大空港 ★★★
(Airport)

1970 US
監督:ジョージ・シートン
出演:バート・ランカスター、ディーン・マーティン、ジャクリーン・ビセット、ジョージ・ケネディ

左:ジーン・セバーグ、中:ヘレン・ヘイズ、右:バート・ランカスター

原題が示す通り、「Airport」は、「Airport 1975」(1974)、「Airport '77」(1977)、「Airport '79」(1979)とともにシリーズ作であるとあちらでは見なされていることが多いようですが、日本ではそれぞれ「大空港」、「エアポート’75」、「エアポート’77/バミューダからの脱出」、「エアポート’80」のタイトルで公開され、「大空港」と他の3作が同一シリーズに属するとは昔は考えたことすらありませんでした。実際、作品の出来具合から考えても、「大空港」と他の3作を十羽一からげに扱うことはナンセンスでしょう。そもそも、後3者はブームに便乗したパニック映画であるのに対し、70年代のパニック映画ブームが始まる以前に公開された「大空港」は、確かにパニック要素は無きにしもあらずとはいえ、基本的にはヒューマンドラマの範疇に分類されるべきです。また、ヒューマンドラマといっても、決してパーソナルなものではなく、空港というパブリックな空間の中で発生する人間群像が描かれており、お茶の間ドラマの拡張バージョンのようなよくあるチンケな作品とは大きく異なります。「大空港」にパニック要素が含まれているとすれば、それは群像劇を描く為の1つの手段として利用されているのであり、他の3作のようにその逆では決してありません。たとえば、「大空港」では、爆破犯人(バン・ヘフリン)にさえ対応する人間ドラマがあり、また空港の支配人(バート・ランカスター)には、空港の支配人としてのみではなく、奥さん(ダナ・ウインター)との確執、アシスタント(ジーン・セバーグ)との関係など人間ドラマが多角的にハンドリングされており、陳腐な言い方をすれば、個々の様々な人間ドラマを通じて万華鏡のような人間模様が全体として展開されているのです。また、当作品で密航者を演じて二度目のオスカー(助演女優賞)を受賞するブロードウエイの大女優ヘレン・ヘイズがコミカルなタッチを加えており、ドラマがシリアスな方向に一方的に傾き過ぎないようにバランスが取られています。ディーン・マーティンが主演しているので、コミカルな部門は彼が担当するかと思いきや、舞台でならした名女優ヘレン・ヘイズが担当している点が興味をそそります。かくして、このような人間群像が空港というパブリックな空間を中心として繰り広げられ、以後ブームになる扇情的なパニック映画とは根本的にベクトルの向かう方向が違います。パニック映画のように扇情的で強烈なインパクトをオーディエンスに与えることに主眼が置かれていない為に、たとえば同様に空港に舞台が設定された「予期せぬ出来事」(1963)にややその兆候が見られたように、このようなグランドホテル形式はともするとストーリーの焦点がぼけて散漫になることがありますが、「大空港」はパニック要素を接着剤としてうまく利用し、個々のドラマを纏めあげる手法が効果的に機能しており、この手の作品の中では最も良く出来た作品の1つであると評せます。また、「大空港」は一夜の内に発生する一連の出来事を描いているのに加え、冒頭とラストを除くと全て夜間であり、散漫になりがちなプロット構成が、凝縮された雰囲気を持つ統一感のある群像ドラマへと見事にまとめあげられています。

ついでながら、他の3作について簡単にコメントしておきます。「エアポート’75」は、それ以後の2作と比較すればまだ出来は良い方であるとはいえ、いずれにしてもパニック映画ブームに便乗して製作された「one of them」の作品である印象は避けられません。但し、パイロットを失った飛行機が低空を飛行するシーンは極めてビューティフルで、目を惹きます。というより、褒められるのはそのくらいのものです。些細な点ですが、主演のチャールトン・ヘストンはジェットヘリから旅客機に乗り移りますが、ジェットヘリとはいえ、ジェット旅客機と同じ速度で飛行可能なのかという疑問が湧きます。「エアポート’77/バミューダからの脱出」は、ますますゲテモノ度が増し、カリブ海に沈んだ飛行機からいかに乗客を救出できるかというプロットが展開され、そもそもなぜ飛行機でなければならないのかが疑問になります。船に関しては既に「ポセイドン・アドベンチャー」(1972)があったということでしょうか。「エアポート’75」と「エアポート’77/バミューダからの脱出」には、内容的には場末のキワモノ興行的な側面がありますが、配役によりその点がカバーされていて、主演がそれぞれ大スターのチャールトン・ヘストンとジャック・レモンである他にも、前者にはグロリア・スワンソン、マーナ・ロイ等、後者にはジェームズ・スチュワート、オリビア・デ・ハビランド、ジョセフ・コットン等のいにしえの大スターが出演し、いわば今にもはがれそうなペラペラな金メッキが貼り付けられています。「エアポート’80」になるとキワモノである以前に、そもそも陳腐化傾向がマックスになり、このシリーズがそれ以後製作されていない理由が一目瞭然になるほどのお粗末な作品です。「大空港」を含めた4作全てにジョージ・ケネディが出演しており、前3作で作業員や救助隊長などの下積みの経験を積んだ後、「エアポート’80」では晴れて念願のパイロットの座を射止めます。そうしてみると、ひょっとしてこのシリーズは「ジョージ・ケネディ物語」なのかもしれません。最後に付け加えておくと、最近あちらではこれら4作全てがバンドルされたDVDプロダクトが、なななななんと!21ドル程度で発売されました。国内では「大空港」のみが4000円近くで販売されていることを考えてみると、映像特典がないことを考慮しても、そんな値段で商売して大丈夫なのかとこちらが心配したくなるほどの驚くべき安さです。DVDの画質は、「エアポート’77」は素晴らしく、「大空港」と「エアポート’75」はDVDとしては平均レベル、なぜか一番新しい「エアポート’80」はDVDとしてはがっかりというところです。ひょっとすると、「エアポート’80」は比較的新しい作品であるが故に、リストア等の作業がされていないということでしょうか。Universalからの発売で、残念ながらリージョンコードは1であり、国内の通常のDVDプレイヤーでは再生できません。


2004/02/28 by 雷小僧
(2008/11/12 revised by Hiroshi Iruma)
ホーム:http://www.asahi-net.or.jp/~hj7h-tkhs/jap_actress.htm
メール::hj7h-tkhs@asahi-net.or.jp