Running Edinburgh
( エディンバラばたばた )



エディンバラ国際映画祭


8月22日

映画祭事務局は石造りの古い建物の中にあり、ここでも映画を上映しているようです。1階はチケット売り場とインフォメーションになっていて、当日券を買おうとする人たちでごった返していましたが、チケットを予約したときのメールをプリントアウトして持っていったので、それを見せるとすぐにコンピュータでチェックし、発券してもらえました。

そこから徒歩20分くらいあるシネコン Cineworld まで歩きます。少し時間に余裕があったのでピザハットで昼食兼夕食。シネコンのわりには飲食店がほとんど入っていなくて選択肢がありませんでした。人口が少ないから開業してもやっていけないのかな。

店を出ると入口前の歩道にレッド・カーペットが敷かれていました。どうやらきょう上映される映画の俳優さんたちが来るみたいです。しばらく待っていると窓を黒くした車(リムジンではありませんでした)が次々に到着し、けっこうたくさんの俳優さんたちが現れました。待っているファン(100人くらい)から歓声が上がりますが、私の知らない人ばかりでした。みんな若くてまだ映画スターとしてのカリスマはなかったな。彼らが入ってしまってもカーペットはそのままで、プレスの人たちも残っていたのでカメラマンのひとりに「まだ誰か来るんですか?」と聞いてみたら、さっき入っていった人たちは「Serenity」のキャストで、このあと「Guy X」のキャストが来る予定だと教えてくれました。でも、もう映画が始まる時間だったので中に入ります。

「On A Clear Day」
ビリー・ボイドが出ているグラスゴーが舞台の映画です。もっとも脚本家のアレックス・ローズはウェールズ人、監督のギャビィ・デラルはイングランド人なんだそうですが。主演はピーター・ミュラン(トレインスポッティング、マイ・ネーム・イズ・ジョー)、その妻役にブレンダ・ブレシン(リバー・ランズ・スルー・イット、リトル・ヴォイス)で、ビリーはミュランの若い同僚です。

どこかに出ていた監督の話で「最初にエージェントが脚本を持ち込んだときには『英仏海峡を泳いで渡った男の話? いえ、けっこうよ。またにして』って感じだったんだけど、どうしてもと言われて読んでみたらとてもよかった」と言うように、話の大筋はありがちなんですが、それをつなげていくエピソードがどれもとてもリアルで温かみがあって、見終わったときに胸の底がほんわかしてくるような内容でした。ビリーの役もとてもいいです。日本だったらシネシャンテあたりの単館上映で大入り満員になりそうなタイプ。残念ながら今のところ日本の配給会社からのオファーはないそうですが。DVDにはなるかなあ。

ブレンダ・ブレシンはキーラ・ナイトレーの「プライドと偏見」(どうでもいいけど変な邦題。どうして「高慢と偏見」にしなかったのかなあ)でお母さんをやってますね。そのせいもあってエディンバラで見た地元TVのモーニングショーに登場してインタビューを受けていました。「On A Clear Day」「プライドと偏見」の両方からのシーンも流され、時の人という扱いでした。

映画が終わるとロビーで友人と合流。彼女はこの日に日本を発って着いたばかりです。

「Making of: On A Clear Day」
てっきりメイキング映画かと思って予約したのですが、さっきよりもう少し小さめの会場に移って待っていると、司会の女性とともに、さきほど映画の前に簡単な挨拶をした脚本家のアレックス・ローズ氏が現れ、話を始めました。ある程度したら映画に移るんだろうなと思っていたのですが、なかなか始まらず、そのうちに客席からの質問を受け始めるにいたってようやく、「そうか、こういうプログラムだったんだ」と気づいた鈍い私です。

でも、とても面白かった。ローズ氏はこれが最初のメジャーな作品だという若い脚本家で、彼と同様に若い女性監督と18ヶ月かけて脚本を練り上げたのだそうです。以前は俳優をやったり、映画会社で応募脚本を下読みする仕事などをしてキャリアを築いたという話などもしていました。

