倭文神社の「呼び止めた狛犬」

 遠野での最大の収穫は、土淵にある旧村社・倭文神社の「呼び止めた狛犬」です。
 これはまさにドラマでした。

■倭文神社(遠野市土淵)



 この日は雨が降っていて、ぱっとしない旅行になりつつありました。
 そのうちふっと、地図にも出ていない山の奥の神社に行き着きました。案内板には「旧村社倭文神社」とあります。かつては村の鎮守様として大切にされていたのでしょうが、今は寂れてしまっているようです。そもそも、何気ない道祖神さえ名がつけられている民話の里・遠野の地図に載っていないというのはあまりにも情けない話です。
 暗い山の中に入っていく寂れた参道を一目見ただけで、同行していた妻は「これはいないわね」と一言。僕も雨の中を山に登る気力がなくて、一度はUターンしました。
 しかし、車道に出て数百メートル行ったあたりで、「行っちゃうの?」という声が聞こえたような気がしました。
 その声は小さくて、大きな威厳のある狛犬の声ではありません。僕の好きな、小さくて素朴な狛犬の呼び声。
 それで、助手席の妻に「なんか呼んでいる気がする……」と言うと、「じゃあ、戻れば?」という答え。
 思いきって引き返し、車の中に呆れ顔の妻を残して、一人暗い雨の参道を登りつめると……。
 いた!
 まさにあの呼んだ声のイメージにぴったりの、苔むした小さな狛犬がいるではありませんか。寛永年間くらいの制作でしょうか。太った猫くらいの大きさで、四つん這いになっている円丈さんの言うところの「江戸はじめ」というタイプ。
 きみたちが呼んだんだね……と、思わず涙が出そうになりました。






■Data:倭文神社(遠野市土淵)//ο製作年・石工など不明。ただし、次のページの六神石神社の宝永7年より古そう。ο撮影年月日:97年10月8日。




次へ続く
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