今回LAに行ったのは日本では来年まで公開されない「A History of Violence」と「Flightplan」を見るためでした。本当だったらもう少し後にして「North Country」も見るつもりだったのですが、駄目元で電話してみたヴィゴ参加の朗読会のチケットがとれてしまったので日程を早めました。 「A History of Violence」と「Flightplan」はたいていのシネコンで上映されていたのですが、上映時間がうまく噛み合わず、スケジュールを決めるのに苦労しましたし、滞在日数3日のわりには思っていたほどの回数見られませんでした。 以下、映画館別に感想を書いていきます。ネタバレはそれほどありませんが、私の主観がもろに出ていますので先入観をもちたくない方は避けたほうが無難です。また、あまりほめていません(むしろけなしているかも)ので、その点にもご注意ください。 Arclight Cinemas ![]() ![]() 音響はとにかくいいと噂を聞いていたのですが、「Flightplan」はデジタル上映だったので映像もすごくきれいでした。座席も段差があり、ゆったり座れます。面白かったのは上映前の諸注意(携帯電話とか上映中のお喋りとか)を放送ではなく係りの人がスクリーンの前に出てきて名前を名乗ったあとで客席に向かって話すこと。客席から声がかかるとそれに答えたりして、とても面白いです。でも、単なるアナウンスよりああいうふうに面と向かって話されると、それでもあえて注意を無視する人というのは少ないんじゃないでしょうか。 ![]() 「Flightplan」 ジョディ・フォスター主演のサスペンスです。飛行機の中で彼女扮する航空機エンジニアの娘が行方不明になり、なおかつ他の乗客の誰も娘が乗っていたことを覚えていないという状況。ショーンは機長の役です。ピーター・サーズガルドが刑事、ケイト・ビーハン(浅岡ルリ子にそっくり)がスチュワーデス役でからんできます。 初めのほうはちょっと不思議な雰囲気で映像もきれい、かなり期待させるのですが、話が進むにつれて「あれ? これってどうしてなんだっけ?」と思うことが多くなり、見終わったときには「なんかストーリーに穴があるような・・・」という納得できない気持ちが残ります。英語のセリフが完全に聞き取れないせいもあるのですが、アメリカ人の知り合いに聞いてみても同じような感想が返ってきました。脚本では完全に首尾一貫しているのに映画化で省略されてわかりにくくなったのか、最初から脚本に穴があるのか、どちらでしょう? いずれにしてもメイン・キャラクターであるジョディの役があまりにも自分勝手、暴力的でどうにもこうにも感情移入ができませんでした。 ![]() かなり期待していただけに残念でした。それでも3回は見たのですからファンって怖いですね(^_^;)。日本で公開されたら字幕付きだからあと1〜2回は見ると思います。機長のアナウンスがあったら5回はいけるのですが・・・。 「A History of Violence」 デヴィッド・クローネンバーグ監督ということでかなりビビっていたのですが、「裸のランチ」みたいなグロいシーンはありませんでした。人が殺される場面で、血や傷口の描き方、末期の苦しみなどはかなりリアルでしたが、あれは映画の趣旨から言っても当然のことで、気になりませんでした。あれがもし「キル・ビル」みたいに妙にビジュアル化されたものだったら腹が立ったと思います。 原作は劇画コミックなのですが、監督は脚本化されたものしか読んでおらず、俳優たちにも原作は読まないで撮影に臨むようにとリクエストしたそうです。原作を読んだ人の話では映画とはかなり違うという話でした。映画を見たあとでハリウッド大通りにある映画関係の店で2004年4月時点のスクリプトを買ったのですが、それにも実際の映画とは違う部分がいくつかありました。本来の脚本が100ページあったのを監督は70ページにまで短縮したとヴィゴがインタビューで言っていましたが、私が買ったものは82ページでしたから、ちょうど中間地点だったのかもしれません。(その後別のインタビューでクローネンバーグ自身が115ページあったものを撮影時点では80ページにしていた、と語っていますので、この脚本がほぼ最終稿だったようです。ということはここにある映画と違うチーンは撮影はされたけれど変更あるいはカットされたということになりますね) 映画としては実によくできています。無駄なカットが全くなく、コンパクトにまとまっていてテンポもとてもいいです。しかしながら内容はいまだに消化できていません。私の中でどう位置づけたらいいのかわからない、という感じ。 ラストシーンについても見た人の間で賛否両論あるようですが、私もよくわかりませんでした。あのまま何食わぬ顔をして以前と同じ生活に戻るというのが予想される結末ですが、どう考えたって以前と同じ気持ちに戻れるわけはなく、そんな恐ろしい日々を送っていたらまたいつか何かをきっかけにして暴力が生まれるのは必至です。人間なんてそんなものだよ、とクローネンバーグは言いたかったのでしょうか? ![]() 7時30分からの回を見たときはほぼ満席だったのですが、そのときの観客のマナーが気になりました。別にお喋りしたりするわけではないのですが、変なところで笑うのです。それも「くすっ」というようなものではなく「わっはっは」という爆笑。よくTVのバラエティ番組などで盛り上げのために録音しておいた笑い声を流したりしますが、あんな感じなのです。