この映画はサンダンス・フィルム・フェスティバルのオープニングに選ばれ、アメリカの配給会社から声がかかったそうなのですが、その後その配給会社からのアドバイスによって何ヶ所か修正が加えられ、今回エディンバラで上映されたのはサンダンスのときとは少し違う内容だったようです。面白いのはアレックスがしごくあっさりと「サンダンスで上映したほうが funny だったんだよね」と言ってのけたこと。「どんなふうに funny だったんですか?」という質問には「ビリー・ボイドが出てくるコミカルなシーンがほとんどで、あまりにもイギリス的なユーモアだと思われたんだ」と答えていました。う〜ん、残念。DVD化するときにはぜひそれを入れてほしいな。

見にきているのが本当に映画好きな人や業界関係者だったせいか、質問の内容もとても深くて、答えるほうもユーモアをまじえながら率直になんでも話してくれて、すごく実のある内容でした。おざなりな質問ばかり出る大作映画のプロモ記者会見なんかとは比べ物になりません。でも、14時間の飛行の直後に、本編の映画も見ずにメイキングの話だけ聞かされた友人はかなり気の毒でした。

終わってから次の会場である Cameo まで移動。この映画はキアヌ・リーブスが出ているせいか友人がエディンバラ行きを決めたときには売り切れていたので見るのは私だけ。映画が始まるまで映画館前のイタリアン・レストランでアップルパイを食べながらつきあってもらいました。

「Thumsucker」
映画祭のサイトのインフォではキアヌ・リーブスの名前が目立っていたので彼が主演なのかと思っていましたが、実際には高校生の男の子が主人公で、キアヌは母親役のティルダ・スウィントンや父親役ヴィンセント・ドノフリオ、教師のヴィンス・ヴォーンといった脇役たちのひとりでした。変人の歯科医役で、彼が出てくるシーンはたいてい笑いをとってました。キアヌ自身もかなり楽しんで演じてたんじゃないかな。

映画はヒネリの効いた青春もので面白かったけど、日本に持ってくるとなると扱いが難しいかもしれない。カップル客を呼べるようなロマンティックな要素があまりないし、かといって「マトリックス」のキアヌで呼ぶわけにもいかないし。単館上映向きかなあ。そういう意味では今回エディンバラで見た映画のどれもそういう範疇でしたが。

映画が終わるともう12時近く。よれよれになりながらB&Bに帰り、鍵と格闘したのちに部屋にたどりついたのでした。


8月23日

この日は「Green Street」のガラ上映の日で、主演のイライジャほかキャスト、監督が舞台挨拶に来るというので会場前にはまたレッド・カーペットが敷かれていました。映画のチケットは翌日の分をとっていたのですが、見る予定の「Asylum」は1時間後の上映だったのでこの日のチケットをとった友人と一緒に見学しました。

上映が始まる40分くらい前に行ったのですが、さすがにその頃にはレッド・カーペットの周囲の柵には人垣ができていて、人の頭の間からかろうじて様子が見えるといった状況でした。300人くらいはいたのかなあ。

前日に目にした「Serenity」では30分くらい前に俳優さんたちが登場して15分くらい前には会場に入っていったのですが、この日はなんと15分くらい前になるまで現れず、みんなやきもきしながら待っていました。でもまああれだけの人が外にいて、挨拶をする俳優も来ていないのに上映を始めるわけもないけどね。

最初に登場したきれいな女性は出演女優かと思ったのですが、舞台挨拶を見た友人によるとなんと監督! びっくり。このときは気づかなかったのですが彼女の右にいるのがメイン・キャストのひとり、レオ・グレゴリーです。ほかの男優ふたりもいたはずなのですが見えませんでした。そして最後にイライジャが現れました。

イライジャは車を降りるなり、道路の反対側のファンのほうに向かっていき、握手をしたり話をしたりして、さすがプレミア慣れしているという雰囲気。それにしてもちっちゃい。黒のベルベットのスーツに白のシャツでまるで小公子のようでした。ちょぼちょぼ生やしたあご髭がなければ本当に少年。透き通るように白い肌にとびきり大きな青い目、お人形みたいです。

