げた。この子は凄かったなあ。なんかもうそれこそディスコのお立ち台と間違えてるのではないかと思うほどの踊りまくり状態で、メンバーもタジタジという感じ。キースなんて明らかに腰が引けてたように見えた。でも、この人選って"SHE'S ONLY HAPPY WHEN SHE'S DANCIN'" という歌にはぴったりだったのかも。
それにしても、メンバー全員があとからあとからステージから手を差し伸べてはファンを引っ張り上げるものだから、狭いステージの上は足の踏み場もないほどの人、人、人。ブライアンがどこにいるか見えない。そんな状態で第2部も終わり、また客席を通って引き上げていった。
そしてアンコール。最後の最後、キースの弾くギターだけを伴奏に歌うブライアンの声は、武道館の空間を突き抜けて、遠く宇宙の果てまでも私をつれていってくれるような、現実を完全に忘れさせてくれるような、そんな感動を与えてくれた。もう声も出ず微動だにせず聞き入る私。この瞬間が永遠に続いてほしい、そんな思いでいっぱいだった。
初めて体験したブライアンのライブ。驚きと感動と、そして何よりもロックンロールをからだいっぱいに吸収させてくれた2時間半。行ってよかった。生きててよかった。また絶対に行くぞ、と心に誓った夜でした。