●第二幕:メイドロイド● |
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周りに群がるジャワ族を軽くいなしながら、砂地の上に立つドロイド達をオレは物色した。
ふと、妙に落ちつかなげな様子の緑色の髪のドロイドが目に止まる。
その様子に悪戯心を刺激されたオレは、わざと渋い表情を浮かべてそのドロイドに声を掛けた。
「お前は儀礼用か?」
「ぎ、儀礼ですか? えっと、専門というわけではないですけど、精一杯頑張ります!」
「いや、頑張ってもらってもここでは儀礼なんて意味ないけどな」
「え? それは、えっ?」
人を食った返答にドロイドは目を白黒させる。
ちょっと意地悪だったかな?
「水分凝結機のバイナリ語は分かるか?」
助け船を出すつもりで俺は言った。
「バイナリ語ですか? 確かここら辺に…」
そう言って抱えていた鞄をごそごそと探り出す。
鞄の中に、ちらりと「やさしい銀河標準語」といった学生向けの教科書が見えた。おいおい。
「荷物運搬機をプログラムしましたが−」
不意に、横合いから抑揚に乏しい声が掛けられた。
「それとほぼ同じです」
「ボッチ語はできるか?」
オレは声を掛けてきたオレンジ色の髪のドロイドに尋ねた。
「はい、サテライトシステムを使用する事により、およそ2万語に対応する事が可能です」
「よし、これをくれ。…来いよ」
言って、オレは家の方へときびすを返した。
と、数歩も歩かぬ内に、背中越しに何かがはじけるような音が聞こえてくる。
嫌な予感を感じつつ振り返ってみると、あにはからんや、先に購入を決めておいたドロイドが煙を吹いてエンコしている。
「だますつもりか?」
「そ、そんな事ありません!」
オレのクレームに、接客係のジャワスが素っ頓狂な声を上げて弁解する。
「ちょっと待ってて下さいね。すぐに同等品を…」
「おい、危ないぞ」
言ったが遅かった。
前も見ずにドロイドの方に走っていったジャワスは、コーン、と小気味の良い音を立てて、目の前にいたドロイドと正面衝突していた。
「はうぅー」
「痛ぅっー」
異口同音にジャワスとドロイドが悲鳴を上げる。良く見てみると、ジャワスがぶつかった相手はさっきオレが意地悪をした緑色の髪のドロイドだった。
「あ、あの私を…」
「あ、これなら…」
ジャワスとドロイドは、同時に立ち直り、同時に動こうとして、同時に再衝突した。
「はわわ〜」
「きゃああ」
勢い良く転倒し、砂の上でもつれ合ってじたばたする二人。
「…よろしいでしょうか」
オレの隣に待機していたオレンジ色の髪のドロイドが声を掛けてきた。
「あの緑色の髪のドロイドは程度も最高でお買い得ですよ」
「……本気?」
「はい」
言い切られてしまった。結局、オレは緑色の髪のドロイドを買う事にした。
オレンジ色の髪のドロイドの言う事を信じたのではなく、ジャワスと二人してじたばた転げているドロイドの様子を見ている内に放っておけないような気分になってしまったからだ。