階級社会としての日本社会

(『現代日本の階層構造1・社会階層の構造と過程』東京大学出版会 所収)

橋本健二(Kenji Hashimoto,静岡大学教養部助教授)
1.階級論的アプローチ
2.階級概念の操作化と各階級の特性
3.階級構成の変化と階級所属の決定要因
4.要約----階級構造の変動過程と階級所属の決定



1.階級論的アプローチ

 「階級」とは多義的な概念である。階級は、異なる理論的立場から異なる定義を受け取る一方で、しばしば上層階級・下層階級というように「階層」と互換的に使われる。とくに、階級(class) という語自体がもともとありふれた日常用語である欧米諸国では、この傾向が強い。
 これに対して日本では、階級という語はマルクス主義社会理論との関連で理解されることが多かった。本稿もこの立場を採用する。すなわち、階級とはマルクス主義社会理論という特定の理論的立場から定義される特殊な階層概念である。この理論の特質は、社会の基底的構造を生産諸関係に求める点にある。階級という概念は、この理論の特質と構成的な関係にある。すなわち、階級とは生産諸関係内で占める位置を共有する諸主体の集群なのである。社会にはそこに存在する生産諸関係に対応した諸階級が存在する。そして、階級は社会諸現象の分析の基本的な単位を構成する。
 このように、階級はマルクス主義社会理論にとって中心的な位置を占めている。しかし階層研究、とくに職業階層の量的構成とその動態を計量的・実証的に明らかにするという意味での階層研究に対応する階級研究というものは、これまで十分に行われてこなかったといってよい1)。本稿で私が行うのは、このような研究のための基礎的作業である。2.ではまず、分業概念を手がかりに職業と階級の関係を明らかにし、これまでの階層研究とここでいう階級研究の関係を明らかにする。3.では、計量的な研究の前提として階級概念の操作化の方法を確定し、これにもとづいて各階級の特性を概観する。4.では、階級間移動の構造と階級所属の決定要因の変化に注目して、この30年間の階級構成の変動過程にアプローチする。

