六神石神社と日出神社の「誘い込んだ狛犬」


■六神石神社


 翌日はよく晴れたのですが、いろいろ回っているうちに時間が経ち、午後には滝観洞(ろうかんどう)という鍾乳洞を見に行くつもりだったので、早めに遠野を後にしました。
 途中、六角牛神社というところに寄ろうと思っていたのですが、道が工事中で迂回させられるうちに通りすぎてしまいました。でも、ここでもまた「このまま遠野を後にしていいのだろうか?」という思いが強くなります。
 そこでまた助手席の妻に「やっぱり戻るぞ」と告げ、道の途中から脇道に入っていくと、ナビゲイター役の妻が「ここからなら六神石神社のほうが近い」と言います。でも六神石神社は山奥で、道も未舗装路で頼りないんですね。
 それでも突き進んでいくと、のんびり畑仕事をしている人たちが見える小さな集落に、その神社はありました。

 奥に新しそうな量産型狛犬がいたのですが、そこまで行く気も起きないくらい、手前にいた小さな狛犬に釘付けになりました。
 前日、倭文神社で劇的な対面を遂げた、あの「呼び止めた」狛犬と同タイプのものです。しかも、今度はなんとか台座の銘が読みとれました。宝永7年と読めます。「宝」の部分が少し不鮮明でしたが、その後の「庚寅」ははっきり読みとれます。「○永」という年号は、新しいものから順に嘉永、安永、宝永、寛永とありますが、「7年」があって、その年が庚寅なのは宝永だけです。間違いなく宝永7年(1710年)! 今から300年近く前の狛犬なのです。
   この狛犬、前日の倭文神社にいた「呼び止めた狛犬」よりは明らかに新しそうでした。ということは、倭文神社の狛犬はもっと古い可能性があります。

■Data:六神石神社(遠野市青笹町瀬内)。ο建立年・宝永7年。ο撮影年月日・97年10月9日。



■日出神社(遠野市土淵)



 さて、急いで滝観洞へ向かおうとすると、国道の脇に大きな鳥居が……。新しい鳥居だし、こういう神社には狛犬がいても、工場生産の定番狛犬なんだろうと思いつつ、なぜか果敢に脇道にそれていきました。
 その先は道路工事中で、工事現場に迷い込んでしまったのですが、もう一度戻ってトンネルをくぐると、山奥へ続く細い未舗装路があります。
 鳥居の新しさ、巨大さに比べて、この道の心細さはなんだ? でも、意地で車を進めました。
 日出神社はよくある新しい護国神社系の神社ではなく、山の中のひっそりとした社でした。そこで待っていてくれたのが、このファンキーな顔の焼物狛犬。
 建立年度は昭和16年。奉納者は村の青年団。太平洋戦争勃発の年に、村の青年たちがお金を出し合って建立した狛犬。この狛犬に込められた願いはなんだったのでしょう。恐らく、仲間たち、恋人たち、親たちが無事に戦地から戻ってくること……だったのではないでしょうか。
 当時、この狛犬を建立した青年団の人たちはまだ生きているでしょうか。いろいろな思いがよぎりました。




■Data:日出神社(遠野市上郷町)//ο建立年月・昭和16年11月。ο奉納者・東細越男女青年団。ο撮影年月日・97年10月9日。



次へ続く
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