●天沢聖司にツッコミを入れる・第1節
Japanese only

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 やい、聖司君、キミはタテマエとホンネの差が大きすぎるぞ。大体、はじめからそうだった。偶然を装ったって、キミの思惑が渦巻いていたことはミエミエだ。本当に考えていたことを正直に吐きたまえ。
 

状 態


聖司のホンネ(推定)


実際の行動


最初の遭遇。

聖司、図書館で雫に気付く。
 

かわいい娘やなー。
むっちゃオレの好みじゃん。
名前、知りてーな。
 

彼女の名前を探るべく、図書カードをまさぐった。


図書カードの記録から、彼女の名前が月島雫であると分かる。


雫ちゃんゆうんか。ええ名前やないけ。ますます気に入ってもうたわ。

雫ちゃん、彼氏おるんかな。いやいや、中学生にもなってメルヘン童話読むくらいやから、ぜってぇ彼氏なんかいねーだろうな。

よっしゃ、この娘、オレがモノにしちゃろう。
 

彼女が読みそうな物語の本を片っ端から借りて、図書カードに自分の名前を書きまくった。

(既に雫が読んでしまった本は、もはや借りる意味がないんだろうな。キミにとっては。)
 

○月×日、晴れ。今日も図書館で雫ちゃんと出会う。


雫ちゃーん、オレに気付いてくれよー。

気付いてくれんか。…まぁ、最初はこんなもんだな。ちょっと時間がかかるかも知れんが、それだけオトしがいがあるってもんだぜ。待ってろよ、雫ちゃん。
 

図書館で何度もすれ違ってみたり、隣の席に座ってみたりした。

(だが、気付かれなかった。)
 

聖司よ、キミなりに懸命の努力だったんだろうが、ご苦労なこった。まぁ、結果的にゃ図書カード作戦は効いとったみたいやけど。

それにしても、おんどれ、借りた本ほんまに読んどったんか? カードに名前書いただけとちゃうんか?
 
 
 


状 態


聖司のホンネ(推定)


実際の行動


夏休みの学校。
聖司、校庭のベンチに座った雫を見かける。


あ、雫ちゃんだ。やっぱり、うちの学校やったんか。私服姿もかわいいな。

赤毛のアンみたいな女もおるぞ。確か、あの女は絹ちゃんの友達やったな。じゃあ、雫ちゃんも同じ学年か。ラッキー。声かけちゃろうかなといいつつ接近。

おっ、何かカントリーロードの替え歌を歌っとるぞ。
 

しかし、声はかけられなかった。

雫、夕子と去る。


あーあ、行っちゃった。声かけたかったのに。

せめて、雫ちゃんが座っていたベンチの感触でも楽しむとするか。
 

聖司、いそいそとベンチに座る。

聖司、落ちていた本を見つける。


おおーっ、本忘れてんじゃん。

何だこりゃ、このコンクリートロードの歌詞は。すっげー皮肉じゃん。社会派じゃん。ただの物語大好き少女じゃねえな。ますます気に入ったぜ。

まてよ。もうすぐ雫ちゃんはこの本を探しに戻って来るに違いない。どういう作戦でオレの印象を植え付けてくれようか。そうだ、偶然を装うことにしよう。つれなく振る舞っちゃろうか。でも、それで嫌われたらいやだな。

いやいや、あの娘には、「つれない作戦」が一番だろう。よし、この作戦に決めた。
 
 

本を読んでいるフリをして雫を待っていた。



「…その本…。」


やっと戻ってきたか。どこほっつき歩いとってん。

それにしても、雫ちゃん、かわいいな。ミニのワンピース…ううっ、好みだぜ。
(聖司は、ワンピースの意味が分かっていない。)

あーそうそう、「つれない作戦」で気をひかねば。
 

聖司
「あーこれあんたのか。ほらよ、月島雫。」



「名前、どうして…。」


しまった、名前を言ってしまった。どうしよう。オレが前から図書館で雫をつけ回していたことがバレてしまう。

いやいや、落ち着け。その本に図書カードがあったではないか。それを見たことにするんだ。
 

聖司
「さて、どうしてでしょう。」



「図書カード…。」


よっしゃあ、よくぞ言った。これで、オレはついさっきお前の名前を知ったことになったぞ。

それっ、オレの「つれない作戦第2弾」をくらえっ。
 

聖司
「おまえさぁ、コンクリートロードはやめた方がいいと思うよ。」
 


「読んだなー!!」
 

ふっふっふっ、決まったぜ。


聖司、さりげなく去る。


キミの作戦は、まんまと成功したようだ。おめでとう。
 
 
 

雫ちゃんが偶然地球屋にたどり着き、お昼になったあたりから。
 

状 態


聖司のホンネ(推定)


実際の行動



「おじいさん、また来ていいですかー。」

じいさん
「図書館は、左に行った方がいいよー。」


あーいい天気だぜ。こういう日は、雫ちゃんとデートしてえな。

しかし、ここんところ雫ちゃんのことばかり考えとるな。それで頭がいっぱいになって、昨夜は眠れんかった位やし。俺としたことが。やっぱ俺も健康的な男の子かな、なんちって。

さあ、今日もバイオリンの練習に励まねば。いつか雫ちゃんに聴かせてやるのだ。
 

聖司、自転車に乗って地球屋へ向かっていた。



「きゃー!!」
(聖司の自転車と接触しそうになって驚く。)


