としこおばちゃんが久しぶりにやってきた。

母の年の離れた姉で、八十八歳。
二十年前の手術で頭とおでこがところどころへこんでいる他は
とにかくぴんぴんしている。

おおらかで、面白いことばかり言っているおばちゃんの半生は
朝ドラのヒロインもびっくりの波乱万丈のはずなのだが
いつ会ってもひょうひょうと、
私なんかともテレビなんぞ眺めながら
なんでもない会話でたのしく時をすごす。

昨日はじめて、おばちゃんが俳句をよむと知った。
寺に嫁いだおばちゃんは九十を前に今も広い寺の掃除をかかさないのだが
掃いたり拭いたりしているときに はっ と思いつくそうだ。
ものすごくいいのがうかんだので書きとめておこうと思い
書くものを取りに行くと、忘れてしまう。
なんとか思い出すのだけれど、いじくりまわしているうちに
ちょっとおかしなことになって、
どうしてももとのええのにはもどらんの、という。

偶然あったはしり書きをみせてもらった。
これはだめなやつだけんと言っていたけれど
機知に富んだ、すばらしい句。
でもおばちゃんは、
いじくりまわしとるうちに
最初のええとこがのうなったけんねー、
と心から残念そうに言った。

覗き見される以外、人の目にふれることはない言葉を
思いついたときにひねり、推敲する。
私はまたおばちゃんに 頭が下がりました。