1.2 階級研究と階層研究

 これまでの階層研究の大部分は、階層区分の基準を職業に求めてきた。したがって、ここでいう階級研究と階層研究の関係を考える際に問題となるのは、職業と階級の関係である。そして、この問題を検討することにより、ここでいう階級研究に不可欠な、階級概念の操作化の方法も明らかとなる。
 手がかりとなるのは、分業の概念である。K.マルクス(1868)以来、マルクス主義社会理論では社会的分業と経営内分業という二種類の分業が区別されてきた。社会的分業とは、社会的生産の、さまざまな産業部門および下位部門への分割を指し、商品交換を媒介に成立する。経営内分業とは個々の経営体内部の労働者への作業の分割を指し、資本家あるいは資本家から権限を委譲された人々の計画・指揮によって成立する。職業とは個人の作業内容に言及するものであるから、さしあたっては、経営内分業における位置を示す概念であると考えることができる。しかし、経営内分業の形態や分業の各段階の作業内容は産業部門によって異なるから、職業は社会的分業とも関連している。こうして、全体社会の職業構成は、社会的分業と経営内分業の両者の形態によって決定されることになる。
 一方、階級と分業は次のように関連する。各産業部門には、事業を営むために必要な最小限の資本量が存在する。この量は産業自体の性格や技術水準、国家の産業政策によって決定され、産業分野によって異なる。最小限の資本量が小さい産業分野では資本主義的生産関係の浸透が遅れ、単純商品生産と呼ばれる一種の前資本主義的生産関係が長期にわたって残存する。こうして、社会的分業の中の特定の部分は、単純商品生産によって決定される階級である旧中間階級に担われる傾向が強くなる。農業や商業、一部の労働集約的な製造業がこれにあたり、これらに従事する人々の職業は農業、販売などに著しく偏る。こうして、階級は社会的分業を媒介として結果的に職業と交差することになる。
 第二に、階級は経営内分業とも関連している。資本主義的生産関係は、所有権や企業組織内の地位にもとづいて生産手段への統制力2)を持つ資本家階級と、生産手段への統制力を持たない労働者階級の2つの階級を決定する。しかし、工場制機械工業の発展は、この両者の中間に位置する人々を生みだし、拡大させてきた。それは、資本家から統制力の一部を委譲されて労働過程の組織・統制に部分的に関与したり、機械装置全体の管理や研究開発に従事する人々である。彼らは職業の上では管理職・事務職、専門職にあたる。彼らの職務は二重の性格を持つ。発達した経営内分業は、経済体制の違いに関わらず、共同の事務の遂行や管理機能、技術的な労働を担う労働者群を含む。しかし、資本主義的生産関係においては、こうした経営内分業が剰余価値の極大化あるいは安定化という資本家階級の動機にむけて変形・強化される。こうして彼らの労働は、技術的な意味での経営内分業の一部であるとともに、剰余価値生産のための事務・管理、労働過程の効率的編成といった資本の機能となる。この意味で、彼らは資本家階級と労働者階級の中間に位置するのである。本稿では、彼らを新中間層と呼ぶことにする3)。ここにおいては、経営内分業と生産関係が連接化している。こうして、階級は経営内分業を媒介として職業と関連する。
 このように職業とは、分業内の位置によって決定され、分業と生産関係の交差・連接を介して階級と関連するカテゴリーである。
 ここから示唆されるのは次の点である。(1) 分業は近代以降のすべての社会に見られる。したがって、職業カテゴリーはこれらすべての社会に対して適用可能である。このことは、階層研究が歴史的・国際的な比較研究に適していることを意味する。これに対して、階級カテゴリーは経済体制によって異なるから、階級研究は異なる経済体制を直接に比較する研究には向かない。(2) 逆に言うと、階層研究は特定社会の階層構造を近代以降の社会すべてに共通の図式によって理解するものであり、この階層構造を歴史的な形態規定性において解明するものではない。これに対して、階級研究は資本主義社会の階層構造を、その歴史的な、すなわち資本主義的な形態規定性のもとにおいて解明するのに適している。(3) 一方、職業構成や各職業の性格は、分業の発展とともに変化する。したがって階級研究の側からは、階級構造とその動態の細部を理解するための手段として階層研究を活用することができる。このように、職業を階層区分の基準とする階層研究と階級研究はそれぞれ独自の対象を持ち、相互補完的な関係にあるのである。

2.階級概念の操作化と各階級の特性

2.1 階級概念の操作化の方法

 次に、SSMデータから回答者個々人の階級所属を操作的に判断する方法を考えよう。資本家階級と旧中間階級については、従業上の地位にかんする回答から判断することができる。すなわち、経営者・役員は資本家階級であり、自営業主・家族従業者は旧中間階級である。ただし、自分が経営者・役員であるか自営業主・家族従業員であるかの判断は回答者に任されており、不正確さが避けられないため、雇用規模に関する回答を併用し、両者の境界を雇用規模5人以上と未満の間に設定した。また、分析の目的に応じて旧中間階級を農民層と自営業者層の2つに区別することにする。
 残りの人々、すなわち被雇用者は新中間層と労働者階級からなる。この両者は職業によって、管理職・専門職・事務職は新中間層、他は労働者階級と区分することにする。事務職の中には単純な手労働に従事する労働者階級も含まれると考えられるが、今回のデータ は男性に限られたものであり、日本の雇用慣行では男性事務職はキャリアの上で管理職に連続しているのが普通であることから、この区分が適切と判断した。ただし、臨時雇用・パート・アルバイトの場合には事務職は労働者階級とみなすことにする。
 以上の手続きによると、1985年調査の回答者の階級構成は、資本家階級 6.3%、新中間層29.3%、労働者階級39.9%、旧中間階級24.5%(農民層 6.6%、自営業者層17.9%)である。図表3.1に示したのは、所属階級と職業の関係である。資本家階級は半数以上が管理職と、著しく偏った職業構成を持っている。これに対して旧中間階級はほとんどがグレーカラー・ブルーカラーと農業であり、とくに販売職と農業が多い。
 図表3.2は、55年から85年までの4回の調査から得られたサンプルの階級構成を見たものである。これは、この30年間の男性の階級構成の推移を近似的に表していると考えられる4)。ここに示されているのは、資本主義的生産関係が支配的な位置を確立するにしたがって旧中間階級が減少し、労働者階級と新中間層が増大していくという趨勢である。その変化は急激である。ただし旧中間階級の減少は農民層の減少によるものであり、自営業者層は減少していない。

