● (EISEI.15) 逆ヘテロダイン方式について (1993年 11月18日)
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今回は実際のアナログ通信をするときに必要になる逆ヘテロダイン方式について
解説します。デジタル衛星も含め各衛星ごとに使用できる周波数帯が決まってい
て、アップリンク周波数とダウンリンク周波数の関係として、次のようなモード
があります。その周波数の切り替えは各衛星に搭載されているトランスポンダー
と呼ばれる中継器により自動的に行われます。
+------+--------------+--------------+--------------+
|モード| アップリンク | ダウンリンク | 衛星(例) |
+------+--------------+--------------+--------------+
| A | 144MHz帯 | 28MHz帯 | RS-10/11 |
+------+--------------+--------------+--------------+
| B | 430MHz帯 | 144MHz帯 | AO-13.AO-21 |
+------+--------------+--------------+--------------+
| J | 144MHz帯 | 430MHz帯 | FO-20.AO-16 |
+------+--------------+--------------+--------------+
| K | 21MHz帯 | 28MHz帯 | RS-12/13 |
+------+--------------+--------------+--------------+
| L | 1200MHz帯 | 430MHz帯 | AO-13 |
+------+--------------+--------------+--------------+
| S | 430MHz帯 | 2400MHz帯 | AO-13 |
+------+--------------+--------------+--------------+
このモードの中で使用周波数が具体的に決められており、さらにアナログ通信に
おいてはドップラー偏移の影響を少なくするために、逆ヘテロダイン方式と呼ば
れる、このアップリンクとダウンリンクの周波数の和が一定になるように、トラ
ンスポンダーは製作されています。
たとえば、FO-20 の JAモード(アナログモード) の送信受信の関係として、
アップリンク周波数(u) : 146.000MHz 〜 145.900MHz
ダウンリンク周波数(d) : 435.800MHz 〜 435.900MHz
u+d=581.800MHz
AO-13 の Bモードでは、
アップリンク周波数(u) : 435.573MHz 〜 435.423MHz
ダウンリンク周波数(d) : 145.825MHz 〜 145.975MHz
u+d=581.398MHz
となっています。 なお、このダウンリンク周波数の下半分は CWバンド、上半分
は SSBバンドとして使用する習慣になっており、たとえば FO-20 では 下領域の
435.800〜435.835MHz が CWバンド、真ん中の 435.835〜435.865MHz が CW/SSB
ミックスバンド、上領域の 435.865〜435.900MHz が SSBバンドとなっています。
AO-13 では、下半分の 145.825〜145.899MHz が CWバンド、上半分の 145.900〜
145.975MHz が SSBバンドとなっています。 また通常、ダウンリンク信号が USB
となるように、アップリンク信号は LSB とするのが慣習となっています。
FO-20 の JAモード, JDモードの正確な運用時間は、JARL のテレフォンサービス
で確認できます。 AO-13 は、衛星の位置と姿勢 (用語MA など、後日解説) によ
って衛星がより良い状態で動作できるよう、各々のモードが切り替わりますので
その情報については JAMSAT の資料等で確認します。
ところで 送信受信一体型の無線機、たとえば TS-790(KENWOOD) の場合、最初に
受信周波数帯をワッチして、空いている周波数を確認した上、そのダウンリンク
周波数を SUB側に設定し、サテライト通信という機能をうまく使うことによって
この 逆ヘテロダイン方式に対応するアップリンク周波数をワンタッチで MAIN側
に設定することができます。
なお、無線機の他のスイッチ類は次のように設定しておきます。
SQL ... スケルチボリュームは反時計方向に回し切り、
開放しておきます。
AGC ... AGC回路の時定数を切り換えるスイッチです。
FAST:AM, CWデータ通信を受信する場合。
SLOW:SSB受信の場合。
NB ... パルス性ノイズの多いとき、ON にします。
ATT ... 強力な信号の受信の際、ひずみをなくすために信号を
減衰させるスイッチなので、通常は OFF にします。
RF ... 高周波増幅段の利得を最大にするため、ボリュームは
時計方向に回し切っておきます。
ALC ... 送信したとき、ALCメーターが ALCゾーンの範囲
を越えないように MICボリュームを調整します。
PROC ... 平均出力を上げたいとき、ON にします。
この設定だけで送受信できればよいのですが、そう簡単にはうまくいきません。
特に、FO-20 のように上空 1500km ほどの低空を高速で移動する衛星では、当然
ドップラー偏移を考慮しなければならないのです。
この続きは次回、解説します。
《参考》 改訂版 衛星通信 飯島進 著 CQ出版社
HF入門ガイド CQ誌'93 10月号第2付録
http://www.asahi-net.or.jp/~ei7m-wkt/furoku37.htm
この記事を書いたのは、自局が衛星通信を始めた初期の頃 1993年11月18日の
ことです。17年後にタイムスリップして、2010年12月30日に JE1CVL局が書か
れた次の記事をここに補足します。
http://heiseiturezuregusa.blog.ocn.ne.jp/a/2010/12/1230_c825.html
【逆ヘテロダイン】
Webサイトで、JH2CLV局の「About SSB Inverting with Frequency Heterodyne」
http://www5a.biglobe.ne.jp/~jh2clv/ssbinvert.htm を読んでいたら、「局発
周波数を IF より高く取ることで逆ヘテロダインが行われ、SSB が反転する事が
分かる」という一文がありました。長野で会った DS1MFC 朴さんは、「FO-29 と
VO-52 の SSB がうまくいかなくて...」のようなことを言ってました。事実 VO-
52 を聞いていると、なぜか Down が LSB だったりします。まさか送受信機を自
作していて、局発の取り方が 高い,低い逆で、「LSB→LSB」もしくは「USB→USB」
になってしまっているのではないとは思いますが...
話は変わり衛星のアナログトランスポンダーの場合、「ドップラーシフトの影響
を少なくするため」逆ヘテロダインにしているわけですが、ヘテロダインにしな
い場合とでは地上で受ける周波数に約 20KHz差が出ると説明されています。
V/U、AOS時の衛星での周波数変換 @ヘテロダインでない場合 145.955→435.855、
A逆ヘテロダインの場合 145.955→435.845、 Bここで 10KHz変換の差が出てい
ます。起こり得るドップラーで加減算すると、結果として 20KHzの差が出るとい
うことです。(下図参照)
また,「Supersonic heterodyne」とは「うねり」のことであり、「5球スーパー」
で言う「スーパーヘテロダイン」の語源と言えますが、『...2つの周波数を混合
すると 新たに2つの周波数が生じ、一方は元の周波数の和となり、もう一方はそ
れらの差になる。この現象を「ヘテロダイン」という』 であるので、 Bここで
10KHz変換の差が出ているのは「それらの差」であり,「逆ヘテロダイン」という
説明で良いと解釈しています。下図は急遽作ったものですが、JH1BCLさんとこの
件について問答した時の資料を参考にしました。 BCLさんTnx.
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