暦と星


佐藤和美


 1.暦

 「こよみ」とは、「日読み」(かよみ)である。


 2.太陰暦

 暦は太陰暦から始まった。太陰とは(天体の)月のことである。月は新月から新月まで、満月から満月までを、約29.5日でくりかえす。29日と30日の平均は29.5日だから、29日と30日の(暦の)月を交互にくりかえせば、太陰暦になる。太陰暦の1年は354日である。(29×6+30×6=354)

 新月を朔(さく)、満月を望(ぼう)というので、新月から新月まで、満月から満月までの周期を朔望月という。朔望月は約29.5日だが、正確には29.530589日である。太陰暦は朔望月に合わせようとしてつくられた暦である。このことからわかることだが、日と月齢がほぼ一致する。一日の夜は新月、三日の夜は三日月、十五日の夜は満月というぐあいにである。新月を朔というが、逆に朔を「ついたち」と訓読するようにもなった。十五夜が満月なのは、太陰暦ならあたりまえのことなのである。

 なおイスラム教では宗教に関しては今でも太陰暦を使用している。


 3.太陰太陽暦

 太陰暦は季節とのずれが激しいので、それを調整するために生まれたのが、太陰太陽暦である。季節とのずれを調整するために、19年に7回閏月を入れるのである。19年に7回閏月入れると、19×12+7で235朔望月となる。これは6939.6884日である。19太陽年は6936.28018日なので、両者の値ははぼ一致する。
 この方法はギリシア・中国で知られていたが、ギリシアでは紀元前433年にメトンによって発見されたので、メトン周期と呼ばれている。

 日本の旧暦は太陰太陽暦である。


 4.太陽暦

 太陰暦から縁を切ったのが、太陽暦である。(その痕跡は暦の月という言葉に残っているが)季節がずれないことに重点をおいて、朔望月は無視している。

 エジプトではナイル川の氾濫の時季を知るために、太陽暦を発明した。シリウスの周期により、一年を365.25日とした。平年を365日とし、4年に一度の閏年を366日とするのである。


 5.ユリウス暦

 エジプトを征服したユリウス・カエサル(英語ではジュリアス・シーザー)は、エジプトの暦をローマに持ち帰り、ローマの暦を改良した。この暦はユリウス暦と呼ばれている。


 6.グレゴリオ暦

 ユリウス暦は、16世紀になると誤差がつもり、春分の日が3月11日になってしまった。これを改良したのが、当時のローマ法王グレゴリオ十三世である。春分の日を3月21日とし、閏年をユリウス暦より400年で3日少なくした。1年を365.2425日としたのである。

 閏年は次のように決める。西暦年数が4で割り切れる年は、原則として閏年とする。ただし4で割り切れても100で割り切れれば、平年とする。ただし100で割り切れても400で割り切れれば、閏年とするのである。

 日本では明治6年(1873年)からグレゴリオ暦が使用されている。明治5年12月2日の次の日が、明治6年1月1日となった。


 7.月の語源

 現在の暦(グレゴリオ暦)はローマの暦をひきつぐものである。ローマの最古の暦は1年が10ヶ月で304日というひどいものだった。その後2ヶ月を加えた1年12ヶ月355日の暦がつくられた。その後もユリウス・カエサル等により改良が加えられていった。

 次の表は、ローマの暦の月の名の変遷である。左から右へ、かわっていった。

月 の 名
Martius Martius Januarius Januarius
Aprilis Aprilis Februarius Februarius
Maius Maius Martius Martius
Junius Junius Aprilis Aprilis
Quintilis Quintilis Maius Maius
Sextilis Sextilis Junius Junius
September September Quintilis Julius
October October Sextilis Augustus
November November September September
10 December December October October
11   Januarius November November
12   Februarius December December


 現在では、Septemberは9月だが、その意味は「七月」である。これは古い暦を知らなければ、その本当の意味がわからない。古くはMartius(英語ではMarch)が1月だったのだから、Septemberは本当に「七月」だったのである。