             表3.1 所属階級別職業構成
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              職             業
所属階級 ------------------------------------------------------------------
      専 門 管 理 事 務 販 売 熟 練 半熟練 非熟練 農 業
----------------------------------------------------------------------------
資本家階級   3.6  51.1   5.0  18.0  12.2   6.5   1.4   2.2
新中間層   25.1  22.8  52.1   0.0   0.0   0.0   0.0   0.0
労働者階級   0.0   0.0   1.5  11.9  38.3  33.9  12.3   2.1
旧中間階級   6.1   0.7   1.9  25.9  27.6   8.7   1.9  27.2
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           表3.2 各年度のサンプルの階級構成
    ---------------------------------------------------------------
             1955  1965  1975  1985
    ---------------------------------------------------------------
     資本家階級    5.5%    8.4    6.2     6.3
     新中間層     17.0     23.1    25.9    29.3
     労働者階級    19.5     34.4    36.2    39.9
     旧中間階級    58.0     34.1    31.7    24.5
      農民層     39.3     18.0    14.3     6.6
      自営業者層   18.7     16.1    17.4    17.9
    ---------------------------------------------------------------

2.2 各階級の特性
 1985年のデータに含まれる属性や社会意識などに関する項目からみると、各階級は次のような特徴を持っている。
(1) 資本家階級
 学歴水準は新中間層に次いで高い。階層帰属意識は高く、「上」と「中の上」とで約半数(47.4%)を占める。階級帰属意識では過半数(60.4%)が「中産階級」と答え、10.4%が「資本家階級」と答えている。政治的には保守的で、61.9%が自民党を支持し、革新政党支持者は1割にも満たない。家庭の平均収入は 907万円と多い。耐久消費財や資産を多く保有しており、特に「スポーツ会員権(35.3%)」「株券・債券(54.4%)」の保有率は他に比べて格段に高い。仕事や収入への満足度は他の階級に比べてきわだって高く、また、いまの世の中は公平か、という問に対して「公平」「だいたい公平」と答える人(58.9%)が他の階級よりかなり多い。その意味では現状肯定的だといえる。経済的に豊かで、高い生活水準を持ち、自己の生活や社会全般に対して満足している階級である。
(2)新中間層
 高学歴者が多く、その比率は51.3%にも達する。階層帰属意識は中間的で、「上」と「中の上」の合計は29.4%である。階級帰属意識では62.0%が「労働者」と答えている。自民党支持者は37.0%だから必ずしも保守的ではなく、革新政党支持者も18.6%いる。家庭の平均収入は 638万円で、資本家階級に次いで多い。耐久消費財の保有率は資本家階級に次いで高いが、とくに「ピアノ(33.1%)」「応接セット(51.3%)」など文化的な性格をもつものの保有率の高さが目立つ。仕事や収入への満足度は低く、とくに収入に対して満足と答えたのはわずか12.3%にすぎない。政治意識は高く、「政治のことは難しくて理解できない」と答えたのはわずか 9.1%である。また、以前からのやり方を守ることが望ましい、目上の人には正しくないと思っても従うべきだといった伝統的・権威主義的な考え方に対しては反対する人が多い。今の世の中に対して、公平あるいはだいだい公平と考える人が比較的多い(43.2%)が、その一方で性別、学歴、思想信条といった個別の要因にもとづく不公平の存在には敏感である。経済的には比較的恵まれ、階層・階級帰属意識は中間的だが保守的ではなく、現代的な生活様式と価値観を持つ人々であると言える。
(3)労働者階級
 学歴は全体に低く、中学歴者が52.3%、低学歴者が41.0%である。階層帰属意識は低い。「上」と「中の上」の合計は22.2%にすぎず、「下の上」と「下の下」の合計が29.6%に達する。階級帰属意識では圧倒的多数の80.1%が「労働者階級」と答えている。自民党支持率は最低だが、それでも34.4%を占め、革新政党支持率の19.9%を大きく上回っている5)。家庭の平均収入は 468万円と最低である。耐久消費財や資産の保有率も低く、とくに「ピアノ(11.9%)」「スポーツ会員権( 3.8%)」「応接セット(29.7%)」など必需品でないものの保有率の低さが目立つ。仕事や収入に対する満足度は低く、とくに収入に対して満足と答えたのはわずか 9.2%である。政治意識は全体に低い。たとえば、「政治のことはやりたい人に任せておけばよい(39.8%)」「われわれが少々がんばったところで政治はよくなるものではない(55.7%)」の比率は最高となっている。今の世の中に対しては、「あまり公平でない」「公平でない」と考える人(66.7%)が多い。経済的に恵まれず、生活水準が低く、自分の生活や社会に対して多くの不満を持っているが、その不満が必ずしも政治的な改革の志向へと結びつかずにいる階級であると言えよう。
(4)旧中間階級
 全体に学歴が低いが、高学歴者も15.5%含まれているのが労働者階級と異なる点である。階層帰属意識は中間的で、新中間層よりやや低い程度である。家庭の平均収入は 468万円だが、収入の性質や今日の日本の税制を考えると、実際はこの数字以上に豊かだと考えてよいかもしれない。政治的には保守的で、56.2%が自民党を支持し、革新政党支持者は7.2%にすぎない。耐久消費財の保有についてみると、必需品の保有率は高いが、「ピアノ(18.2%)」「ビデオデッキ(44.6%)」など余暇活動・文化的活動にかかわるものの保有率が低い傾向がある。収入への満足度は低いが、仕事の内容や生活全般に対する満足度は資本家階級に次いで高い。伝統的・権威主義的な考え方を支持する傾向が強く、以前からのやり方を守ることが望ましい、伝統や慣習にしたがったやり方に疑問をもつ人は問題をおこす、といった考え方に賛成する人が多い。経済的には中間的、政治的にも意識の上でも保守的で伝統的な性格をもつ階級である。
 なお、各階級の所得、学歴、職業威信の格差の構造はこの30年間、基本的に変化していない。

