握手

ミュージシャン、特に女性ボーカルには軽やかに握手のできる人が多い。
対バンしてさよならをするときなどに「さっ」と格好よく爽やかに。
しかもその手はたいがい小さくて細くて冷たい。
が、私は挨拶といえば「おじぎ」なので、
さよならを言いかけた時にはすでに体が前方に傾きかけており、
さらに冷え性とは無縁の体なので、手はいつも ほかほか で ごつい。
握手しながら「ああっごめんね、ほかほかで。」と思う。
また「さっ」と手の出てくる人は、私側がファンである場合が多く、
そうなると傾きかけた体がさらに傾き、喜びや感謝の言葉を唱えながら
去ってゆくエビのようにどんどん後ろにさがってゆく感じになり
ある時など「そのまま後ろの壁をつきやぶるかと思った」と言われた程の
ウルトラ日本人ぶりを発揮したりして
好きな人に握手してもらって嬉しいけれど
慣れない風習で挨拶するのはどうにも照れくさいことや
そんな握手が「さっ」とできる人に対するあこがれやらがこんがらがって
一瞬の間にすっかりコーフンしてわけがわからなくなってしまう、のである。
だから私は、手が小さくて細くて冷たくて「さっ」と握手のできる人にあこがれる。
なろうとは思わないけど、ああかっこいいなあ、なんて
女優さんなんかを見るように思ってしまうのだ。

そんな私に、ちょっと種類が違うけれど握手してほしいと言って下さる方がたまにおられ、
わたしもそんな握手を求めることがありそれはわかるので
ええでもその相手がわたくしなんかでよいのでしょうかすみませんなどと心の中で思いながら
感謝の念を込め片手を差し出すのですが、やはりその瞬間なじまない風習に戸惑う心が生じ
握手した相手の手をさらにもう片方の手で包み込むようにすれば
どこの挨拶でもないようなことになりはしないだろうかなんて思って
もう一方の手をそうっと、添えたりしています。
握手した記憶のある方だけ、よかったら思いだしてみてください。
したことない方は、いじめないでください。

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