 Octoberは「八月」の意味だが、octoを使った単語には、octopusオクトパス(八本の足=タコ)、octaveオクターヴ(八度)等がある。

 Decemberは「十月」だが、ボッカチオの『デカメロン』は『十日物語』で、デシリットルはリットルの1/10である。

ローマ(ラテン語) イギリス(英語)
スペル 発音 意味 スペル 発音
Martius マルティウス マルス(軍神)の月 March マーチ
Aprilis アプリリス アプロディテ(愛の女神)の月 April エイプリル
Maius マイウス マイア(豊穣の女神)の月 May メイ
Junius ユニウス ユノ(女主神)の月 June ジューン
Quintilis クィンティリス 五月    
Sextilis セクスティリス 六月    
September セプテンベル 七月 September セプテンバー
October オクトベル 八月 October オクトーバー
November ノウェンベル 九月 November ノーヴェンバー
December デケンベル 十月 December ディセンバー
Januarius ヤヌアリウス ヤヌス(二つの顔の神)の月 January ジャニュアリー
Februarius フェブルアリウス フェブルウス(贖罪の神)の月 February フェブルアリー
Julius ユリウス ユリウス・カエサル July ジュライ
Augustus アウグストゥス アウグストゥス(ローマ初代皇帝) August オーガスト

 ユリウス・カエサルは自分の誕生月であったQuintilisを、Juliusにかえた。

 ユリウス・カエサルの甥で養子でもあったオクタウィアヌスは、アクティウムの海戦でアントニウスとクレオパトラを破り、エジプトを滅ぼした。そしてその後初代ローマ皇帝Augustusアウグストゥスとなった。そしてユリウス・カエサルのまねをして、SextilisをAugustusにかえた。(理由はユリウス・カエサルと違って、戦勝記念だったようだが。)その時、Sextilisは小の月だったので、Augustusは大の月とした。

 古くはFebruariusが年末の月だったから、閏日はこの月についた。Augustusが大の月になったため、ますますそのしわよせがFebruariusにいった。平年は28日という短さになってしまった。


 8.陰陽五行説

 中国の占いは全て陰陽五行説が基になっている。たとえば易は陰と陽の六の組合せで占おうとするものであり、2=64とおりある。「太陰」、「太陽」というのも、陰陽五行説の考えによっている。

 五行とは、木(もく)、火(か)、土(ど)、金(ごん)、水(すい)である。五行はいろいろなものに対応する。下の表のようにである。五行とそれに対応するそれぞれのものは、相生、相克の関係にあり、そのことによって占いをする。

五行
五方 中央 西
五色
五時 土用
五神 青竜 朱雀 黄竜 白虎 玄武

 人生の時期を表す青春、朱夏、白秋、玄冬は陰陽五行説によっている。「木」は色は「青」、季節は「春」に対応している。すなわち「青春」である。

 天には肉眼で見える五つの惑星がある。辰星(しんせい)、太白(たいはく)、螢惑(けいわく)、歳星(さいせい)、填星(てんせい)である。これらの惑星にも五行のそれぞれがわりふられた。赤い星螢惑は火星、宵の明星、明けの明星と呼ばれる白い星太白は金星、というぐあいにである。このようにして五惑星は辰星が水星、太白が金星、螢惑が火星、歳星が木星、填星が土星と名づけられた。

 惑星が五つであるということは、陰陽五行説の有力な根拠となった。そして五惑星の観測が積極的にすすめられたのだった。


 9.曜日の順番

 太陽系モデルには地球中心説と太陽中心説の二つがある。地球中心説はプトレマイオスに代表されるいわゆる天動説、太陽中心説はコペルニクスに代表されるいわゆる地動説である。

地球中心モデルの惑星の順番
土星 木星 火星 太陽 金星 水星 地球

太陽中心モデルの惑星の順番
土星 木星 火星 地球 金星 水星 太陽
           

 曜日の順番が決まったのは、地球中心モデルの時代であった。

1日は24時間である。それぞれの時間をそれぞれが支配しているとして、地球から遠い順に時間にあてはめていってみよう。0時は土星、1時は木星、2時は火星、3時は太陽、4時は金星、5時は水星、6時は月となる。7時以降はそれをくりかえす。そうすると23時は火星になる。次の日の0時は火星の次の太陽から、同じことをくりかえす。それが次の表である。

星の時間支配
    00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23
第1日目
第2日目
第3日目
第4日目
第5日目
第6日目
第7日目

 その日を最終的に支配するのは、その日の最初の時間つまり0時を支配している星である。順番は土星、太陽、月、火星、水星、木星、金星となる。これが曜日の順番になった。

 西暦元年の1月1日は土曜日である。これを起点として、現在の曜日も決まっているのである。(厳密には途中でギャップがある。このことに関しては「calであそぶ」を参照のこと。)

   西暦元年 1月
 S  M Tu  W Th  F  S
                   1
 2  3  4  5  6  7  8
 9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