3.階級構成の変化と階級所属の決定要因

 先に見たように、日本社会の階級構成はここ30年の間に急激な変化をとげてきた。絶えざる資本蓄積とそれに対応した生産過程の再組織によって特徴づけられる資本主義経済は、階級構成の変化への持続的な傾向を作り出す。この階級構成の変化は、大量の階級間移動によって実現する。言い換えると、階級構成の変化とは諸個人の階級構造への配分・再配分の過程なのである。
 いま、諸個人がどの階級に配分されるかを決定する主要な要因として、出身階級と学歴を取り上げよう。近代民主社会は、出自にもとづく身分制的な配分原理の否定を基調としている。しかし、これまで多くの階層研究が明らかにしてきたように、現代の先進社会にも出身階層によって所属階層が影響される傾向、すなわち階層所属の世代的な継承性は明らかに存在する。この傾向は「属性主義」と呼ばれ、学歴に代表される「業績主義」と対比されて、しばしば前近代社会の遺物であるかのように扱われてきた。しかし、階級理論の立場からすればこれには明らかな実体的基盤があるといえる。それは、生産諸手段の私有である。さまざまな制限はあるものの私有財産は基本的に相続可能であり、このことが階級所属の世代的継承を生み出すのである。だとすると、生産諸手段の私有に基礎を置く資本家階級と旧中間階級は、新中間層と労働者階級に比べて階級所属の世代的継承性が強いはずである。逆に、こうした基礎を持たない新中間層と労働者階級の出身者は、もっぱら学歴によって階級所属を決定されるだろう。というのは、学歴は企業が諸個人を採用し、経営内分業の中の諸位置に配分する主要な基準となっているからである。
 これに対して、今日の先進資本主義社会においては「所有と経営の分離」が進行し、私有財産に基盤を持つ資本家階級は消失しつつあるという主張がある。また、旧中間階級はその分解過程の中でこうした世代的な継承性を失ってきたと考えられる。つまり、資本 主義社会の変化が階級所属の決定要因に変化をもたらしている可能性があるのである。さらに、新中間層は非経済的で文化的な資源=文化資本6)の保有に基づいて階級所属を世代的に継承しているとする主張もある。この場合、労働者階級も資源の欠如という逆の理由から階級所属を世代的に継承することになる。はたして、事実はどうなのだろうか。

