6. Homeward Bound
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9月3日
飛行機は15:50発だし、とりあえず見るべきものは見てしまったので、急ぐことは何もない。ゆっくり起きて身支度をし、紅茶を飲んでいるとドアにノックがあった。「はい〜?」と開けるとバスタオルを抱えた女性が「あら、ちょっと早すぎたわね」と笑っている。「もう出るところですから」と言うと、「またあとから来ます」と言って立ち去った。時計を見ると10時15分前。もう出かけてもいい時間だわ。![]() エッグベネディクトはとてもおいしく、満足して店にあるゴシップ誌を読みながら紅茶を飲んでいると「やあ」と声をかけられた。見上げると髪をごく短く刈り上げた男性が笑いかけている。一瞬怪しい客引きかと身構えようとして、ホテルのマネージャーだったと気がついた。最初に会ったときはジャージ姿で起きぬけの眠そうな顔だったし、2度目は事務所のガラス越しだったから顔をよくわかっていなかったのだ。「おはようございます。お礼が遅くなっちゃったけど、スーツケースの件ではありがとうございました」「どういたしまして。今日帰るの? 飛行機は何時?」「15時50分」「ずいぶんあるじゃない。それまで荷物持って歩いてたら大変でしょう。よかったら預かるよ」「え、いいの? でも事務所は10時まででしょ?」「ああ、でも、このあたりにはいるし、ここの人間に言ってくれれば僕に連絡が来るようになってるから」「じゃあ、お言葉に甘えてお願いします」「いいよ。出るときにそこの隅に置いておけば、僕が持っていくからね」 なんて親切なんでしょう! 荷物のことを考えると買物も出来ないと思っていたのだが、すっかり元気になって外に出た。買おうかどうしようか迷ったマグカップを買いに Lambton Quay まで行く。きのう結局みつからなかったヴィゴと同じペンダントを探して、目につくアクセサリー店にも片っ端から入ってみる。翡翠を使った細工にはなかなか素敵なものが多かったが、どうも日本人には(というか私には)似合わないような気がして、結局何も買わなかった。 絵葉書を投函しようと思ったが、郵便ポストに見えるけど実はそうでなさそうなものが多く、確信を持って入れられるものがみつからない。最後にようやく「これは絶対に郵便ポストだ!」と思えるものがあったので思い切って入れてしまった。さてさて無事に届くだろうか。 ホテルに戻ると事務所は開いていてマネージャーがいた。「ずいぶん早かったね」「うん、なんだか落ち着かなくて」「で、ニュージーランドはどうだった?」「予想以上に素晴らしかったわ。人も景色も最高で。冬なのに寒くないし」「ここんとこお天気がよかったからね」「そう、会う人ごとにラッキーだって言われました」「日曜はどこまで行ってたの」「Featherston。そこに Lord of the Rings の Lothlorien を撮影したカントリーハウスがあるの。すごく素敵な庭があって、そこで撮影をしたのよ」「へえ、 Lord of the Rings の Lothlorien のファンなんだ」「そのために来たのよ(笑)」 買ってきたものをボストンバッグに無理矢理詰め込みながらとりとめもないお喋りをし、なんとか全部おさめ終わると「それじゃあ本当にありがとうございました。また次に来るときにもぜひ泊まりたいと思ってますのでよろしくね」と挨拶をして別れた。またぜひ泊まりたいというのは本心。The Duxton は1回泊まって中の様子を見られればそれでいい、という感じだったが、Fernside とこのアパートメント・ホテルには次もぜひお世話になりたい。 空港でもヴィゴと同じペンダントを探してアクセサリー・ショップや土産物店を物色したが結局みつからず。シドニーでの4時間のトランジットに備えてペーパーバックを1冊買い、搭乗までの時間に読んでいたら、ノートパソコンを持った女性に声をかけられた。観光局のアンケートだと言う。これがLAあたりだと詐欺かもしれないと警戒して断るのだが、ニュージーランドではそんな必要はないし、ちょうど時間をつぶしたいと思っていたところだったので喜んでOKした。質問の内容はかなり多岐に渡り詳細なもので、今回の旅行で使ったお金の額まで聞かれた。 航空運賃が10万だった、という話をしているときに、彼女の同僚らしい年配の女性が声をかけてきて、「どうやら日本ではそれが相場らしいわね。あそこの日本人もそう言ってたわ」と言う。私の相手をしている女性が「彼女はロード・オブ・ザ・リングのために来たんですって」と言うと、「あのカップルもよ」と言う。思わず苦笑してしまった。アンケートの中にも当然ながら「ロード・オブ・ザ・リング」に関するものがあり、観光局もこれからの観光資源としてかなり意識しているようだ。 くだんのカップルとはシドニーから日本までの飛行機で隣同士になったのだが、聞いてみると別に「ロード・オブ・ザ・リング」のためにニュージーランドに行ったわけではなく、映画は好きだったという程度らしい。「英語がよくわからなかったので適当にイエスって言ってただけなんです」と言われてびびってしまった。それって状況によってはかなり危険だと思うんだけど・・・。 そうそう。ひとつうっかりしていた。空港税が必要だってのをすっかり忘れ、ニュージーランドドルをギフトショップでほとんど使ってしまっていたのだ。出国審査のところまでいってから税金のレシートが航空券についていないことを発見され、もう一度逆戻りして支払い窓口へ。窓口の人はとても親切で、残っているニュージーランドドルを小銭にいたるまですべて受けとって、足りない分の4ドルといくらかをクレジットカード払いにしてくれた。 ![]() 機内ではグゥイネス・パルトロウ主演のスチュワーデス物ロマンティック・コメディを見て、あとはひたすら眠りこけていた。なにしろ成田に着くのが早朝だから、そのあと寝ないで夜までがんばらないと次の日に響くからね。機内食はペンネ・ボロネーゼとサラダ、チョコレートムース。これが行きとは比べ物にならないくらいまずくてがっかり。そうか、行きの分は日本で作ってるんだものね。結局、夕食、朝食とも味見だけしてほとんど残してしまった。旅行中の食べすぎで太り始めていたからちょうどいいんだけど。 最後にひとこと。ウェリントンで投函した絵葉書は5日後に無事、東京およびサンフランシスコに届いた。めでたしめでたし。 |