弾圧された女性医療家たち エーレンライク&イングリシュ「魔女・産婆・看護婦」他

 近年では医学部に入学する女性がかなり増えてきたが、依然として医師は、男の職業という性格が強い。これに対して看護職は、圧倒的に女性の職業である。医師が治療し、看護婦が世話をする。医師が上司であり、看護婦は部下である。収入も社会的評価も、医師の方がはるかに高い。
 両者の関係は、男性と女性の間の不平等の典型例であり、縮図である。そればかりではなく、医師が評価の高い男性向けの職業となっていることが、医療のあり方に歪みをもたらしている疑いもある。男が地位と権力を手に入れる手段として、医療が利用されている可能性があるからだ。
 B・エーレンライク、D・イングリシュ著「魔女・産婆・看護婦」(法政大学出版局・二二六六円)は、医療のこうした仕組みが形成された背景を、中世の魔女狩りにまでさかのぼって論じたもの。
 魔女とみなされて処刑された女性たちの多くは、経験から蓄積した技術をもって民衆を治療した女性医療家や、出産の手助けをした産婆だった。彼女らへの弾圧を画策したのは、支配階級に仕える男性医師たちである。弾圧は成功し、男性医師たちは権限を独占し、高い地位を得た。
 医療から追放された女性たちは、後に看護婦という形で再び医療へと組み込まれていく。しかし彼女たちの役割は、「医師には絶対的服従という妻の務めを捧げ、患者には母の無私の献身を捧げ」ることだった。その反面、看護という役割を免除された医師は、格上げされたのである。
 原著が出版されたのは、一九七三年。ウーマンリブ運動の初期にその活動家によって書かれた本書は、一気に読ませる熱っぽさをもっている。訳文も大変読みやすい。
 大和岩雄著「魔女はなぜ空を飛ぶか」(大和書房・二〇〇〇円)によると、魔女が空を飛ぶのに使うほうきは、男根を意味すると同時に、産婆の象徴でもあるのだそうだ。引用の多い切り貼りのような本だが、一三〇枚も収められた図版が楽しい。

(1996.3月配信)

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