3.1 出身階級、学歴と所属階級
 図表3.3は、1985年のデータについての世代間階級移動表を示したものである。ここに示されているのは、旧中間階級の急速な分解過程である。この一世代の間に、旧中間階級は半数以下になった。旧中間階級出身者の最大の移動先は労働者階級である。その数は現在の労働者階級の56.4%にものぼる。新中間層の場合でも、41.1%は旧中間階級出身者である。戦後日本の資本主義は、わずか一世代の間に旧中間階級の半分以上を世代間移動の形で吸収してきたのである。しかし、こうした中でも階級所属が世代的に継承される傾向があることは明らかである。特に、旧中間階級では旧中間階級出身者が75.8%を占めており、旧中間階級出身であることは旧中間階級に所属するための必要条件に近いといえる。自営業者と農民層を区別すると、旧中間階級出身者はそれぞれ68.9%、93.6%で、特に農民層にこの傾向が著しい。資本家階級でも、全体ではわずか 9.1%にすぎない資本家階級出身者が37.7%を占めており、世代的な継承性はかなり強いとみられる。また、新中間層出身者の6割、労働者階級出身者でも過半数が父親と同じ階級に所属している。
 図表3.4は、学歴別階級構成表である。学歴と階級所属は強い関連を持っている。なかでも新中間層と労働者階級でこの傾向が強く、学歴が諸個人を新中間層と労働者階級に振り分ける主要な基準になっていることがわかる。これに対して、資本家階級と旧中間階級では学歴による差は比較的小さい。全体としては資本家階級は高学歴者、旧中間階級は低学歴者という傾向があるが、それでも例外が多く、学歴以外の要因が強いことがうかがえる。ここで重要なのは出身階級であると考えられる。実際、資本家階級出身者は中学歴者で29.6%、低学歴者でも11.1%が資本家階級に所属しているし、旧中間階級出身者は高学歴者でも26.1%が旧中間階級に所属している。この2つの階級は、学歴を越えた世代的な継承性を示すのである。

          表3.3 世代間階級移動表(1985年)
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              本人階級
       --------------------------------------------------------------
 父親階級  資本家階級  新中間層  労働者階級 旧中間階級 合  計 %
----------------------------------------------------------------------------
 資本家階級   46     59     34     42    181  9.1
 新中間層    16     161     72     19    268 13.4
 労働者階級   13     131     232     60    436 21.9
 旧中間階級   47     245     437     380    1109 55.6
----------------------------------------------------------------------------
 合計      122     596     775     501    1994
  %      6.1    29.9    38.9    25.1   100.0
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              表3.4 学歴別階級構成表
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              本人階級
       --------------------------------------------------------------
 本人学歴   資本家階級  新中間層  労働者階級 旧中間階級 合 計 %
----------------------------------------------------------------------------
 高学歴      50   341    52    84   527 23.8
        (  9.5)  ( 64.7)  (  9.9)  ( 15.9)  ( 100.0)
 中学歴      61   311   423   194   989 44.7
        (  6.2)  ( 31.4)  ( 42.8)  ( 19.6)  ( 100.0)
 低学歴      28    56   350   264   698 31.5
        (  4.0)  (  8.0)  ( 50.1)  ( 37.8)  ( 100.0)
----------------------------------------------------------------------------

3.2 階級所属の決定要因とその趨勢
 次に、階級所属の決定過程を時系列的に検討しよう。図表3.5は、出身階級と学歴がそれぞれの階級に所属する可能性に及ぼす影響力をコーホート別に示したものである。数字は数量化2類によって算出した偏相関係数と相関比(二乗値)である。主職時点での階級所属の決定要因を見るため、各年度の45-54 才のサンプルのみを対象とした。