うわーっ、雫ちゃんだ!! 何でこんな所におんねん。何ちゅう偶然や。びっくり仰天した〜。

しかし、俺に気付きもせんと行っちゃったよ。あんなに急いで、どこへ行くんかいな。
 

聖司
「おじいさん、今の娘…。」


じいさん
「おお聖司、いい所に来た。
これを今出ていった女の子に届けておくれ。
図書館へ行くと行っていたから。」


でっけー弁当だなこりゃ。さしずめ、雫の親父さんへの届けもんだろう。ちゅーことは、俺のお義父さんは図書館勤めになるってか。カタそうなお義父さんは苦手だな。うまくやっていけるやろか。
おっと、こうしている場合やない。図書館へ急がんと。

げっ、ムーンめ、荷台に乗っていやがる。急ぐときに限って邪魔するとは、何ちゅうえげつない猫や。しばいちゃろか。

いやまてよ、雫ちゃんの目を引く小道具にはいいかもしれん。よっしゃムーン、そのまま乗っとれ。
 

聖司、自転車の荷台に猫を乗せて図書館へ急いだ。


聖司、図書館前で雫を発見。


お、いたいた。車にも気付かんと跳ね回って危ねえな。何かいいことあったんかいな。それにしても、昨日の学校といい、今日といい、たて続けに雫ちゃんに会えるとはツイてるぜ。このチャンスを生かさずにおこうものか。
 

聖司
「月島〜。月島雫!これお前のだろ。」



「あーっ!」


雫ちゃん、今日は一段とかわいいな。水平にかぶった麦わら帽子がサイコー。夢に出てきそうだぜ。

しかし、本を忘れ、また弁当を忘れるとは、本当に忘れっぽい娘だな。俺をちゃんと覚えていてくれとるかな。
 

聖司
「忘れっぽいんだな。」



「ありがとう。でも、どうして…。」


忘れんように、今日は一段とどぎつい「つれない作戦」を見舞って強烈に印象づけちゃらんとな。荷台には猫も乗っとるし、はよ気付きなはれ。
 

聖司
「さて、どうしてでしょう。」



「その猫、きみの?」


予定通り小道具に乗ってきたぞ。やっぱムーンを連れてきて良かったぜ。でも、ここはわざと話題をずらすのがコツさ。

うりうり、「つれない作戦バージョン2」をくらえっ。
 

聖司
「お前の弁当、ずいぶんでかいいのな。」
 


「違うっ!!」


よしよし、熱くなってきたぞ。
ムキになった雫ちゃんもまたかわいー。

ほれ、とどめの一発をかましちゃろう。
 

聖司
「♪コンクリートロード、どこまでも〜」
 


「違うのっ、こらーっ!!」
 

ふっふっふっ、決まったぜ。


聖司、意気揚々と去る。
 

その後、地球屋で。
じいさん
「聖司、ありがとよ。
ところで、カントリーロードなんて懐かしい曲を練習しているね。」
 

そろそろ次の作戦を考えているんだよじいさん。「つれない作戦」もこの辺で潮時やさかい。

雫ちゃんは、地球屋に出入りしてるみたいやし、そのうちまた来るに違いない。今度雫ちゃんが地球屋に来たら、中に連れ込んでバイオリンを聴かせてやるのだ。俺の華麗な弦さばきで、雫ちゃんをメロメロにしてくれるのだ。
あとは…。うひょひょ。\(^o^)/
 

聖司
「いや、ちょっと弾きたくなっただけさ。変な思惑なんかないってば。」


ムーンは雫ちゃんを地球屋に誘導したありがたい猫なのダ。感謝しときたまえ。

しかし、キミの作戦、ちょっと効きすぎやったぞ。おかげで雫ちゃん、図書館で大声張り上げて恥かいてしまったんじゃけん、罪な男やわ、ほんま。
 
 
 


状 態


聖司のホンネ(推定)


実際の行動


学校の昼休み。
聖司、渡り廊下で雫を発見。


あっ、雫ちゃんだ。
制服姿もかわいいな。
やっぱ、雫ちゃんはセーラー服だよな。
 

雫ちゃんに気付かないふりをした。


雫、ヤなやつ(聖司)に気付く。
突然、聖司の方に向かって歩き出す。

おっ、雫ちゃん、俺を意識しちょる、意識しちょる。俺の「つれない作戦」はばっちりと効いとったわけやな。
きりりと表情を引き締めちゃったりして、雫ちゃんも意外と気が強いな。
でも、悪いが雫ちゃん、今日は勘弁や。何せ、俺がイタリア留学を言い出してから、家族ともめてもめて。ちょっと疲れ気味なんよ。
せめて、キミの姿は目に焼き付けておくからさ。
 

聖司、無関心を装って、そのまま進んだ。


雫、聖司の後ろを歩く紳士に一礼をしてすれ違う。


「何よ、カンペキに無視してくれちゃって。」


雫ちゃんも、俺のことが気になっているようやな。こりゃ脈ありかも。
ああ、イタリア行きと雫ちゃん、両方を同時にゲット出来たらなあ。二つの目標を同時に手に入れるのは、やはり難しそうやし。
いやいや、確か「二兎を追わずんば二兎を得ず」っちゅうことわざがあったやないか。よっしゃ、俺は絶対両方とも手に入れて見せるぜ。待ってろよ、雫ちゃん。

それにしても、雫ちゃんのセーラー服姿、かわいかったな。
今夜は、眠るのがもったいない夜になりそうだぜ。
 

聖司、校舎内に消える。


聖司君、惚れた女の前でここまでつれなく出来るとは、ホント、いい根性してるよ。

(注:文中に出てきたことわざは、全くの出鱈目です。気になる方は、ことわざ辞典などで確認のほどを。)
 
 
 


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