今週のコラム                                 大西赤人/小説と評論

「大食い・早食い」番組の中止と『筋肉番付』の打ち切り──メディア規制法に反対するのはいいけれど、テレビ各局は自分たちの作っている番組の“意味”をもう少し認識すべきである

                                

大西 赤人       



 僕が「年末年始のテレビで目立ったものが二つ。一つは、いわゆる『大食い』番組。出場者は真剣なのだろうけれども、好きになれないなあ」と書いたのは、今年第一回の本欄だった。ちょうどその頃、実は、こんな出来事が起きていたことが、4月末になって明らかになった。

「愛知県尾西市の市立第一中学校(吉川優校長、生徒849人)で、今年1月、給食の時間に3年(当時2年)の男子生徒(14)が、同級生とパンの早食い競争をしてのどに詰まらせて意識不明の重体となり、生徒は今月24日に死亡したことが、27日分かった。競争した同級生は『テレビ番組をまねた』と話している。

 事故があったのは1月15日の給食時間で、女子生徒を含む給食グループ(6人)のうち、亡くなった生徒と別の男子生徒2人の計3人が、担任教師に気付かれないように、目で合図して、給食の早食い競争を始めた。生徒はミニロールパン(直径約5センチ)を一気に飲み込み、続いてサラダを食べ、牛乳を飲んだところで苦しみ始めた。廊下の手洗い場で吐き出そうとしたが、意識を失ったという。

 担任教師が気付き、生徒は救急車で病院に運ばれたが、既に心肺停止状態だったという。生徒は心臓マッサージで呼吸を始めたが、窒息による低酸素脳症で意識不明の重体が続き、24日、急性心不全で死亡した。(略)」(4月27日付『毎日新聞)

 尾西市教育長の「テレビ番組の影響があったとすれば、判断力が十分に備わっていない生徒たちに対する影響を考えてほしい」という談話も載っているが、この事件が報じられたことから、早速、「大食い・早食い」番組への逆風が起き、次のようなニュースが報じられている。

「テレビ東京の菅谷定彦社長は23日の会見で、愛知県の男子中学生(14)が早食い競争で死亡した事故を受け、7月11日に早食いを取り上げる予定だった人気番組『TVチャンピオン』の内容を別のものに変更し、“早食い・大食い番組”をしばらく自粛することを明らかにした。
 番組は7月4日に米ニューヨークで開かれるホットドッグ早食い世界大会を特集する予定だった。
 菅谷社長は『(早食い・大食い番組の)再開は未定だが、再開するなら丁寧な対応を考えないといけない』と語った」(5月23日付『毎日新聞』)

 これについては、「視聴率も高く、昨年、同コンテストを放送した『TVチャンピオン』の視聴率は14.3%(ビデオリサーチ、関東地区調べ)。見送りは苦渋の選択だった」(5月24日付『夕刊フジ』)との報道もあった。平行して、静岡県焼津市の「焼津さかなセンター祭」で予定されていた「鉄火丼の早食いコンテスト」や、兵庫県明石市の市民イベントで予定されていた「明石焼きなどの大食い選手権」の中止も伝えられている。

 いかにも、何かが起こったら止める――本質を見据える・見極めるのではなく、まずとりあえず回避する――という日本的な光景だと思う。そりゃあ、早食い・大食いも当人にしてみれば大変なチャレンジかもしれないけれど、そんなものハッキリ言って、人間にとって特別の価値のある事――少なくともテレビを通じて大騒ぎするような事――でないのは最初から判りきっているじゃないか。それが、ここであえて冷ややかに表せば、一人の無考えな中学生の死によって、初めて再検討され、アッという間に「自粛」へとつながる。それなら、金属バットによる殺人事件が起きたら、高校野球の中継は止めるのか? もしも『罪と罰』を読んで影響されて人を殺した人間が出たら、本は絶版にしてしまうのか?

 こちらは死には至らなかったものの、今月5日に2名の参加者が重傷を負ったTBSテレビのスポーツバラエティー番組『筋肉番付』についても早々に打ち切りが決まった。この番組は、プロ・スポーツ選手が技を争う点などでは幾分の深みがあったものの、一般参加者が過酷な種目で限界まで体力を競う有様には、以前から『大丈夫なのかな? もし怪我でもしたら、保険とかチャンと備わっているのかな?』と思わせるところがあった。テレビ各局、メディア規制法などに反対するのはいいけれど、何かトラブルが起きる前に、自分たちの作っている番組の“意味”をもう少し認識すべきではあるまいか。
(2002.5.28)


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