    表3.5 出身階級と学歴による階級所属の決定(45-54才)
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           1955  1965  1975  1985
(出生年)       (1900-09)  (1910-19)  (1920-29)  (1930-39)
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(1) 資本家階級
偏相関係数 出身階級  0.296    0.171    0.151    0.150
      学歴    0.180    0.209    0.138    0.133
相関比         0.138    0.091    0.055    0.043
--------------------------------------------------------------------
(2) 新中間層 
偏相関係数 出身階級  0.169    0.150    0.144    0.197
      学歴    0.484    0.479    0.335    0.389
相関比         0.242    0.234    0.139    0.215
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(3) 労働者階級
偏相関係数 出身階級  0.277    0.146    0.149    0.135
      学歴    0.139    0.246    0.280    0.309
相関比         0.092    0.084    0.098    0.128
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(4) 旧中間階級
偏相関係数 出身階級  0.197    0.148    0.164    0.195
      学歴    0.308    0.283    0.123    0.151
相関比         0.154    0.099    0.051    0.068
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 資本家階級への所属についてみると、各コーホートを通じて出身階級の影響力が学歴に比べて相対的に強くなっている。ただし、出身階級の影響力は低下傾向にある。これは資本家階級の内部構成に占める経営者層の比率が増大したことと関係していると考えられる。資本家階級の職業構成をみると、30年間に管理職従事者の比率が33.3%から51.1%(全年齢層、以下同じ)に増大しているが、彼らのうち資本家階級出身者は26.8%である(1985 年) 。これに対して非管理職の資本家階級の場合は、資本家階級出身者が39.7%に上るのである。ただし、相関比は低く、出身階級と学歴の影響力は強いとは言えない。
 新中間層では、一貫して学歴の重要性が高い。新中間層出身者の高学歴比率は30年間を通じて全体の2倍を越えているから、このことは新中間層の世代的継承性を高める結果になっていると見られる。さらに近年では出身階級の影響力が増大している。新中間層出身者は、学歴が同じ場合でも労働者階級出身者より新中間層に所属しやすい傾向がみられるが、この傾向は1975年から1985年の間に強くなっているのである。こうして、図表6にみるように新中間層の世代的な継承性は強まることになった。
 労働者階級では出身階級と学歴の影響力が1955年から65年にかけて逆転し、学歴の重要性が増大していることが注目される。これは、低学歴者は出身階級にかかわりなく労働者階級に所属するようになるという構造が確立してきていることを示すものである。労働者階級出身の低学歴者は、この30年間を通じて60-70 %が労働者階級となっている。これに対して旧中間階級出身の低学歴者では、労働者階級となったのは1955年では18.1%に過ぎなかったが、1985年では44.5%に増加し、旧中間階級(45.6%)とほぼ等しくなる。この間、旧中間階級は労働者階級の担い手の巨大な供給源となった。1955年には、旧中間階級のうち中・高学歴者は多く(58.7 %) が他階級に流出し、低学歴者は家業を継ぐという構造が明確に見られた。この構造は1985年までにほとんど崩れた。今日では、旧中間階級は学歴にかかわらず大部分が他階級に流出し(高学歴者73.9%、低学歴者54.4%)、一定部分が旧中間階級になるという傾向を示している。それでも、旧中間階級にしめる旧中間階級出身者の比率は1955年が83.2%、1985年でも75.8%と依然として高い。この結果、旧中間階級への所属を決定する要因としての出身階級の比重は高まることになった。
 ただし、旧中間階級については次の点を付け加えておかねばならない。それは、この30年間の間に、自営業者層と農民層の性格が大きく異なるものになってきているということである。これは自営業者層と農民層それぞれの非移動率の推移をみれば明らかである(図表3.6)。自営業者層の非移動率は35%前後でほぼ一定なのに対し、農民層の非移動率は62%から18%へと急落している。また、農民層出身の高学歴者で農民になる者はほとんど皆無なのに対し、自営業者出身者では高学歴者の34.5%までが旧中間階級となっている。この過程で、「あとつぎ」として農業を継ぐはずだった長男の非移動率も低下した。出生順位別に見た非移動率は、1965年では第1位が52.7%、第1位以外が22.4%と大きく異なっていたが、1985年ではそれぞれ23.3%、16.5%とあまり変わらなくなっている。ことに、若い世代では農業を継ぐ者がほとんど例外的といってよいほどに減少している。さらに注目すべきことに、農民層から自営業者層への移動が増大している。1985年ではその比率は15.1%に達し、旧中間階級の28.8%を占めるにいたっている。急速に分解過程をたどってきた農民層に対して、自営業者層は家業が一定の比率で継承され続けるとともに農民層からの転身者を受け入れ、日本社会の中で安定した位置を占め続けてきたのである。

