ハイランド
観光局で各種あるツアーのパンフを集めて検討したのですが、いちばんの問題は戻りの時間でした。この日私は真夜中から始まる「The Dark」しか予定に入れていなかったのですが、友人はその前にもう1本映画の予定が入っていました。エディンバラに戻ってくるのがあまり遅いと間に合わない可能性があります。また、よしんば間に合ったとしても1日見て歩いたあとの疲れをとる間もなく映画では観ている間に寝てしまう恐れも。
というわけでエディンバラに午後8時前に戻ってくるツアーを探したのですが、私たちが行きたいと思っていたグレン・コーに行くツアーは必ずネス湖とセットになっていて、このネス湖がかなり遠いんですよね。ほとんどのツアーは朝8時くらいに出発して夜8時以降に戻ってくるものでした。唯一7:30戻りだった Highland Experience 主催の Monsters, Mountains and Massacres しか選択肢はありませんでした。
このツアーは小型バスで少人数で回るのが特徴で、ガイドはドライバーも兼ねています。マイクロバスは狭苦しくはありますが、いちばん後ろの席でもドライバー/ガイドに近いので、疑問に思ったことはその場で口に出して聞けますし、車高も低いから高いところから景色を眺めおろしているような感じにもなりませんでした。運転しながら運転席の上に貼ってある地図を指差しながら説明するのが時に(カーヴを走っているときなど)怖かったですが。

上のパンフの左から2番目の背の高い金髪女性が私たちのガイドでした。他の参加者は韓国、台湾、インド、スペイン、オーストラリア、イギリスと多様。コースは以下のようなものです。
Edinburgh - Forth Road Bridge - Perthshire Mountains - Monodhliath Mountains - Monarch of the Gien - Loch Ness - Spean Bridge - Ben Nevis - Glen Coe - Stirling - Edinburgh
走り始めてすぐにセント・アンドリュースの近くを通りました。ここはゴルフコースで有名ですが、ここの大学もスコットランドでは有名らしいです。ガイドさんが学生の頃(15年くらい前)にはお金のない学生には学費がすべて免除されたのだそうですが、現在ではローンとなり、卒業してから返す仕組みに変わっているとか。それでも返済額はその人の収入に応じた額でいいそうなのですごくリーズナブルだと思います。
またスチュワート・カレッジというプライベート・スクールの前を通ったときには、「ここはホグワーツ魔法学校のインスピレーションになったところだと言われています」という説明が。確かにそれっぽいクラシックな建物で素敵でした。(ハリー・ポッターファンのサイトを見ていたら Fettes College と書いてありました。写真を見ると同じみたい)
この近くにあるタイ川は鮭がとれることで知られています。スコットランドのレストランのメニューにはどこにも鮭料理がありますが、とても高いものとそうでもないものがあります。この違いはその鮭がどこでとられたかによるもので、安いのは北スコットランド産、高いのがタイ川産なんだそうです。どうして高いのかというとタイ川で鮭釣りをするには許可が必要で、そのために払うお金が1日につき500ポンド(約20万円)。そりゃ高い鮭になるわけですよね。
北スコットランドではほかに海老やロブスターもとれ、大きなタンクに生きたまま入れられてスペインに輸出されているそうです。
途中 Pitlochry でコーヒーブレイク(右写真の農家を改造したカフェで。このときに以前書いたおいしいベーコン・ロールを食べました)、ネス湖畔の Spean Bridge で昼食、どこだったか忘れましたがもう一度コーヒーブレイク(このときは手作りのショートブレッドを食べました。これも普通に売られているものよりしっとりしていておいしかった!)がありました。
車窓から見える風景はだいたいが写真のようなものでした。スコットランドの山々はほとんどが禿山です。ガイドさんの話によると、大昔にはもちろん山には木が生い茂り、森がたくさんある土地だったのですが、文明化の過程で薪にしたり建材として使うほか、ラクで簡単にお金になる牧羊のために木を切り落として牧草地にしてしまったからなのだそうです。その後は自然に木が生えることもなくなり、今私たちが目にしている木々はその後植林によって植えられたものなのだそうです。なので木の種類もスコットランド本来のものではありません。スコットランドに元々自生していた Scottland Pine と Caladonian Pine は今ではもう数えるほどしか残っていないそうです。
また、牧草地のそこかしこが薄紫色になっているのですが、これは heather(ヒース)の花。8月のこの時期にしか紫色にならないので、この時期に訪れて見ることができた私たちはとてもラッキーだと言われました。このヒースの花そのものも「Lucky Flower」と言われているのだそうです。また、この花から作られた fraoch というミード(ビールの一種)もあり、一部のパブで出されているそう。残念ながらエディンバラで入った店では見かけませんでした。
左の写真はタモン川だったかと思うのですが、向こう岸にお城のように豪華な館が見えます。この館はもともとお金持ちの一家が建てたものですが、建ててすぐに火事で焼け落ちてしまい、それを3年がかりで立て直して完成して一家が移り住んだその日にまた火事にあい、家族の誰かが焼死するというとんでもなく呪われた館だったんだそうです。今では別のお金持ちが買い取って住んでいるそうですが、狩りの季節には部屋をホテルとして貸すこともしているのだそう。もちろん宿泊料はかなりお高いようですけど。
ネス湖では1時間のクルーズを体験しました。これは別料金で自由参加ですが、半額ディスカウントだったので全員参加しました。船の中にはネス湖の底を探知機で移した画面などが見られるようになっていて、科学的裏づけを与えようという努力のあとが見えましたが、今回ネッシーの話がどんなふうに始まって伝えられてきたのかを聞いて「眉唾だなあ」と思いました。だって坊さんが使用人の漕ぐ小船でネス湖を渡っているときに怪物が現れ、「魔物よ去れ!」とかってガンダルフみたいなことを叫んだらいなくなったなんて・・・しかも目撃者の話は残っていなくて、本人の書いた日記だけなんですよ。信じられます、そんなの? その後の目撃談も信憑性の薄いものばかり。まあこれはガイドさんが話してくれたことなので、実はほかにも信用できる説があるのかもしれませんが。