無理すれば人垣の隙間からサインをもらうことも出来たかもしれませんが、サインしてもらうものも持っていっていなかったし、本当のファンのチャンスを奪うのも失礼だと思って後ろのほうから写真だけ撮ってました。なので撮れた写真のほとんどは半分以上が人の頭(^_^;)。 いったん全員が中に入ってしまうと、ファンの人たちも今度は映画の入場待ちの列に並ぶためにいなくなりました。友人も中に入りました。「Asylum」までまだ1時間ほどあるので、そのあたりをぶらぶらしていたのですが、5分もたたないうちにイライジャだけが出てきて、プレスの群れのほうに向かい、少しの間インタビューなどを受けて、すぐまた中に入っていきました。さっきはファンサービスがメインでプレスサービスが足りなかったという苦情でも出たのでしょうか? あるいはプレスがずっとその場にいたということは最初からそういう予定だったのかもしれません。

そしてもう完全に映画が始まった頃にイライジャだけが出てきました。まだそのあたりで待っていた母親と一緒の少女ファン(どうやらその前にサインがもらえなくて泣きそうになっていたらしい)のところに行って一緒に写真を撮ると、待っていた車に乗って去っていきました。最初から最後までサービス精神旺盛、実にプロフェッショナルな態度でした。やはりこの映画祭にいらしていた日本人の方のLJで知ったのですが、この日エジンバラ市内でイライジャが立ち上げたレコード会社の所属バンドのライブがあったそうで、どうやらそれに行った模様。凄いスケジュールです。


「Asylum」
イアン・マッケランとマートン・ソーカスが出ているというので見たのですが、ちょっとびっくりな内容でした。なんというか暗くて暴力的な「チャタレイ夫人の恋人」という感じ。マートンがLOTRとも「キングダム・オブ・ヘブン」とも違うか〜なりワイルドでセクシーなイメージです。「燃えつきるまで」のメル・ギブソンみたいと思ってしまいました。

けっこうハードなシーンもあるのですが、相手役の女優ナターシャ・リチャードソンはなんとジョエリー・リチャードソン(「チャタレイ夫人の恋人」)のお姉さんなんですよねえ。子役は「バットマン・ビギンズ」でバットマンの子供の頃を演じている少年でした。

イアン・マッケランはもう見事としか言いようのない演技です。まるで生まれつきそういう人間だったようにしか見えず、あのガンダルフと同じ人とはとうてい思えません。(当たり前)



映画のあとに監督のデヴィッド・マッケンジーが出てきて1時間くらいトークとQ&Aがありました。前日のアレックス・ローズの場合とほぼ同じ内容だったのですが、あちらは別プログラムで有料、こちらは映画の一部で無料というのはどういうわけなのでしょう? 映画のメジャー度なのかしら?

帰る日の地元紙で読んだのですが、マッケンジー監督はこのあとティルダ・スウィントンを主役にヴェルヴェット・アンダーグラウンドの歌手ニコを題材にした映画を撮るようです。脚本は「ブレードランナー」のコンビらしい。これもけっこう暗くて激しいトーンのものになりそうですね。


8月24日

「Green Street」
イライジャ・ウッド主演のフーリガン映画。サッカーには詳しくないし、暴力的な映画は嫌いだしで、ちょっと見るのをためらっていたのですが、思ったほど暴力だらけではなく、出てくる若手俳優がいい役者ばかり(特にチャーリー・ハナムとレオ・グレゴリー)だったので意外に楽しめました。

フーリガンの話だからウェストハムのファンの人は見て気持ちがいいもんじゃないのでは、と思っていましたが、ウェストハムにマイナスイメージを与えるような部分はありませんでした。まあ、あったらスタジアムでの撮影とか許可されませんよね。応援歌なども出てくるのでウェストハム・サポーターである友人は心の中で歌ってたらしい。

ただどうも結末には腑に落ちないものがあります。イギリス映画って最後になんの解決もなくて哀しくて納得がいかないというのが特徴ですが(?)、これは英米合作のせいか、最後だけアメリカ映画的なオチを無理やりつけようとした感があり、そのせいなのかもしれません。


8月25日・26日

「The Dark」
上映が真夜中からという、いかにもホラー映画らしいプレミア上映でした。プレミアだからもしかしたらレッド・カーペットがあるかなと期待していたんですが、会場が Cameo だったという時点ですでにその可能性はなかったみたい。ここは Cineworld と違って小さな昔風の映画館で、映画館の前は車がぴゅんぴゅん走る一般道路ですから立地的にまず無理でした。