    表3.6 各階級の非移動率の推移
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        1955  1965  1975  1985
-----------------------------------------------
 資本家階級  0.198  0.362  0.220  0.254
 新中間層   0.451  0.523  0.492  0.598
 労働者階級  0.545  0.608  0.597  0.530
 旧中間階級  0.670  0.444  0.397  0.343
  自営業者層 0.377  0.321  0.342  0.341
  農民層   0.616  0.355  0.296  0.183
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4.要約----階級構造の変動過程と階級所属の決定

 以上の分析から得られる示唆をここでまとめておこう。
 戦後の日本社会は急激な階級構造の変動を遂げ、それにともなって階級構成は大きく変化してきた。それは、旧中間階級の減少、新中間層・労働者階級の増大というものであった。この変化は旧中間階級から新中間層・労働者階級への大規模な世代間階級移動を通じて生じた。前資本主義的生産様式の内部に発生した大量の相対的過剰人口は、世代間階級移動の形で資本主義的生産様式に吸収されていったのである。この過程は1960年前後から急速に進行しはじめた。この過程で、旧中間階級出身者がどの階級に所属するかを決定したのは学歴であった。すなわち、高・中学歴者は新中間層になり、低学歴者は後継ぎであれば多くが旧中間階級に、それ以外の人々は労働者階級となったのである。
 しかし、次第に旧中間階級の内部で自営業者層と農民層の分化が起こってくる。農民層は急速に分解を続け、農民層出身者の中で農業を主職とする人々は、学歴の高低にかかわらず、まったくの少数者となった。これに対して自営業者層では、次世代の一定割合が学歴の高低に関わらず家業を継承し続けるとともに、農民層からの転身者を受け入れていった。こうして、自営業者層は社会諸階級構成の中で一定の比率を占め続けることになった。自営業者層への所属は学歴の高低によってはあまり左右されない。その意味で、自営業者層は学歴主義的な配分原理と無関係な領域を構成しているといえる。
 一方、農民層分解の進行とともに旧中間階級が階級構成上の多数者ではなくなると、新中間層と労働者階級は新中間層・労働者階級出身者によって補充される傾向を強めてくる。その際に彼らが新中間層と労働者階級のどちらに所属するかを決定したのはやはり学歴であった。これが、今日における学歴による階級所属の決定のもっとも重要な特質である。このなかで、新中間層出身者は学歴水準を急速に高め、そのことを通じて世代的な連続性を強めていった。しかし、出身階級は強くはないが学歴とは独立の影響力を一貫して持ち続けた。学歴が同一でも、新中間層出身者は新中間層に、労働者階級出身者は労働者階級に所属する可能性が高いのである。新中間層は、労働者階級と明確に区別される生活水準と意識を持つとともに、学歴その他の非経済的資源の継承を通じて世代的に再生産する、労働者階級とは区別される集群=「階級」となりつつあるとみてよいだろう。
 資本家階級への所属は出身階級によって決定される度合いが高い。しかし、資本家階級における経営者層の比率の増大により、出身階級の影響力は減少傾向にある。ただし、資本家階級は数的にも少なく、新しいメンバーの決定の仕方も多様であると考えられ、むしろインテンシブなケーススタディに適しているかもしれない。
 しかし、こうした変化の中にあっても各階級の所得、職業威信、学歴などの格差は依然として保持されており、意識や生活の違いも大きい。また、労働者階級と新中間層の分化も進んでいる。日本社会はさまざまな変動を内に含みつつも、依然として階級的に分化した社会なのである。