私の隣りに座ったおじさんもそのひとりで、ものすごく不愉快でした。 最初のうちは英語のセリフが完全に理解できていないから笑いのツボをつかみそこなったのかな、と思ったのですが、どうもそうじゃないみたい。英語圏の人の中でもその点について苦情を書いてMLにポストしている人がいました。アメリカ人の知人に聞いたところ、彼女が見たときにもそういう人がいて、その場面も実際にはまったく笑うようなシーンではなかったということです。彼女は、映画があまりにも人間の深い部分にある見たくない部分をさらけ出すような内容なので、不安で落ち着かない気分になり、それを解消するためにそういうシーンを笑ってごまかそうとしているんじゃないかと推測してくれました。なるほど、そうなのかもしれません。TVだと視聴者のそういう気分を先にくみとって笑いに変換したりしますからね。(右の写真は地元の Daily News 紙に載っていた映画の広告) 【10/27追記】帰国してから見たヴィゴのインタビュー動画の中で女性インタビュアーが「不適切な箇所で笑う観客がけっこういたように感じたのですが、どうしてだと思いますか?」と聞いたのに対してヴィゴは「Uncomfortable(落ち着かない、不安な、気まずい)だったからかもしれないし、違う視点から見ているからなのかもしれない。いずれにしてもそれはこの映画が単純に面白かった、つまらなかったですむ内容ではなく、見たあとになんらかの議論を呼び起こす内容だからだと思うし、それはつまりこれがいい映画だってことなんだ」というような答えを返していました。 Laemmle Sunset 5 ![]() ショッピングモールがあって、その周辺に少しだけ店がある一画で、階段を上がっていくと小さなカフェとヴァージン・メガストア、さらにそこからエスカレーターを上ると小さなシネコンがあります。チケット売場も上映開始15分前にならないと開きません。内部は昔の東京にあった名画座みたいな感じ。ヴァージンの本の品揃えなどかなりアート系・カルト系だったので、いわゆるカルチャーおたく向けの場所なのかもしれません。恵比寿ガーデンシネマみたいな感じ? エジンバラで見たキアヌ・リーヴス出演の「Thumsucker」もここで上映されていました。 ![]() 「Everything is Illuminated」 素直に「いい映画だなあ」と思える映画でした。他の2本が問題作(?)ばかりだったので、本当にほっとしました。イライジャはオタクっぽい(というか本物のオタク)コレクターで、集めているものというのが親族の遺品なのです。そして、そうしたコレクションをしていくうちに遺品が妙に少ない祖父の過去が気になりだし、ウクライナからのユダヤ人移民だった彼の過去を探る旅に出ます。 旅先で出会ったのはアメリカかぶれでマイケル・ジャクソンとダンスに夢中のガイドと、その祖父で自分は盲目だと思い込んでいるタクシー運転手の老人、それに彼の盲導犬がわりの犬。おかしな組み合わせの3人と1匹は文化の違いにとまどいながらもボロ自動車でのどかなウクライナの田舎を旅していきます。 のんびりしたペースで進んでいくのですが、すっとぼけた、時に荒っぽいユーモアと、過去の秘密を解いていくような謎解きの部分とがうまくミックスして、まったく退屈せずに見ていられます。哀しいのに笑えてしまう、残酷なのに美しい、そんな映画でした。日本に来てくれたら絶対にもう一度見たい。 監督のリーヴ・シュライバーは俳優さんで、ヴィゴとダイアン・レインが出ている「オーバー・ザ・レイン」でダイアンの夫役を演じています。この映画が初監督作品。ガイド役を演じているのはウクライナのミュージシャンだそうで、映画音楽を依頼されて監督と話しているうちに「どうせだったら演技もしてみないか」ということで出演の運びになったのだそう。とてもいい味を出しています。なんとなく「ストレンジャー・ザン・パラダイス」のジョン・ルーリーを思い出してしまいました。あんなにとんがってはいませんけど。 Universal City 18 ![]() ここでは「A History of Violence」と「Flightplan」を1回ずつ続けて見ました。翌週からはオーランドの「Elizabethtown」が上映されるので、妙に気合の入った予告が掲げられていました。 ちなみに機内で見たのは「シンデレラ・マン」「奥さまは魔女」「ファンタスティック・フォー」でした。 「シンデレラ・マン」 まったく興味がなかったのですが、見始めたらやめられなくなって最後まで見てしまいました。最初から結末が予想できるありがちな映画ですが、うまく出来ているので見ている間は退屈しませんし楽しめました。レニー・ゼルウィガーを初めて可憐だと思いました。 「奥さまは魔女」 元のTVシリーズを知ってる人には満足できない内容だと思います。ダーリン役の男優さんがまったく魅力がなくて、ニコール・キッドマンが気の毒でした。ストーリーも退屈で途中で寝てしまいました。 「ファンタスティック・フォー」 期待ほどではなかったかな。元々アメリカン・コミックというものに興味がないので、私向きではなかったのでしょう。悪役に迫力がないのでストーリーにしまりがなかったです。あの4人の存在に必然性を感じられなくて。それとヨアン・グリフィスの役ってちょっと間抜けじゃないですか(^_^;)? 手がうにゅーっと伸びるのってあんまりかっこよくない。まあ、元のコミックがそうなんでしょうから仕方がないですけど。 |