サイツのこと

サイツ:大原裕(トロンボーン)船戸博史(ベース)芳垣安洋(ドラムス)

1990年の前後、サイツというバンドが京都のセサモという店に毎月出ていました。
わたしはこのバンドからとても大きな影響を受けたので、少し書いてみようと思います。

サイツの曲は殆どがトロンボーンの大原さんの曲なんですが、どれも本当にいい曲。簡単な音しか使っていないのに、どうしてこんないいメロディが書けるんだろうと思います。魔法か手品をつかったみたいなメロディです。それを、すぐれた演奏者である3人が、テーマ、フリー、ソロといったパーツを組み合わせて料理していくわけなんですが、見る見るうちにストーリーが生まれて、その展開に息を飲みます。

このバンドのすごいところは、そのスリルのある展開が、どんな人にも聞こえて楽しめるところ。前述のセサモというお店はスペイン風居酒屋で、普段はピアノソロやスパニッシュギターの生演奏をききながらお酒や食事を楽しむ場所なので、ライブ目当てでないお客さんがほとんどです。でもそういう人達も、わざわざサイツを聴きにきた人も、いつの間にかサイツの音楽に耳を奪われ、次の展開に胸をおどらせ、体をゆらしたり時には踊ったりしていました。ぐんぐん盛り上がった演奏があざやかにテーマに戻ったときなど、店中から「ほうっ」というため息のような声が漏れきこえたものです。

音楽とかリズムの事がとてもよくわかっていて、うたごころも持ち合わせ、かつ技術のそなわった、気持ちが自由で、センスのよい人たちが演奏するいい曲、たのしい音楽。いろんな種類のお客さん、つきだしくらいのチャージ、おいしいお酒.......。セサモでのサイツのライブは、いまでも私のなかの理想のライブのひとつです。

サイツをききはじめたころの私はまだバンドをしていなくて、目的もなく一人スタジオで好きな曲を歌っていました。過去にやっていた音楽は、どのパートもいつも同じ事を弾いてノリを追及するみたいな音楽で、またジャズは恐そうで難しそうという偏見をもっていたので、ひとりで部屋で自由に歌う世界とバンドの世界が結びついていなかったのですが、サイツ体験後、聴く音楽聴く音楽がジャンルに関係なく自分の中に入ってくるようになり、その後はじめたビジリバやふちがみとふなとで、一人の歌の世界と誰かと一緒につくる音の世界が、はじめて結びついたのでした。そういうことについては、サイツだけでなくアフリカ旅行なんかもからんではいるのですが、とにかく、サイツは私にとって、ものすごく大きなきっかけとなったバンドなのです。今では前でエラそうに歌ってますが、はじめてフナトさんに誘われてデュオの練習をしたときなんか、「サイツのふなとさんだ」と思っておもいっきしキンチョーしました。

サイツのCDは過去2枚でていますが、残念ながらここ数年ライブは行われていません。でもCD以前の、まだほとんど知られていなかったサイツがセサモで毎月お客さんを沸かせていた頃につくったテープが、2001年春、CD化されました。そのテープは当時、手に入れた人からどんどんダビングされて広がっていき、それは「本当にいい音楽には聞かれる力がある」ということを目の当たりにしたような出来事でした。
フナトさんは本人なので、昔の自分にあ゛〜って思うところもあるみたいですが、私はファンなので嬉しいです。ぜひ一度、聞いてみてください。


SIGHTS : EL SUR(エル・スール) OFF NOTE/NON-6/\2000
(吉田ハウス宛メールで通販もできますが、DiskUnionとかにもあるそうです)

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