首領桜

旅先で出会ったフナトさんに、京都で再会した。
そのとき聴かせてくれた音楽が、ドン・チェリーだった。
わたしは「音楽をやめる」と思って旅に出たのだけれど、旅をするうち音楽をやるとかやめるとかってどういうことだったっけ、というかそもそも何でそんなこと思ったんだっけ、とそんな心持ちになって、帰国してからはまた一人家で歌うようになった。
でもそれは自分だけの密かなたのしみであって、自分の音楽を堂々と人前で演奏しているひとは全て眩しく、ギターとかアンプを見るだけでも鼻血が出そうになるくらいだった。
そんな時にきいたのが「Home Boy」。ドン・チェリーが歌っているアルバムだ。
特に気に入ったのが「Butterfly Friend」で、この歌が最高だと思った。というか、正確には「こんな歌でいいんだ」と思ったのだった。
これを聴いて、雨戸を閉めた部屋から一歩ふみだし、ひとりスタジオにこもるようになった。
人前にでるようになるためにはさらに時間を要したのだけれど、歌いたい背中をぽんと押してくれる一枚となった。
数年後、少しは人前に立つようになった頃に、ドン・チェリーが日本にやってきた。
ドラムがポール・モチアンのOld and New Dreams。
憧れの人のライブだ。
でもその日のドン・チェリーは、浮いていた。
ひとりだけ、張りきりすぎていたのだ。
でも、それがまた、よかった。
「ドン・チェリーも、うくんや。」
私にとって大変貴重で重要なライブ体験となった。

とはいえ、やっぱりドン・チェリーのミーハーファンである私は、同じくミーハーなフナトさんとともにライブ前に購入した中古レコードをそれぞれ胸に抱え、「サインしてください。」とチキンジョージの楽屋にのりこんだ。
ドンチェリーは「やーやーやー」と予想通りのC調な感じで気軽に応じながら、わけのわからん落書きでジャケットを台無しにしてくれた。
私たちの情け無いサインともつかぬ落書きは50パーセント、ドン・チェリーをお手本にしています。

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