でもまあクルーズは楽しかったです。この日はおおむね快晴だったのですが、クルーズの間はどんより曇っていて、途中で激しい雨が吹き付けたりしてなかなか雰囲気がよかった。最後にはくっきり晴れ上がってお昼は芝生に寝転んでとれるくらいでしたし。そうそう、船の中でネッシーがラベルについたビールを売ってました。飲んでみたかったけど眠くなってしまうと困るのでやめました。その後エディンバラの街ではまったく見かけなかったので、このあたりでだけ売られているビールなのかもしれません。
いちばんの楽しみだったグレン・コーは圧巻でした。映画「ハイランダー」や「ブレイヴハート」「ロブ・ロイ」の世界がまさにここです。360度どこを見ても(走ってきた道路以外)現代文明の跡はありません。緑と岩と石ころ。それに広〜い空だけです。私たちは車を降りて5分ほど写真を撮ったりそのへんを歩いただけですが、時間に余裕があったら遥か丘の上のほうまで歩いていきたかった。


グレン・コー(グレンはゲール語で valley)はスコットランドの歴史で有名な大虐殺があった場所です。このあたりに住んでいたマクドナルド一族が皆殺しになった経緯をガイドさんが説明してくれました。その際にスコットランド人でありながら英国軍の手先となってマクドナルド一族を裏切ったキャンベル一族は、今でもスコットランド人からよく思われていないんだそうです。そのへんの歴史にうとい日本人が聞くとハンバーガーと缶詰スープの戦いみたいですが。
ところでグレン・コーで撮影された「ハイランダー」(エディンバラを去る日、空港でDVDを買いました。特典でクリストファー・ランバートが延々とフランス語で喋ってます)は、最初のほうの戦闘シーン、コナーとヘザーが住んでいた塔と鍛冶場、それに最後のほうのコナーとブレンダが乗った車の上空を飛行機が飛んでいるシーン。崖の上のコナーとラミレスの戦いなど印象的なシーンはほとんどがスカイ島で撮られたようです。「ロブ・ロイ」のほうは最初のほうでロブ・ロイが牛泥棒をみつけるあたり。「ブレイブハート」は砦が火事になるシーンだそうです。 そういった映画の中に登場するスコットランドについて詳説している素晴らしい サイト がありますのでよかったら覗いてみてください。
そのサイトの説明によると「トレインスポッティング」でみんなが寂れた駅で降りて平原を歩くシーンがありましたが、あれはグレン・コーの北東にある Rannoch Moor で撮影されています。
グレン・コーのあとはエディンバラに向かっての帰路になるのですが、走っている間も天気がくるくる変わり、こっちは晴れているのに向こうに見える空は真っ黒な雲で覆われていたり、その逆だったりと劇的な変化を見せました。そのおかげで空一面の虹を見ることができたのは思いがけない幸運。
それともうひとつ、「サプライズがあるのよ」と連れていかれた牧場にはハイランド・カウが! これは高地にだけ生息する牛で寒さを防ぐためか体中に長い体毛が生えています。土産物屋でこの牛のぬいぐるみをよく見かけていたのですが、まさか本物を見られると思っていなかったのでうれしかった。 すごく愛嬌があって可愛いです。角にさわりさえしなければ撫でてもOK。毛皮はザラザラした触感でした。このハーミッシュ君は、もともとはイングランドにいたらしいのですが、狂牛病騒ぎのときに殺されそうになったのを救い出され、観光用としてこの牧場に飼われているのだそう。1匹だけだし食用にするわけじゃないからOKなんでしょうね。おかしかったのは「可愛いわねえ」などと言いながら眺めていたら、いきなり大量の便を垂れ流し始めたこと。みんないっせいに「うわあ!」と言って後ずさりました。
最後は「ブレイヴハート」のウィリアム・ウォレスが勝利したスターリングの戦いの地 Stirling を通りましたが、ここでは車は止まらず、近くを通り過ぎただけ。早くエディンバラに戻るツアーを選んだから仕方がないのですが、残念でした。車が運転できてレンタカーで回れるんだったらネス湖抜きで高地だけを回る旅をしてみたい。途中、そこここでハイキングしてね。
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