SHOH'S CD REVIEW

RADIOHEAD

OK COMPUTAR

1. AIRBAG
2. PARANOID ANDROID
3. SUBTERRANEAN HOMESICK ALIEN
4. EXIT MUSIC(FOR A FILM)
5. LET DOWN
6. KARMA POLICE
7. FITTER,HAPPIER
8. ELECTIONEERING
9. CLIMBING UP THE WALLS
10.NO SURPRISES
11.LUCKY
12.THE TOURIST

東芝EMI TOCP-50201/1997 JAPAN I PRODUCED by NIGEL GODRICH WITH RADIOHEAD

暗い自閉症的な少年が大人になったとき、そこがアメリカだったらマリリン・マンソンになり、イギリスだったらトム・ヨークになるのかもしれない、などということをと思う。

しかし、トムは、早熟で自閉症的なコドモでい続けることを拒否し、見事に脱皮した。

CREEP を一聴したときからガツン!とやられて、以来ひたすら愛し続けてきた RADIOHEAD ではあるけれど、正直言ってここまで大きくなるとは思わなかった。少年期に類い稀な才能の片鱗を見せた人間が往々にしてそうであるように、大人になるとともに普通の人になってしまうか、あるいは早逝してしまうか、ある限られた瞬間だけ輝いているような存在だと思っていた。

大はずれ。

なんと表現したらいいのだろう。音にスケール感が出たとか、そんな簡単なことじゃなくて、世界が広がったのだ。

この世界にどうしても溶けこめない、自分のまわりの壁に阻まれ、じっと座って暗い空を眺め、自分を呪い、他者からさしだされた手を拒む。そんな本質はいまだに痛いほど感じさせながら、そこになにかしら癒しのようなものを感じるのだ。

映画「ロミオ&ジュリエット」に使われた EXIT MUSIC から次の LET DOWN へと聴いていると、このままこの音楽に抱かれて空高く昇り、天国まで行ってしまいそうになる。現代の聖歌と言っても過言ではないだろう。

どれを聴いても同じような音ばかりのこの時代に、ここまで独自な音を作りあげてしまう頑固さって一体なんなんだろう。どの曲を聴いても、すぐに RADOHEAD だとわかる個性をもちながら、すべての曲が独自性を保っている。美しいメロディなのに攻撃的、激情をぶつけながらも心がシーンとしてくるような静けさをもつ。

アルバム全体がまるで宇宙の中のさまざまな世界を包含しているように思える。ひとつひとつの曲に、それぞれ別の世界があり、聴いているだけでその世界の中に自分がいることを実感するのだ。そして、その世界の核にはトムがいる。

7曲目の語りだけの曲など、そのへんのバンドがやったらアイディア倒れになるのがふつうで、2度目には飛ばされてしまう運命だろう。しかし、なんともいえないトリップ感を生むこの曲の次に猥雑なエネルギーを秘めた ELECTIONEERINGが続くことで、聴く者の魂は心地好く翻弄される。

トムのヴォーカルは深みを増した。透明な悲しみを感じさせるような裏声は健在だけど、さらにそこに力強い説得力が加わった。トムだけではない。これだけのアルバムが生まれたのは、メンバー全員の成長があったからだと言える。

ここで、ギターがこんな音を出すのか! ここでこんなリズムを繰り出すのか! すべての曲でこちらの予想を裏切るような展開が繰り広げられ、聴き手はただただ驚いて息をのむ。なんて才能の集まりなんだろう!
(97/05/27 20:46記)


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