それでも映画が始まる前に出演俳優のひとりであるモーリス・ローヴが出てきて簡単な挨拶をしてくれました。彼はスコットランド人俳優なのだそうですが、映画ではばりばりのウェールズ訛りで喋っていて、スコットランドの人が見ると奇妙な感じだったようです。

私はふだんホラー映画は見ないのでかなりおっかなびっくりでした。とにかく血とか暴力とかゾンビとか悪魔とか苦手なのです。人が怖がらないようなシーンでも目をつむってしまうので、ショーンが出てくるところが怖かったらどうしようと危惧していました。が、ありがたいことにショーンが出てくるシーンには怖い要素がまったくなかった! 怖いことはマリア・ベロさんが一手に引き受けてくれてます。彼女、かっこいいですね。

とはいえ初日はかなりきつかった。私は予期せぬ大きな音も苦手で、たとえば街を歩いていていきなり大きな音がしたりすると本気で飛び上がるほうなのですが、この映画はそういう面がやたら多かった。なので見ている間何度も椅子の上で飛び上がり、手で顔を覆って指の隙間から見るような状態でした。

「The Dark」のプレスキットによると、ショーンも脚本の途中で夜読むにはあまりにも怖い箇所があったので、そのまま読み続けることができず、読み終えるのに時間がかかったのだそうです。どこかなあ。

ただ、さすがの私も2回目には話の筋がわかっていたし、どこで大きな音がするかもわかっていたので、冷静にしっかりと見られました。というより、どこでショーンが出てくるのかわかっていたので、一瞬でも見逃したくないと目を皿のようにしていたというほうが正確かも。

とにかくこの映画のショーンは掛け値なしにすてきでした。自然体の素のショーンを見ているような感じ。もっとも本物のショーンはあんなにお洒落なカジュアルウェアをふだん着ていたりはしないんだろうし、髪もあの長さは本人の好みではないとは思うけど。それでも、口数が少なく、それでいて愛情豊かな父親という役は彼そのものという気がしました。

上述のプレスキットにはショーン起用に関するプロデューサーの言も載っています。「ジェームズ(ショーンの役)は強く、それでいて物静かな男で娘のことを気にかけているんだ。この役にショーン・ビーンを得ることができて実に幸運だったよ。ショーンは女性に強い影響力を持っている。結婚したがるか父親になってほしいと願うかのどちらかでね。我々は考えうる限りで最高に優しくて愛すべき父親を必要としていた。そしてそれは、疑いようもなくショーン・ビーンだったんだ」

映画を見たあとで会場で会ったショーン・ファンの方たちとお茶をしたのですが、ひとりが「ああいうお父さんが欲しい」と言ったので「お父さんでいいの?」と聞くと「夫や恋人だと悲しい思いをする可能性があるけど父親なら一生私のものだもの」と答えてくれて、なるほどなあと思いました。それでも私は父親より恋人がいいな。私もあきっぽいタチなので一生じゃなくてもいいです。

正直言ってヒットする映画だとは思えません。いわゆるホラーファンにはまるで物足りないだろうし、そうでない普通の映画ファンは見にいかないだろうし。でもショーン・ファンにとっては天の恵みのような作品。DVDでショーンの出てくるシーン(つまり怖くないシーン)だけを繰り返してみるのが今から待ちきれない。特典もたくさんつけてほしいなあ。


8月28日

「Charlie and the Chocolate Factory」
これは映画祭の出品作品ではなく通常上映です。「ファンタスティック・フォー」とどっちにしようかと悩みましたが日本語字幕がなくても理解できるほうということで子供向きの映画を選びました。昼間の回だったので場内はほとんどが子供連れ。始まるまではかなりやかましくてどうしようかと思いましたが、始まってみたらみんな静かに見ていたので安心しました。

でも、映画の前のCMや予告にけっこう子供にはふさわしくないと思えるものもあってびっくり。前に聞いた話では上映する映画の観客層に合わせてCMの内容も変えるということだったんですが、あの程度までは許容範囲なのかしら?

映画はとっても楽しかった。ティム・バートンとジョニー・デップの組み合わせの「シザーハンズ」と比べると物足りないけど、子供向けのファンタジー映画としてはよく出来てると思う。私はチョコレート工場よりもチャーリー一家が住んでいる家の造形がすごく気に入りました。原作を読んでいないんですが、あの家族って原作でもあんな感じなんでしょうか?

エディンバラの路地