武蔵野万葉散歩
(東歌一覧)

万葉集の中でも、とびきり率直で、東国の持ち味そのものが吹き出したような歌があります。
それぞれの国の風景をバックに、訛りそのまま、心の内が燃え上がります。

巻第14に、「東歌(あずまうた)」 と銘打って

 遠江・駿河・伊豆(静岡)、相模(神奈川)
武蔵(東京、埼玉、千葉・神奈川の一部)、上総・下総(千葉)、常陸(茨城)
(東海道に属した国)

信濃(長野)、上野(群馬)、下野(栃木)、陸奥(福島)
(東山道に属した国)

東国12国の歌、230首が集められています。その中から
武蔵野に関する歌
を抜き出して一覧とするものです。

万葉集巻第14 【東歌】


 [相模国の歌]

国歌大観番号 歌(訓み下し 岩波書店 日本古典文学大系 万葉集) 歌碑等所在地
3362

 

 相模嶺(さがむね)の小峯(おみね)見かくし忘れ来る
   妹が名呼びて吾(あ)を哭(ね)し泣くな
或本の歌に曰く、
 武蔵嶺(むざしね)の小峯(おみね)見かくし忘れ行く
   君が名かけて吾(あ)を哭(ね)し泣くる
埼玉県
吉田町

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東京都調布市にある布多天神社の絵馬

[武蔵国の歌]

国歌大観番号 歌(訓み下し 岩波書店 日本古典文学大系 万葉集) 歌碑等所在地
3373  多摩川に曝(さら)す手作(てづくり)さらさらに
   何(なに)そこの児(こ)のここだ愛(かな)しき
東京都
狛江市
調布市
3373  武蔵野(むざしの)に占(うら)へ肩焼(かた)き真実(まさて)にも
   告(の)らぬ君が名ト(うら)に出(で)にけり
埼玉県
川越市
3375  武蔵野の小岫(おぐき)が雉(きじし)立ち別れ
   去(い)にし宵より夫(せ)ろに逢はなふよ
 
3376  恋しけば袖も振らむを武蔵野の
   うけらが花の色に出(づ)なゆめ

或る本の歌に曰く、
 いかにして恋ひばか妹(いも)に武蔵野のうけらが花の
   色に出(で)ずあらむ
 
3377  武蔵野の草は諸向(もろむ)きかもかくも君がまにまに
   吾(あ)は寄(よ)りにしを
東京都府中市
3378  入間道(いりまぢ)の大家(おほや)が原のいはゐ蔓(つら)
   引かばぬるぬる吾(あ)にな絶えそね
埼玉県
坂戸市
3379  わが背子(せこ)を何(あ)どかも言はむ武蔵野(むざしの)
   うけらが花の時無きものを
 
3380  埼玉(さきたま)の津に居(を)る船の風を疾(いた)
   綱は絶ゆとも言(こと)な絶えそね
埼玉県
行田市
3381  夏麻引(なつそび)く宇奈比(うなひ)を指して飛ぶ鳥の
   到らむとそよ吾(あ)が下延(したは)へし
 

               右の九首は、武蔵国の歌

[下総国の歌]

国歌大観番号 歌(訓み下し 岩波書店 日本古典文学大系 万葉集) 歌碑等所在地
3349  葛飾(かづしか)の真間の浦廻(うらみ)を漕ぐ船の
   船人騒ぐ波立つらしも
千葉県市川市
3384   葛飾の真間の手児奈(てごな)をまことかも
     われに寄すとふ真間の手児奈を
千葉県
市川市
3385  葛飾の真間の手児奈が
   ありしかば真間の磯辺(おすひ)に波もとどろに
千葉県
市川市
3386  鳰鳥(にほどり)の葛飾早稲(わせ)を饗(にへ)すとも
   その愛(かな)しきを外(と)に立てめやも
埼玉県
三郷市
千葉県
流山市
3387  足の音せず行かむ駒もが
  葛飾の真間の継橋(つぎはし)やまず通はむ
千葉県市川市

tugihasi2.jpg (7125 バイト)
今も若い人が、次々と継橋を渡る。

[雑歌]

国歌大観番号 歌(訓み下し 岩波書店 日本古典文学大系 万葉集) 歌碑等所在地
3449  白たえの衣(ころも)の袖を麻久良我(まくらが)
   海女(あま)漕ぎ来(く)見ゆ波立つなゆめ
 

[相聞]

国歌大観番号 歌(訓み下し 岩波書店 日本古典文学大系 万葉集) 歌碑等所在地
3452  おもしろき野をばな焼きそ古草(ふるくさ)
   新草(にいくさ)まじり生(お)ひは生(お)ふるがに
3465  高麗錦(こまにしき)紐解き放(さ)けて寝(ぬ)るが上(へ)
  何(あ)ど為(せ)ろとかもあやに愛(かな)しき
埼玉県
日高市
3496  橘(たちばな)の古婆(こば)の放髪(はなり)が思ふらむ
   心愛(うつく)しいで吾(あれ)は行(い)かな
神奈川県
川崎市
3525  水くく野に鴨のはほのす児(こ)ろが上に
   言緒(ことを)ろ延(は)へていまだ寝なふも
埼玉県
皆野町
3531  妹をこそあひ見(み)に来しか眉引(まよびき)
   横山辺(へ)ろの鹿(しし)なす思(おも)へる
東京都
八王子市
3539  崩岸(あず)の上に駒をつなぎて危(あや)ほかと
   人妻児(ひとづまこ)ろを息(いき)にわがする
埼玉県
飯能市
3541  崩岸辺(あずへ)から駒の行(ゆ)ごのす危(あや)はとも
   人妻児(ひとづまこ)ろを目(ま)ゆかせらふも
3555  麻久良我(まくらが)の許我(こが)の渡りの韓楫(からかじ)
   音高(おとだか)しもな寝なへ児(こ)ゆえに
埼玉県
北川辺町
茨城県
古河市
3558  逢はずして行かば惜しけむ麻久良我(まくらが)
   許我(こが)漕ぐ舟に君も逢はぬかも
茨城県
古河市
3564  小菅(こすげ)ろの浦吹く風の何(あ)ど為為(すす)
   愛(かな)しけ児ろを思い過(すご)さむ

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