[注]
 1)日本では、国勢調査をもとに近代日本社会の階級構成の変遷を分析した大橋隆憲(1971)の研究がある。大橋の階級区分の方法は「大橋方式」として多くの研究者によって用いられ、国勢調査のたびに新しい階級構成表が算出されている(戸木田嘉久,1986;広瀬勉,1988)ほか、岩井浩(1978)の地域別階級構成表、大橋隆憲(1984)の世界規模での階級構成表などの成果がある。しかし、これらは階級構成の実態把握を目的としたものであり、社会学的な階層研究とは性格が異なる。欧米ではマルクス主義的な階級論の立場からいくつかの実証的研究が行われてきたが、実際の分析には通常の職業カテゴリーが用いられていることが多い。しかし近年では、E.O.Wright(1976)の研究を端緒として、マルクス主義的な階級カテゴリーにもとづく実証研究が増加傾向にある。代表的なものとしては、Wright(1979),Wright,Hacken,Costello & Sprague(1982),Marshall,Newby,Rose & Vogler(1988),Ahrne,Blom,Melin & Nikula(1988)などが挙げられる。
 2)ここで従来広く用いられてきた「所有」という概念を用いなかった理由については、橋本(1986,p.p.45-6) を参照されたい。
 3)この人々はどの階級に所属するかというのが、ここ20年ほどの階級理論の最大の焦点であった。本稿ではこの問題に直接に回答を与えるよりも、新中間層という暫定的なカテゴリーによって処理しておくこととする。
 4)「近似的」といわなければならないのは、SSM調査の回収率が対象者の属性によって異なるからである。職業と従業上の地位の分類法が異なるため厳密な比較はできないが、1985年の国勢調査によると、階級構成は資本家階級 3.7%、新中間層26.1%、労働者階級49.4%、旧中間階級20.8%である。
 5)1975年では革新政党支持が29.5%と自民党支持28.2%を上回っていた。労働者階級はここ10年間、政治的に保守化してきたのである。この中では特に低所得労働者や中小企業労働者の保守化傾向が著しく、しかも自分は労働者階級であると考え、生活に強い不満を持つ層ほど自民党支持率の上昇幅が大きい。同様のことは新中間層についても見られる。新中間層や中下層労働者の不満は、革新政党ではなく自民党によって吸収されるようになったのである(詳しくは、橋本[1-5] を参照)。したがって、自民党が重大な失政を犯したり、革新政党がこうした不満を吸収する能力を獲得すれば、政党支持の構造に大きな変 化が起こる可能性はあると言えるだろう。
 6)Bourdieu & Passeron(1970=1977)を参照。

[参考文献]
Ahrne,G.,Blom,R.,Melin,H. & Nikula,J.,1988,Classand Social Organization in Fin- -land,Sweden and Norway,Uppsala University.
Bourdieu,P. & Passeron,J-C.,1970,La reproduction,Minuit.,Nice,R.(tr.),1977,Reproduction,Sage.
橋本健二,1986,「現代日本社会の階級分析」, 『社会学評論』,146.
岩井浩,1978,『現代日本の地域階級構成』, 関西大学経済・政治研究所.
Marshall,G.,Newby,H.,Rose,D. & Volger,C.,1988,Social Class in Modern Britan,Hutchinson.
Marx,K.,1868,Das Kapital bd.1.,(向坂逸郎訳,1968,『資本論第1巻』, 岩波書店. )
大橋隆憲,1971,『日本の階級構成』, 岩波書店.
大橋隆憲,1984,「現代世界の階級構成」, 坂寄俊雄・戸木田嘉久・野村良樹・野澤正徳編『現代の階級構成と所得分配』, 有斐閣.
Wright,E.O.,1976,Class Boundaries in Advanced Capitalist Societies,New Left Re- view,98.
Wright,E.O.,1979,Class Structure and Income Determination,Academic Press.
Wright,E.O.,Hachen,D.,Costello,C.& Sprague,J.,1982,The American Class Structure,A.S.R.,vol.47(December).


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