 10.曜日の語源

 英語のSunday、Mondayはそれぞれ太陽の日、(天体の)月の日の意味である。その他の曜日の名は神の名による。

曜日 神名
火曜日 Tuesday Tiw ティウ
水曜日 Wednesday Woden ウォーデン
木曜日 Thursday Thor トール
金曜日 Friday Freija フレイヤ
土曜日 Saturday Saturn サターン


 11.神々

 今までみてきたように、(暦の)月の名、曜日の名は神の名であることが多い。

 ギリシアとローマは同じインド・ヨーロッパ語族に属する上に、ローマは独自の神話をほとんどもたなかった。そのためギリシアから神話を輸入し、ギリシアの神にローマの神をあてはめていった。それではギリシアとローマの神名の対応をみてみよう。

ギリシア ローマ イギリス
Hermes ヘルメス Mercurius メルクリウス Mercury マーキュリー
Aphrodite アプロディテ Venus ウェヌス Venus ヴィーナス
Ares アレス Mars マルス Mars マーズ
Zeus ゼウス Jupiter ユピテル Jupiter ジュピター
Kronos クロノス Saturnus サトゥルヌス Saturn サターン

 ローマの戦いの神はマルスMarsである。この神は3月Marchと火星Marsにその名を残している。北欧神話の戦いの神はティウTiwである。そのため英語では、火曜日をティウの名をとって、Tuesdayという。

 アングロ・サクソン人(アングル人とサクソン人)はゲルマン民族の一派である。(ちなみにアングルズランド(アングル人の国)がなまって、イングランドになった。)神話は当然ゲルマン神話、すなわち北欧神話である。英語の曜日名の一部はギリシア・ローマ神話から北欧神話へ翻訳されていたのである。

 金星は愛と美の女神ヴィーナスなので、それに対応する北欧神話のフレイヤFreijaが金曜日に当てられ、Fridayとなっている。

 リヒャルト・ワーグナーは楽劇「ニーベルングの指輪」で北欧神話を題材にしたが、この作品に登場したウォータンという神が北欧神話の主神である。そしてこのウォータンがWednesdayの語源になっているウォーデンWoden(またはオーディンOdin)なのである。ウォーデンは本来なら木曜日にその名を残さなければならなかったのだが、どいいう手違いからか水曜日に名を残すことになってしまった。

 ギリシア神話の主神はゼウスだが、ローマ神話でこれに対応するのはユピテル(英語ではジュピター)である。ユピテルは木星であり、木曜日はユピテルの日である。木星は太陽系最大の惑星であり、その最大輝度は他の惑星を圧倒する。ゼウス・ユピテルの名にふさわしい星である。北欧神話の主神であるウォーデンは木曜日にその名を残さなければならなかったのだが、ローマ人の勘違いで水曜日に名を残すことになってしまった。ローマ人はウォーデンに対応する神はメルクリウス(英語ではマーキュリー)だと考えたようである。メルクリウスは水星であり、水曜日はメルクリウスの日である。そのため水曜日がWednesdayとなったのである。
 メルクリウスは商人の神でもある。水星(メルクルウス)は太陽に近いためすばやく動いている。そのすばやい動きが商人を連想させ、メルクリウスは商人の神となり、merchant(商人)の語源にもなったのである。ちなみにシェイクスピアの「ヴェニスの商人」の原題は「The merchant of Venice」である。

 それでは木曜日はどうなったのだろうか。木曜日にはトールThorの名があたえられている。すなわちThursdayである。トールは北欧神話でも主役級の神で、ウォーデンの長男である。ローマ神話のユピテルに対応するギリシア神話の神はゼウスである。ゼウスは雷神でもあり、トールもまた雷神であった。ユピテルの日はトールの日となった。

 サトゥルヌス(英語ではサターン)は土星で、土曜日はサトゥルヌスの日である。これは英語でもローマ神話のままに、サターンの日Saturdayとして残っている。なおサトゥルヌスはギリシア神話ではクロノスに対応する。

 ユノ(英語ではジュノ)はユピテルの妻である。6月Juneはユノの月である。

 ウェヌス(英語ではヴィーナス)は金星である。宵の明星、明けの明星と呼ばれる美しい星がウェヌスなのもうなずける。ウェヌスはギリシア神話のアプロディテに対応する。4月Aprilはアプロディテの月である。


 12.1月1日

 ユダヤ教では生後1週間後に割礼を行う。ユダヤ教では割礼は神々との契約を意味する大切な儀式なのである。現在の1月1日はナザレのイエスが割礼を行ったとされる日である。イエスが生まれたのは1月1日の1週間前12月25日ということになる。つまりクリスマスである。


