カビールの詩篇から

野坂政司


2

わたくしたちが 
どのような神のことを語ってきたのか
わたしは知らない 
呼びかけるものが 
夕暮れに
大声で 
聖なるものに呼びかける
どうしてだろう
もちろん 聖なるものが耳を傾けないわけではない
かれには
虫が歩くとき 
その足で鳴る繊細な足首の飾りの音が聞こえる
おまえの数珠を 念入りに調べなさい 
おまえの額に 奇妙な模様を描きなさい
おまえの髪をもつれさせ 長くして みせびらかしなさい
けれども おまえのなかの深いところに危険な武器があるとき
おまえに どのように 神がありうるだろう?    




学ぶ人よ 
わかりやすい純化をしなさい
クリの木の内側に その種子があり
その種子の内側に 
その木の花と クリと そして木陰とがある
それで 
人のからだの内側には その種子があり
その種子の内側には また人のからだがある
火 空気 大地 水 そして空間  
もしおまえがあの秘密のものを欲しくないのなら 
こうしたものも おまえは手に入れることができない
考える人よ 聴きなさい 
魂のなかにはないものについて何をおまえが知っているか 
言ってくれ
水がいっぱいに入っている水差しを取って
それを水に入れなさい
そうなると 
それは内側に水があり 外側に水がある
愚かなものたちが
からだと魂について再び語り始めるから 
それに名前を付けてはならない
もしおまえが真実を欲しいのであれば
わたしがおまえに真実を語ろう
あの秘密の響き 
あの本当の響きに耳を傾けなさい
それはおまえの内側にある
だれにも語られることの無い人が 
その秘密の響きを自分だけで話している
そしてそのひとがそれをすべて創った人である



16

わたくしたちに
聞こえていても 
いなくても
無限の笛が鳴っている
わたくしたちが愛と言っているものは
流れ来るその響き
溢れ出たいちばん遠い端を
愛が越えるとき
愛は 智慧にたどりつく
ひろがるそのかぐわしさ
それには 
終わりがない
それは
壁をとおりぬける
その旋律の形は
百万もの太陽のように輝いている
このヴィーナには真実の音がある
この響きを 
おまえはどこか他のところで耳にしたことがあっただろうか


22

わたしは 
水と波との違いについて
ずうっと考えてきている
高まりながら 水はやはり水であり
落下しながら それは水である
どうやって区別するのか 
わたしにそれとなく教えてもらえるだろうか
だれかが 「波」 という言葉を 作り上げてしまったから
わたしが それを 水と 区別しなければならないのだろうか
わたしたちの内側には
至高のブラーフマがいる
その手の中を
星雲のすべての惑星が
数珠のように通り抜ける
そのひと続きの数珠を
ひとは輝く目で見つめなければならない


35
    

聞きなさい 
ともよ
このからだは 
かれのダルシマ
かれが 弦をぴんと張ると 
そこから 内宇宙の音楽が現われる
その弦が切れ 
駒が倒れると
塵でできたこのダルシマは 
塵に帰る

カビールは語る
ブラーフマが
そこから音楽を引き出せるただ一人のもの