 13.二十四節気(にじゅうしせっき)

 二十四節気は1年を太陽の黄経を24等分したものに日付をわりふったものである。

 春分から90度づつ後にそれぞれ夏至、秋分、冬至があり、それを等分するように、春分の45度後から90度づつ後にそれぞれ立夏、立秋、立冬と続く。さらに細かく15度づつに名称があたえられている。

名称 黄経 およその日付
立春 315度 2月4日
雨水 330度 2月19日
啓蟄 345度 3月6日
春分 0度 3月21日
清明 15度 4月5日
穀雨 30度 4月20日
立夏 45度 5月6日
小満 60度 5月21日
芒種 75度 6月6日
夏至 90度 6月21日
小暑 105度 7月7日
大暑 120度 7月23日
立秋 135度 8月8日
処暑 150度 8月23日
白露 165度 9月8日
秋分 180度 9月23日
寒露 195度 10月8日
霜降 210度 10月23日
立冬 225度 11月7日
小雪 240度 11月22日
大雪 255度 12月7日
冬至 270度 12月22日
小寒 285度 1月5日
大寒 300度 1月20日

 地球の自転軸は黄道面に対して約23.5度傾いている。このため地球には季節が生じた。北緯約23.5度を北回帰線、南緯約23.5度を南回帰線という。北緯約66.5度(90-23.5)以上を北極圏、南緯約66.5度以上を南極圏という。北極圏、南極圏は白夜の世界である。

 地球は太陽からエネルギーを受けているが、その量によって温度が直接決まるわけではない。北半球が太陽から最も多くエネルギーを受けるのは夏至で、最も少ないのは冬至である。しかし暑さ、寒さもそれより少しずれてピークがくる。これは地球の大気と海洋がクッションとして作用しているからである。四季をどのようにわけるかは、二つの立場がある。一つは温度でわける立場、もう一つは光量でわける立場である。二十四節気は後者の立場に属するものである。


 14.二十八宿(にじゅうはちしゅく)

 月が地球を一周するのに要する日数は、太陽との相対的位置での朔望月は29.530589日だが、恒星との相対的位置での恒星月は27.321662日である。

 中国では恒星月を28日とし、1日ごとに名をつけた。これが二十八宿である。宿(しゅく)の中でなじみぶかいものに参(さん)と昴(ぼう)がある。参はオリオン座の三つ星のあたりであり、昴はすばる=プレヤデスのあたりである。なおこのことから昴の訓読が「すばる」になった。


 15.干支

 陰陽五行説の五行(木、火、土、金、水)を兄弟(えと)にわけると、十干(じっかん)ができる。(兄は陽、弟は陰に対応していて、陰陽説とも関連している。)

五行 十干 漢字
きのえ
きのと
ひのえ
ひのと
つちのえ
つちのと
かのえ
かのと
みずのえ
みずのと

 十干と十二支を組合わせると干支ができる。丙(ひのえ)と午(うま)を組合わせて丙午(ひのえうま)というぐあいにである。それを年ごとにわりあてたのが、暦で使われた。10と12の組合わせは120だが、干支では存在しない組合わせもあり、実際の組合わせの数は10と12の最小公倍数である60になる。60歳で生まれたときと同じ干支になるのを還暦という。

 672年は壬申(みずのえさる)の年だったので、大海人皇子(後の天武天皇)のクーデターを壬申の乱という。

 1592年(壬辰(みずのえたつ)の年)の秀吉の朝鮮出兵(文禄の役)を、朝鮮側では壬辰倭乱(じんしんわらん)と呼んでいる。

 1868年(明治元年)は戊辰(つちのえたつ)の年だったので、明治維新の戦いを戊辰戦争という。

 1911年(辛亥(かのとい)の年)、中国で起こった孫文による革命を、辛亥(しんがい)革命という。

 甲子園は大正13年(甲子(きのえね)の年)にできた。

 このように歴史的事件等を干支であらわしているのである。


参考資料
永田久『暦と占いの科学』新潮社・新潮選書
呉茂一『ギリシア神話』新潮社
トンヌラ、ロート、ギラン『ゲルマン、ケルトの神話』みすず書房

(1991・12・17)

(注)
 『calであそぶ』でも、『暦と星』とは別の視点で暦をあつかっているので、参考のこと。

Copyright(C) 1991,1998 Satou Kazumi

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